第三章 もふちゃんに吐露する思い
3-1
私は急いで家の
それを持って後を追う。
「オスカー様!? ……あれ? え? もう、いない」
すでにそこにオスカー様の姿はなく、
シンと静まり返った周囲から、人の気配はしない。
「早い……もしかして庭を
そう思い、庭の方へと視線を向けると、
「え?」
そこから
「え? も、もふちゃん?」
「んなぁ」
また会えるなんて思ってもみなかった。
私はもふちゃんを
「あったかい。もふちゃんだぁ。夢じゃなかったんだぁ。
私はもふちゃんを部屋の中に入れると言った。
「オスカー様のことを
「なぉ! にゃ! なぉ――ん!」
「え? どうしたの? あぁ。
私はそう告げて、
この時間になると人とすれ
私は王家専用の居住区の入り口に立つ門番へと声をかけた。
「すみません。本日第二王子
無事でいてくれればいいがと思ったのだけれど、門番は首を横に
「いや、まだお戻りにならない」
「え? 分、かりました。ありがとうございます!」
私はもしや
オスカー様があれだけ急いで、
せめて心の中で、病気ではありませんようにと祈る。
結局私は不安な気持ちのまま、とぼとぼとした足取りで部屋へと帰った。
「なぉーん」
「なぉ……」
もふちゃんは動きを止め、私はもふちゃんの
「す――――――はぁぁぁぁぁ」
明日になればきっとオスカー様の無事が分かるはずだ。私はそう自分に言い聞かせる。
「はぁぁぁ。オスカー様、
「なぉ」
一回一回しっかりと
「賢い! もふちゃん、賢い!」
「な……ぉ」
顔をなんだか
「オスカー様……はぁ、心配。早く
「なぉ」
私は鍵をしっかりかけたのを確かめ、それからもふちゃんの
「お
「なぉ」
「もふもふしていい?」
「な……ぐるる」
本当に
「かーわーいーい! はぁぁぁ!」
私はもふちゃんを抱きしめると頭を
「なぁ! にゃ! なぁぁあ!」
可愛すぎる。キスされるのが嫌なのかもがくけれど、決して
「はぁぁぁ。可愛い。
「にゃぁぁ」
しばらくすると私をどけるのは無理だと
やりすぎたかなと、私はもふちゃんの前で正座をして謝罪する。
「やりすぎました。ご
「なぉ……」
可愛い。
私は言葉を本当にやり取りしているようなもふちゃんが、可愛くて可愛くて、またもふもふとしたい
「さて、もふちゃん。私はお
「なっ……ぉ」
「あ、もふちゃんも
せっかくだからもふちゃんがもっともふもふになるように綺麗に洗おうと私はもふちゃんを抱き上げかけたのだけれど、今までにないほど
「え? お風呂
きっと抱きしめたらそれはそれは幸せな気持ちになるであろうくらいに。
そう思ったのだけれど、もふちゃんは
これは絶対に嫌だという意思表示なのだろう。
私は、すごく
「分かったよ。もふちゃん。じゃあ一人で行ってくるね」
「みゃぉん」
残念だなぁと思いながら私は出来るだけ早く入浴をすませた。
お風呂から上がるとだいぶさっぱりとした気持ちになる。
「もーふちゃん」
私はもふちゃんを抱き上げて、
「みゃぉぉぉぉ!」
どうしたのだろうか。
お風呂上がりは暑いので短いナイトドレスで過ごす。このナイトドレスは
そして、ここには
髪の毛を
「はぁ……」
もふちゃんも鏡の前へやってくると、少し驚いたように私の瞳を覗き込んだ。
「あれ。もふちゃんも、もしかして気になる? 眼鏡で
「みゃ……」
私は笑うと、自分の目を見つめながらため息をついた。
「なんで私の髪や目はこんな色なんだろう……こんなんだから、メイフィールド家の
もふちゃんが心配そうに私のことを見ているので、私はもう逃げないのかなと思って抱き上げると、膝へのせた。
もふちゃんは少し体を
「メイフィールド家は、
「っ……」
私は、もふちゃんに話しかけながら、小さくため息をついた。
「そんな私の周りには誰もいなくてね……私、よく図書室で
不安を
「お母様に見つかってね、
体が
「どうしよう……魔力を、使ってしまった。使ってしまった」
今では魔力を持っていることが知られたとしても、社会的に見れば
魔力そのものについても学び、
ではなぜ怖いのか。
自分の心の中に、
まだ、私はあの頃の
「どうしよう……どうしよう。平静を保って、何ごともないようにしていたけれど、怖い」
「みゃ!」
「え?」
私のことをぎゅっと抱きしめるように、もふちゃんが手を伸ばしてきた。
驚きながらも私はもふちゃんをぎゅっと抱きしめ返す。
「ありがとう……私、私……これからどうなるんだろう」
人から
私は小さくため息をついてから、もふちゃんを抱く腕に力を入れる。
「オスカー様に、嫌われたくないな」
「みゃっ!?」
「え? もふちゃん?」
もふちゃんは私の顔が見えるように体を引くと鳴き始めた。
「みゃ、なぉ、みゃむぁ、みゃみゃみゃみゃ」
「
「みゃ!? みゃ、みゃぁぁぁぁ」
