第8話 出張×出張

 出張に行くと、なぜか夜遊びしたくなる。土地の料理を味わい、地酒をたしなみ、そして人肌が恋しくなる。家庭を出た解放感、知らない土地での冒険心、いつもと違う非日常感、そうした感覚のなかで、街行く女性たちがみな綺麗に見えてしまう。


 ある日本海側の中核都市にて仕事も無事終了し、夕飯も食べ、ビジネスホテルに入ると時刻は20時。まだ寝るには早い。一人ですることもない。スマホで土地のフーゾク情報を検索してみると、デリバリーの案内が目に入った。嬢の姿やプロフィールをスマホで気軽に参照可能なシステムである。宣伝用だけあって、どの娘もかわいい。しかしお値段がそこそこ高い。ちょっとリーズナブな店を探すと、”30代人妻の店”なら大丈夫そう。早速、電話を掛け、ホテル名と部屋番号を伝える。


 遠い昔若かった頃、自分のアパートに彼女が訪ねてきてくれるときの待つ感覚を思い出した。自分が相手の家に押し掛けるより、相手から来てもらう方が何かうれしいものだ。

 待つ間は、期待と不安でどきどきする。モンスターが送り込まれてきたらどうしよう?一方、相手側にとっても、なんともリスキーな商売といえる。客が悪性ヘンタイや狂人だったとして誰が助けてくれるのだろう?


 そうしていると、約束の時間にコンコンとドアを叩く音がした。ドアを開けると、30半ばくらいの、人妻というよりショップの店員さん的なメイクの女性が部屋に入ってきた。嬢とユニットバスに入って身体を洗い、そしてベッドに戻る。横になったわたしを嬢は口で包み込んでくれた。行為が終わると肩までもんでくれ、温かみと情のある女性だった。台湾の女性であった。嬢が去るときは、彼女が帰るみたいで、とても寂しく、切なかった。出張した時の出張サービス。まさに瞬間恋愛。

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