1-3
*****
夜が深まり、間もなく明け方となる時刻。
白い獣は本来の姿を取り戻し始める。青白い光に包まれ、もふもふの体は、
「やっと、戻ったか……はぁ」
先ほどまで小さくなっていたからか、筋肉が凝り固まっているような気がして、軽く体を動かした。
それから、
「拾い
とにかく一度引き
だがしかし、奥の部屋が現在物だらけだと先ほど見ているので知っていた。
おそらく奥にベッドがあると思われるが、その上にも色々な物がのっていることが推測出来る。
自分のために、急いで片づけてくれたのが申し訳なくて小さく息をつくと、床に先ほど敷いてくれたふわふわのタオルケットを広げる。その上にメリルをいざ抱き上げて寝かせようとして驚いた。
「ちゃんとした食事をとれていないのか……? こんなに軽くて大丈夫だろうか」
そっと横たえる時、目の下にも隈が出来ているのに気づき、さらに心配になる。
「……自分も疲れているというのに、
あまりにも
残れば明らかな
「ありがとう。いずれ礼をしにくる……」
すやすやと
「アルベリオン王国第二王子オスカー・ロード・アルベリオン、王国騎士団に所属している。いずれこの恩は返す。本当にありがとう」
もちろん聞こえてはいないだろう。だけれど、どうか、覚えていてくれたらいいのにと、なんとなくそうオスカーは思う。
そして、人に気づかれないように外へと出ると、持っていた魔法具を使ってメリルの部屋の
一転してオスカーは急ぎ足で王城の渡り廊下を歩いていく。
彼女が住んでいるエリアさえ
ここまで来ればもう大丈夫。
自室へと入ったオスカーは
運ばれた紅茶を一口飲むとほっとする。
アルベリオン王国の祖は
それは国民の知るところでもあり、建国神話として
もっとも伝承は事実であるため、先祖返りを果たす者がたまに現れるのだけれど、それは王族だけの秘密とされてきた。
基本的に王位は
その時に国を二分するほどの争いが起き、それ以来、獣化出来たとしても公表されることはなくなった。
オスカーは祖の血を
幼い頃からというわけではなく、その血が目覚めたのは半年ほど前なのだが、未だ力を
たいていの場合は深夜の二時から明け方とに、三時間程度姿が変わるだけなのだが、たまに体調を
今日は騎士団の仕事でかなり
王城内に動物が入ることは基本的にない。そのため、もし他者に見つかってしまえば、捕まり城下へと放り出される危険もあった。
なのでメリルが一時的に保護してくれたのはとてもありがたいことであった。
「はぁ……。申し訳ないことをしてしまった」
「どうにか、メリル嬢にお礼をしなければ……このままでは、男として情けない」
女性とは
このままでは男が
オスカーはどうにかメリルと知り合う機会はないだろうかと頭を悩ませながら、異様に自分が彼女のことばかり考えていることに気がついた。
出会った瞬間から、そわそわするような不思議な感覚があり、これは一体なんなのだろうかと胸に手を当てる。
その時、ノックの音が聞こえオスカーが返事をすると、部屋に国王であり兄であるルードヴィヒが入ってきた。
「お前が朝まで帰ってこない日は私にも
ルードヴィッヒの言葉にオスカーは顔を少し
「やめろよ。いつの間に兄上にそんな報告がいくことになったんだよ」
「仕方がないだろう。それで、今日はどうだったんだ?」
ルードヴィッヒの質問に、オスカーは大きくため息をつくとメリルのことを話した。
「研究棟から出てきたメリル・メイフィールド嬢に拾われて、一晩世話になったのだ」
その言葉にルードヴィッヒは眉間にしわを寄せると、足を組み直す。
「今回は無事にすんだが、何があるか分からない。真夜中には必ず部屋にいるようにしてくれ。私も気が気ではない」
自分を案じるその言葉にオスカーはうなずくと、
「もしや、捜していてくれたか?」
「ああ。まあ
「申し訳ない……」
オスカーに、ルードヴィッヒは
「大丈夫だ、気にするな」
「今後は
「ははは。まあまた突然獣化してしまった時には、メリル嬢のところに遊びにいけばいいじゃないか」
「兄上、ご冗談を」
「冗談になるといいのだがな。いいか。今後絶対に深夜二時までに部屋に帰るように。いいな。そしてもし戻れない時には、メリル嬢の宿舎を
オスカーは頭を掻きながらなんとも答えられずにいた。
メリルを巻き込むわけにはいかない。ただし、もふもふ姿の自分を愛おしそうに抱きしめたり撫でたりする彼女の姿を思い浮かべ、オスカーは、また会いにいきたいななんてことも考えてしまう。
また胸のあたりがそわそわする。
「どうした?」
「いや……メリル嬢に出会ってから、なんだか、この辺がむずむずするような、変な感覚があるのだ」
その言葉に、ピクリとルードヴィッヒの
何か言いたげだけれど、言うべきか迷っている様子の兄に、オスカーは首を傾げる。
「兄上?」
「いや……とにかく、無事でよかった」
「何か、気になることでも?」
「……昔、
その言葉に、オスカーは笑う。
「何を言っているんだ。そんな……まさか」
二人は笑い合い、ルードヴィッヒは立ち上がる。
「まあ……何か進展があればまた教えてくれ。さて、私も戻ろう」
「心配をかけてすまない」
オスカーの獣化は現在最重要機密となっている。
事情を知る人物は出来るだけ少ないほうがいいだろうと判断され、オスカーは
ただしなかなかうまくはいっていなかった。
これではいけない。
焦るばかりではかどらず、オスカーは試行
「とにかく、無理はしないようにな」
「兄上、本当にありがとう」
「ああ。ではな」
ルードヴィッヒが部屋を出ていく。オスカーはその背を見送ったあと、大きくため息をついてからベッドの上に倒れ込んだ。
とにかく一度仮眠を取ってから、騎士団へと出勤しなければならないだろう。
「……メリル嬢は大丈夫だろうか」
またメリルのことを考えてしまったオスカーは、運命の相手という言葉を思いながら
体が疲れているのだろう。オスカーはすぐに意識を手放したのであった。
その数時間後、王国にとって
知らせを受け
まさかメリルに仕事の協力
二人の運命はカチリと動き出した。
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