第4章 夢の中で
朝になってしまった。だがまだ家を出るにはあと4時間もある。秋の朝はもう寒い、布団から出る気にもなれずに僕は目をつぶっていた。夢を見た。彼女が夢に出てきたのである。僕はまだ明るくなっていない海岸にいた。月川愛は海岸に座って悲しそうな顔をしていた。
彼女は美しい真っ白なワンピースを着ていた。彼女は僕を見つけても何も言葉をかけてこない。僕の顔を見た後、彼女はまたゆっくりと目線を暗い海に戻した。全く気力というものを感じられず、まさに死んだ人のような顔をしていた。いったい彼女はなにを背負って生きてきたのか。僕が見てきた彼女は何だったのか。彼女は何を思いながら僕と付き合っていたのか。彼女は僕のことが好きだったのか。わからなかった。僕は彼女から10歩程離れた場所で、ただ彼女を眺めることしかできず声をかけることができなかった。
水平線から朝日が昇ってきた。鳥の鳴き声が聞こえて来る。彼女は目線を動かすことはない。ただ何もない海を眺めているのである。僕は何を話したら良いのか分からず、ずっと彼女を見つめた。彼女がこちらを見ている。彼女は突然微笑んで
「。。。。。。」
何を言っているのか僕には聞こえなかった。だが彼女が微笑んでかけてくれた言葉は何か特別なものに違いないと僕は彼女に聞き返そうとした。僕が彼女に近づいて声をかけようとした時、セットしていたアラームが僕を無理やり現実世界に引き戻した。
彼女が微笑んでくれた時僕はどれほどまで幸せだったか。彼女と別れてから幸せなど感じられていなかった。ただ偽りの愛情に縋り自分の心を騙していないと生きて行ける気がしなかったのである。夢の中で彼女が微笑んでくれた時、僕はとても幸せだった。彼女の微笑み以外もう何もいらなかった。彼女の微笑みは例えようがない程にとても美しかった。その微笑みはもう見ることができないのだ。
大学になど顔を出す気にもなれなかった。16時発の電車までにはあと6時間もある。僕はコンビニまで歩き暖かい缶コーヒーを買い、ベランダに行き、今日も平和に人が生活している街を眺めて煙草を吸った。
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