これまでとこれからについて
「――その時爺さんが見つけてきたのが今僕の使ってる『秘密暴き』の御業。」
世界規模で各国に蔓延る非合法商売の一部が暴露された事件から一夜が経過した。
魔術紙で作られた朝刊では、どれも「デュオ事件」が表紙を彩り、世界を震撼させた。一夜にしてまだ各国で彼の家が持つ土地から救出された奴隷の数は把握されておらず、予想では10000人を突破するだろうとさえ言われる。
首謀者たるデルタ・デュオは逮捕され、別件で余罪があったオモルフォス・デュオも騎士に連行されたと報じられている。
騎士に捕縛された時点で、各国からの罪状が殺到。奴隷商売という非人道的行為を扇動、実行した嫌疑で100件の罪が突き付けられた。
また、犯罪組織のハウンドに至ってもどういった原理か不明だが路上で昏倒した状態で発見されたらしい。そのまま、お縄を頂戴した。幾人かの主要幹部を除き全員が拘束されたと報じられた。
さて、ではテンプスたちはと言えば――特に何もなかった。
というのも、屋敷の崩壊について責任を取らされる危険性があったので、あの直後に逃げだしたのだ。
改めて考えればそんなこともない、学生にそんなことができるはずがないのは明白だし、疑われることもなかったとは思う。
しかしながら、あの時のテンプスは疲れきっていた。何と言っても、馬車の追突でダメージを受けた後で、マラソンして、魔女の呪声で攻撃された挙句、戦争の英雄とやりあったのだ。
いくら古代の技術を駆使していても、体と頭が耐え切れなかった。
グースカ寝ているサンケイを回収し、這う這うの体で逃げ帰って、叔母の自宅に届けて、自宅で泥のように寝た。
学園については休校となっているらしい。期間は不定とのこと。
最も、彼がそれを知ったのは次の日、学園に来てからのことだった。
とはいえ、これも考えてみれば当然のことかもしれない。
オモルフォス・デュオは学園の生徒だった。悪を挫く正義を養成する学園に在籍していた秀才であり、学園の顔と言っても過言ではなかった。
数々の学校案内の資料や学園側での保護者説明会などにも登場する学園の女神が、まさか世界各国で巨悪を働いた父親と父親の威光を振りかざし裏で横暴を働いた生徒というのはあまりにも風評が悪い。
生徒もいたずらに他言しないよう緘口令が敷かれ、教員たちはこの事実をどう隠蔽するか躍起になっているのだろう。
そして、テンプスは今日もいつもの研究個室にいた。
休校中であっても研究個室は使えるのは彼にとっては僥倖だった。
誰にも知られずに罪を暴いた男は、今日も今日とて特に変わらずに日常を過ごしていた。
これほどの大事件を解決しても彼の日常に変化はない、いつも通り蔑まれて、いつも通り嫌われている―――
まあ、学園が休校だったので、煩わしい授業に出なくてもいいという点で彼はこれを報酬だと認識しているようだったが。
何はともあれ、彼は今日も自分の机に向かい、一月後に迫っている恒例の厄介事のための装備を準備するために、何かよくわからない式やら表を紙に書き留めて唸っていた。
マギアが研究室の扉を叩いたのはそんな時だった。
「――あの鎧について聞きたいんですけど!」と言いながら目を輝かせて入ってきた後輩に、あの日見たほの暗い影は見受けられない。
昨日の約束もあった彼はその声を受け入れた――何時もの様にだ。
「爺さんが調べた通り、この技は僕の体を守ってくれた。僕と爺さんは『自身のオーラパターンの防的な変質』と呼んでいた。生粋の秘密暴きなんかは心臓の鼓動がパターンを示すこともあったらしい。」
「そのオーラっていうのは?」
「オーラってのは……説明が難しいんだよな。ある程度高度な知性を持つ生物が持つ力――的な?全ての生き物、に内在する精神の力。ただ、この計り知れない内なる力を解き放ち、伸ばすことができるのはごく限られた修業を積んだ存在だけだ。で、僕はその技術を手に入れた。」
「まあ、必要に迫られてだけど。」と言いながら苦笑したテンプスをマギアはどこか名残惜しさのようなものを漂わせながら見ている。
「僕が人並みに生きていけるのはこれのおかげだ、周囲にまき散らされる魔術や魔力に体が過剰に反応するのを防いでくれる。まあ、自分の内から湧き上がる魔力はどうにもならんし、攻撃的な術を防ぐほど強いエネルギーとなると時計が必要だが。」
「ほー……じゃあパターンって言うのは?屋敷でなんか言っていましたよね。」
「パターンは……僕には少なくともそう見えてる。あらゆるものが動いたり生まれたりすると生まれる――流れ……みたいなものを『秘密暴き』はそう呼んでる。生物、非生物、物体、現象、社会にすらある流れ、太古スカラーの人間はこれをオーラでもって操って魔術に代わる力を行使してた、僕もまあ――入口ぐらいには立ってると思う。」
「へー……しかし、大変だったんですねぇ先輩も。」
「君ほどじゃないが――まあ、それほど恵まれた生ではなかったな。」
感心したように告げる彼女にあやふやに笑って見せる、自分よりも大変な人生を送っている人間にそう言われてしまうと、彼としても困りものだった。
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