第20話聖女

気持ちが悪い。

「痛かったら言って下さいね」

本心を隠しマニュアル通りに仕事をする。

薬で無理やり竿を起立させ男性客の尻に入れる。

決められ時間内客の要望に合わせ尻を掘り続ける、それが堀師の仕事だった。

「オプションで発射できますが?どう致しますか?」

客にオプションをすすめる、金の為とは言え気持ち悪い。

俺は客の要望通り口に発射してやった。

最後に体を洗ってやり、笑顔で「また指名お願い」しますといった。


「イオ君、女装して受けできる?」

一仕事終え休んでいると店長が声を掛けてきた。

受けとは尻を売ること、女装希望と言う事は客はノンケか…

ノンケなのに何故男を買うのか?

答えは女の尻は高いか、問題のある女しかやらないからだ。

良い女はメインホールだけで勝負できる、なので女で尻を売りにしてる奴はブスかデブかババアかとにかく容姿に問題がある奴が多い。

だから尻で勝負できる美女はとんでもなく高い。

「わかりました……」


結局あれから二人に掘られた、金にはなるが辛い仕事だ、妹にはやらせたくない。


「ただいま!」

尻の痛みを我慢し家に入る。

「お帰りお兄ちゃん、聖女様来てるよ!」

そこには本物の聖女がいた、護衛の聖騎士も一緒だ。

「お邪魔してます」

俺は彼女の姿を見て心臓の鼓動が早まるのを感じた、自分でも分からない感情に焦りを感じる。

「こ、このあいだは助かりました…」

何だこれは?まるで女慣れしてない小僧みたいじやないか。

女の客も沢山居たというのに彼女の前だと調子がくるう。

「これを…」

彼女は俺に封筒を渡してきた。

「私の教団が運営してる学校の推薦状です、妹さんを良い学校に通わせたいのでしょう?」

「……」

「聖都にある学校で無料と言う訳にはいきませんが、孤児などは学費の減額などがあります、この学校は営利ではなく社会の為と言う側面が強いのです……卒業後は教団に入れとかないので好きな職につけます」

理解出来なかった、聖女と言われる高貴な人が何故、男娼の妹に推薦状を?

「聖女様の気まぐれか?」

自然と嫌味がでた、何故か心がかき乱される、俺が彼女に抱いてる想いはなんなのだ。

「貴方が目の前に居たからです…」

「目の前に?」

「私は聖女と言っても、世を見通す目も、万人に差し出す手も在りません……それでも目の前に倒れた人が居れば助けたいのです」

ただ目の前に居たから助ける?

馬鹿な……多くの人間は俺達のような者など居ない者として扱うのに……

「明日の慰霊祭が終わればこの国を離れます、その前に出来る事をしたかった……」



慰霊祭当日、この日だけはほぼ全ての店が休んで犠牲者の為に祈る、俺の務める店も休みだ。

国が滅びかけたほどの疫病、それの発端が獣姦だと言うのだから生まれ故郷ながら呆れる。

普段は妹と家でゆっくりしているのだが、聖女の姿を観に来たのだ。

慰霊祭の会場は老若男女、役人、兵士、商人、娼婦、男娼、様々な職業の者があつまる。

皆地味な色合いの私服なのだが、雰囲気でわかるやつも多い。

花で飾られた祭壇に聖女が現れた。

場が静寂に包まれた、彼女は昨日とは別人の様な気配だった、神秘的、幻想的、そういう非日常的な存在に見えた。

胸が痛い……彼女と俺は住む世界が違うのはわかっていたはずなのに!

「聖女アナ・ホールです、今日は疫病の犠牲者とこの国を支える全ての人々……そして娼婦や男娼の方が病魔に襲われないように祈ります…」

会場がざわつく、聖女が娼婦と男娼の為に祈ると言ったのだ。

どんなに管理しようと性産業は常に病気の恐れはある、だが彼らの為に祈るとなどという聖職者がいただろうか?

彼女は本物の善人……いや聖女だ。

彼女が祈り始めるとまるで、彼女の゙体が光り輝く様に視える。

その光景に人々は涙する、俺も気が付くと涙を流していた。

ああ……ようやくわかった、俺は彼女に恋をしていたんだ……



慰霊祭のあと俺は仕事を辞めて、聖都の酒場で働いている給料はだいぶ下がったが、男娼時代の蓄えもあるので妹がまともな職につくまでは何とか成りそうだ。

聖女アナの推薦状は、効果抜群で妹はすんなり学校に入れた。

彼女はあの国で俺達兄妹だけでなく、慰霊祭のあの発言で多くの人の心を救った。

故郷のプソーでは娼婦と男娼の為に祈った聖女と語り継がれるだろう。
















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