第2話 勉強と妄想
33歳のわたしは、フーゾク童貞であった。あたまの中は仕事や家庭のことと同じくらいエロい妄想が占有しているにもかかわらず、まじめで潔癖にみえるわたしは、会社の同僚と飲んだ帰りにフーゾクに誘われることはなかった。結婚前に数人の恋愛経験はあるものの、このままフーゾクを知らない人生を送るのは、それはちょっと物足りない気もする。そんなとき、場末の雑居ビルの怪しげな看板が目に留まったのは、あるきっかけがあった。会社員として中堅に差し掛かったころ、ビジネスにおけるカネの流れや仕組みをきちんと理解していないことに思い至り、経営管理の通信教育を受け始めた。すると財務だけではなく、マーケティングや人事などにも知的好奇心がくすぐられ、ついには30万円もの金額を払い、ある経営管理の国家資格の受験学校に通うことにしたのである。月から金までは会社で仕事、土曜一日はその学校に通う日々が始まった。やらされではなく自ら申し込んだだけに講義自体は興味深く、有意義に聴講するのだが、さすがに一日座学を受けていると、集中力が切れ、妄想があたまの中を占有してくる。その学校は大阪の天満という場末の繁華街の外れにあり、学校に至る道筋にはいくつものフーゾクの看板が掲げられていたのだ。33年の人生で見知らぬ世界、ちょっと危険かつ魅惑的な気配が漂う。
このままでは妄想に侵され勉強に専念できない。わたしは、勉強への使命感からその門をくぐろうと決意したのである。雑居ビルにはいくつかのフーゾク店が入居しており、エレベータのない階段を3階まで上がり、「ファッションヘルス ガンバ」という店のドアを開けてみた。壁に貼られたメニューでコースを選び、1万円札を男子従業員に渡し、つりの千円札を数枚受け取った。そして小さな待合室に座り、所作なく雑誌を手に取る。初めてのフーゾクにひとりで飛び込み、何もわからず不安と恐怖と緊張、そしてその先にある未知なるものへの期待感、あるいは恥ずかしさという感情がぐるぐると巡っている。
ほどなくして、男子従業員に小さな部屋に案内された。そこには狭い小さな簡易ベベッドにバスタオルが敷かれ、なんとも湿っぽい不潔な印象の空間であった。ちょっと怖くなり、チキンなわたしは逃げ出したくなる。すると嬢が入ってきた。うっ、かわいい!それまで、フーゾク嬢とは頭のおかしい粗暴なオンナというイメージを持っていたが、まったくフツーの女子、茶髪ではあるが化粧は濃くなく、ちょっと内気そうなショップの店員さんという感じの女の子、20代前半であろうか?さっきまで、怖気づいていたわたしは、一気にハイテンションになった。そう、瞬間恋愛におちたである。
嬢はわたしを半畳ほどのシャワー室につれていく、お互いに何も身に着けない状態で、嬢の意外に豊かな胸が手の届くところにある。嬢は石鹸でわたしの身体を洗い、シャワーで流した。一方、嬢は恥ずかしそうに眼をそらすと自らの股間に一瞬シャワーのお湯をかけた。人前で自らの股間を洗うという行為に恥じらいを持っていることに、わたしはいとおしさを募らせた。
ベッドに戻ってから、嬢の指示で横に伏せると、嬢はわたしの身体を口んだ。しばらくすると、今度は嬢はわたしの顔の上にまたがった。この時点で、わたしの頭脳はは驚きと感動で破壊されていた。フツーの女子がわずかなカネで、自らの身体をさらし、そして他人のおとこに口で奉仕する。これがファッションヘルスというものか、心も身体も満たされて、夢遊病者のようにふわふわとした気持ちで、わたしは店を出た。こんな天国みたいなところ、なんで今まで経験しなかったのだろう。
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