第134話 苦しまなくていい


この凄まじい圧力の中、光以外は皆意識がなくなっていた。

サイメンバーはクマも含め全員倒れていてピクリとも動かない。



光は環の冷徹な笑みと、周りの暗黒を前にどこか冷静だった。



そうか……

影憑石を奪い、盗んでいた理由は最初からこれをやるためか……

亜斗里のいない世界で、自分より上の権力を無くし、自分が絶対的君主としての独裁国家を築くため……

亜斗里のように、優秀で強いエスパーの世界を創りたいんじゃなくて、

自分に抗うエスパーも人々も、全員を皆殺しにして新たな思想を築くため……


敵ははじめからコイツだったんだ。





" 忘れないで。

光は闇より強いんだよ "



そうだ。

俺は光だ。どんな闇をも凌駕する。




ギギギギギ


力を振り絞って立ち上がろうと動き出す光に、環の笑みが徐々に消える。




変えなくちゃ未来を。

俺が変えるんだ。


母さんも俺もみんなも

安心して幸せに生きられる世界に。



ググググググ



ついにユラユラと立ち上がる光に、環は目を見張る。


馬鹿な……

これは数万人の影の圧力だぞ……

京でさえ、伊央里でさえも、立ち上がることはおろか、呼吸すらままならない戦闘不能状態だというのに……



顔を上げた光に、環はゾクッと背筋が凍った。

カッと見開いたその目が、見たことないほどおどろおどろしい雰囲気を醸し出していたからだ。



「ふん……だがしかし、今の状況ではいくらお前でも力を発揮できないだろう。足掻いても無駄なんだ。

可哀想だが、ここがお前の最後だよ月詠光」



さらに圧力が増し、光は口から血を吐いた。


苦しくて息ができない。

窒息しそうだ。


でも皆が俺に、希望を託した。

きっとそれはもう……100人どころじゃないはずだ。



「そんな…重圧よりも……こっちはもっと……重たいもの背負ってんだよ……!」



光の身体中から、ブワッと光が灯りだす。

辺りの暗黒がみるみる一掃されていくが、環を中心とした数名のアダマスたちによってまた飲み込まれそうになる。



光が振り絞っている力によって、辛うじて動けるようになった京と伊央里が、なんとか光に加勢する。


今まさに、スキルの押し合いとなっていた。



「チッ……この3人相手ならもう十万…いや、百万ほど増やすか」


「環様っ正気ですか?!一気にそんなに増やしたら圧力に負けて……」


「ここが消滅したって我々さえ残ればいいわけだ。

まだまだストックはある。なにせ何年もかけて影を貯めてきたんだからな」



この世で1番強い力というのは、希望なんかでは無い。


負の感情だ。


それはこの世を滅ぼすほどのパワーを持っている。


それをこれまで数百万も集めてきたのだから、たとえ先程の鷲谷茂範に百万ほど使い、ようやく奴を消すことができた。

それ以前にこいつらに数万と祓われていたわけだが、まだまだ痛くも痒くもない。



「これでもう確実にお前は終わりだ。

もうこれ以上、苦しまなくていい」



ズドドドドドドドドドーー……



「「「っ!!!」」」



ありえないほどの力の圧が一気にかかってきた。

頭がかち割れるほど痛くなり、窒息するほど呼吸ができなくなる。


バキバキバキ

ドゴゴゴゴゴゴ


周りの建物や道路や家々は全てみるみる破壊され、土砂崩れのように残骸が流れていく。



「かっ……は……」


ヤバいっ……もう意識がッ……

保てない……


「い、おりさっ……京っ、さ……っぐぁぁっ……」


伊央里も京も、支え合うようにして既に意識を手放していた。


皆……また俺が不甲斐ないせいで……死んでいく……


俺も……死ぬのか……っ



" いいじゃん、別に。

そろそろ身軽になりなさいよ "


頭の中に突然、なぜか美乃里の声が聞こえてきた。



" お兄ちゃんはよく頑張ったよ

苦しまないで。もう楽になっていいよ "


今度は真奈美の声。



" もう手放しなよ、光。

あなただけが全てを背負う必要はない "


朱星の声もした。



" おいで、光。お前はよくやった "


茂さん……!!




光の瞼が一気に重くなり、体の力を抜いて目を閉じようとした時……



ドカーーーーン!!

ビリビリビリビリー!!



突然、耳を劈くような凄まじい音がしたかと思えば、プツンッと張り詰めた糸が切れるように光は息を吹き返した。


ブワッと一気に酸素を吸い込み、ゲホゲホと咳き込む。


一体何が……っ!


顔を上げてハッとした。



腹に穴を開けて血を吐いているのは、

天艸亜斗里だった。



「親より先に死ぬなんて許さない……」



驚愕している光を、亜斗里は意識を朦朧とさせながらもしっかり見つめる。


次第に目がかすみ、朱星あかりに、日和ひよりにそっくりなその目が見えなくなってきていた。

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