「ふふふ。だってね、女性が働いているのにも
「みゃ……なぁん……」
「え? その顔は、え? うーん。分からないけれど、もふちゃんって表情
そのあとなんともいえない声でもふちゃんが鳴くものだから、つられて私は笑ってしまう。
「今度
室内が寂しく感じられて、私はふと思いついたことを呟く。
「みゃぁ」
「ふふふ。いいアイデアって思ってくれてる?」
やっぱり人の言葉を理解しているみたいで、本当だったらいいのにと私は
深夜二時
この魔法具は職場からのコールであり、最初は
まさか深夜に呼び出しかと、私はがっかりとしながら起き上がる。もふちゃんもハッとした様子で飛び起きて、あたりを見回してから、こっちを向いた。
「もふちゃん、ごめんね。職場から緊急の呼び出しだから行ってくるね」
「みゃ? みゃみゃみゃみゃんみゃ?」
驚いた様子のもふちゃんは私の足元をとてとてと歩き回るけれど、私は
外に出ようとしたところで、ドア前にもふちゃんが
「もーふちゃん。行ってほしくないの?」
「みゃみゃみゃみゃぐるにゃ」
「え? 何それ。すごく可愛い」
私はどうしようかなと迷って、思いつくと、大きめのカバンを持ってきて口を広げた。
「もふちゃんも一緒に行く? こっそり」
「みゃ……みゃん」
なんともいえない表情を浮かべたのち、もふちゃんはカバンの中にすっぽりと入り込み、私はそれを
ずっしりとした重みを感じながら、もふちゃんを膝にのせて仕事が出来ると想像すると、幸せすぎて顔がにやけそうになる。
部屋には明かりがついており、ロドリゴ様の姿があった。どうやらロドリゴ様も叩き起こされたようで、大きなあくびをしながら、私の机の上に資料を積んだ。
「なんでも、急ぎらしい」
「そうなのですか……」
「ああ。今日お前が使った魔法陣だが、王城にも資料として提出しろと言われている。魔法陣を
「え……今ですか?」
「そうだ。
「……分かりました」
明らかにロドリゴ様よりも私に振られた仕事の量が多い気がする。その上こちらは報告書もか。
仕方がないかと、私はもふちゃんの入っているカバンを膝の上にのせて、作業を始めた。
カバンの口を開けているので下を向けばもふちゃんを見られる幸せ。もふちゃんは眉間にしわを寄せている。
魔法陣
「出来ました」
「おう。ご苦労だった。他の仕事も緊急性が高いらしくてな、俺はこれを
「え? 魔法使い様……もしかして王国筆頭魔法使いのアルデヒド様にですか?」
「ああ、早急に持ってきてくれと
まさかロドリゴ様が雲の上の人であるアルデヒド様と関わることがあるなんてと内心驚いてしまう。
そしてさらにびっくりしたのは、ロドリゴ様がカバンに筆記用具などの私物をまとめて部屋を出ていったことである。
私は
急を要する仕事なのは仕方がないのだろう。だけれど、自分はここに残されて働いて、ロドリゴ様は書類を届けたら家へ直帰する。
私は魔法陣射影師として騎士団に協力したつもりなのだけれど、ロドリゴ様にとってはさぼりになるらしい。
もふちゃんは飛び出ると、
「どうしたのもふちゃん?」
「がるるる!」
「怒っているの?」
「みゃんみゃ、みゃみゃーみゃ!」
「え、かばんに入ってたの嫌だった? 怒っている姿も可愛い。ごめんね」
「みゃ……みゃあぁ」
何を言っているのかは分からないけれど、もふちゃんが私のことを心配してくれているのは伝わってきた。
心が癒やされる。
けれどおそらくもふちゃんには飼い主がいるだろう。早くおうちを見つけて返してあげなければならない。
「ちゃんと飼い主さんのところに戻れるからね」
「……みゃ」
返したくないなと思うけれど、きっと飼い主さんも必死で捜しているだろうから。
もふちゃんの頭を撫でながらひと時の癒やしを楽しんだ。
私はそれから着々と仕事をこなしていく。はっきり言って、すでに四時間くらいは眠っているのでいつもより進みが早い。
やはり
一段落したところで私は体をほぐすように大きく
「もふちゃん、かばんに入ってくれる?」
そう呼びかけると、もふちゃんは少し迷ったようなそぶりを見せたあとに、小さくため息をついてカバンの中へと潜り込んだ。
なんだか本当によく言葉を理解している気がする。
私はカバンを
各部署それぞれ夜勤の職員が詰めており、私は担当ごとに必要な書類を確認しながら
私はノルマを終えると、あくびを噛み殺して宿舎へと帰った。
あと三時間は眠れそうだ。時計を見て頭から
「あぁー……
「みゃ~」
私を
「もふちゃんが私の家族になってくれたらいいのに」
その言葉に、もふちゃんの体が
「おやすみ。もふちゃん」
「なぉーん」
もふちゃんとずっと一緒にいたいなと思いながら、私は夢の世界へと落ちていったのであった。
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