第38話断罪
父上は僕に聖騎士時代の活躍をよく話してくれた。
そして聖騎士に憧れ剣を学んでいた、だからひと目見て解ってしまった。
死んだ……父上が…
ユリアン……彼女の構えには全く隙が無かった。
対して父上は緊張している、勝てないのは父上もわかっているんだ。
息子としては父上に逃げてよ!と言うべきのなのはわかっている。
だけど言えなかった、僕は父上の命よりも彼女を一秒でも見ていたいと言う思いに駆られていた。
もと男だろうが、今の彼女は美しかった。
剣の構えただけでも見惚れてしまった。
おそらく男だった時も綺麗だったのだろう、父上が肉体関係を持っていたというのも納得できた。
父上は睨んでいるが彼女は涼しい顔をしている。
「その細腕で受け止めた!?」
父上の渾身の打ち込みを彼女は顔色1つ変えず受け止めた。
体格差により彼女のリーチは父上より短い、そのハンデを持ってしても彼女は優位だった。
動きに無駄がなく、華麗でまるで舞のようだ。
物語に出てくる姫騎士が悪役貴族を成敗してるようだ。
やられてるのが実の父で無ければ、僕は熱狂し大声で応援していただろう。
父が膝をついた時点で僕は現実に戻った。
父上は僕を放置気味ではあったが、愛情はあったと思うこのまま見殺しにするのは躊躇われた。
「父上!ユリアンさんに謝罪を!」
「命乞いをしろと言うのか!?」
「ユリアンさんとの関係は聞きました!母上との結婚の時にちゃんとしなかったんですよね?」
僕が父上に謝罪をさせようとすると彼女は首を横に振った。
「セシル…もう遅いんだ…私は先輩に良い縁談があれば黙って身を引く気だった!だが!先輩は私が帰郷してる内に別れの挨拶一つなく聖騎士団を去ったんだ!それがどんなに悲しかったか!」
父上は剣を杖の様に何とか立ち上がる、多くの血がながれている。
「急な縁談で言う時間がなかった……結婚後も領地運営の引き継ぎや改革で時間が取れなかった…」
「十年も忙しかった?手紙を出す事も出来ない位にか?」
そんなことは無い、少なくとも僕が物心つく頃には時間があった。
父上は母上や僕よりも酒に費やす時間が多かった、飲むだけでは無く、蒸留酒関係の本をよく読んでいた。
「悪いと思っていたから団長に推薦したんだ」
「巫山戯のも大概にしろ!子爵の推薦など、教会所属の聖騎士団長の就任には殆ど関係はない!」
彼女の言い分は正しい管轄が違うし、本当に書面で推薦したところで無視されただろう。
彼女は実力で聖騎士団長になったのだ、そもそも彼女が父上に求めてるものは心からの謝罪だったのだろう。
彼女の斬撃が父上の体を削って行く、父に対する悲哀はない。
彼女の斬撃は只々美しかった、僕は正気では無いのだろう……
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