第133話 環の陰謀
環の攻撃は、京が操作した砂によってかき消された。
地面の砂がどんどん環に集まっていくが、環はそれを勢いよく巻き取り竜巻のように京に飛ばした。
「いいか、京!
俺はあの時お前について行かなかったことを後悔していない!
お前より先に世界を手に入れると誓うキッカケになったからな!」
互いに一歩も譲らないスキル同士のぶつかり合い。
あの頃 Zで鍛え上げられた2人は、本気を出すと他のエスパーの比ではないほどの強さと瞬発力だった。
「そう……。アタシは後悔してるよ。
なんであの時無理やりにでもアンタを連れていかなかったのかって」
ドババババー!
シュパッー!
ドシッー!
「そろそろ黙れよ京……
所詮お前は変革者にはなれねぇよ」
その瞬間、四方八方に散らばっていた影が一気に京に集まってきた。
おおよそそれは、数十人分だった。
「ぐっ……」
一瞬動きを封じた隙に、数人のアダマスと環によって同時攻撃を食らう。
「ははっ、セコいって思うか?
だが現実は甘くないと言ったのはお前だ、京」
京を必死に封じるアダマスたちは内心皆驚愕していた。
この世でトップレベルと言っていいほど強いはずの自分たちが何人がかりでもこの女はこうして押しとどめることができている。
しかもこちらには大量の影もいるのにだ。
だが……あと少し……
さすがのこいつでも先程から随分長いこと体力を消耗し続けているはず。
あと少しでコイツはダウンする。
今は立っているのもやっとなはずだろう。
ほら……その重圧に耐えきれず、
鼻からも血が流れてきているぞ……
ドガガガガガガー……!!!
「「「?!?!?!」」」
突然影が全て一掃され、
数人のアダマスたちに切り裂くような傷がついた。
間一髪で逃れられたが、アダマスたちは絶句していた。
一瞬遅かったら跡形もなく八つ裂きになっていたからだ。
「光っ……」
「京さん……すいません、遅れました」
そう言った光の背後を見て京は目を見開いた。
伊央里が立っていたからだ。
それに気付いた環は舌打ちをする。
「貴様は人の邪魔をするのが好きだな。
そちら側についたのか?天艸伊央里」
「……あなたは兄さんに頼まれてこのようなことを?
それともあなた自身の意志で?」
「……ふははははっ……ふっははははっ……」
環は小さく笑いながら、懐から何かを取りだした。
「っ!それはっ…何故あんたがそれをっ」
光は目を見開いた。
それは、未来に行く際に使ったタイム時計だった。
「驚くか?亜斗里様が使った方は、少々細工がしてある方でね。
こっちがホンモノさ。」
「細工って……」
「ふはは。そう。あの人はもう、こちらに戻ってこられない」
光は驚愕した。
千鶴環……こいつはまさか……!
はじめから亜斗里を追放して自分が全ての上に立ち、この世を手中に収めるために……!
「そういうわけだから、月詠光。俺がお前をわざわざここで殺さなくてもいいわけだ。
なぜなら向こうで亜斗里様がお前の母親を殺すんだから、もうすぐお前は消えるだろう?」
光は颯と朱星のことに思いを巡らせ動悸がしてきていた。
亜斗里を前にして無事でいられるとは思えないからだ。
しかも亜斗里はもうこちらには帰ってこないとなると……どうなってしまうのだろう。
「環様……?!……亜斗里様のこと…本当ですか?!
こちらに戻って来られなくしてるって……」
アダマス幹部の1人が顔を青くして問いかけた。
他の数名も同じような雰囲気を醸し出している。
しかし、それ以外の者たちはまるで初めから知っていたかのような態度だ。
「おぉ、そうだった。お前らには伝えていなかったな。
ついこんなところで口を滑らせてしまったよ」
ザシュザシュッー!!
「「!!!」」
なんと環は、その知らなかったという幹部たちを全員殺した。
光はその残酷さに息を飲む。
まだ俺くらいの歳の人もいたのに……
「なっ…なんってこと、してるんだよ!」
許せない……
こんな奴……生かしてちゃダメだ!
ドガガガカガガガー……!!
「光!落ち着け!」
京が止める声も聞かず、光は勢いよく環の方へ飛んでいき、攻撃を続ける。
「お前だってさっきから人をたくさん殺していると思うが?」
「わかってる!でも俺は自分を信じてくれてる仲間を殺したりなんかしない!
お前みたいな奴が1番人の上に立っちゃいけない奴だ!」
ズババババー……!!!
環とその腹心たちが、狙ったように光に一斉攻撃を仕掛けた。
伊央里と京が急いで光を補助する。
すると環たちは全員影憑石を取り出した。
その石から一気に影が出てきて辺りはまるで暗黒の地のように暗くなった。
伊央里と京でさえ、その黒の重圧に侵食されつつある。
まるで全身に電流が走り、凄まじい圧力に体を押しつぶされそうだ。
上手く思考も回らず、激しい頭痛と共に吐き気まで催す。
なんのスキルも出せない状況になっていた。
遠くの方では、その重圧に耐えきれずサイとアクシアの面々が気を失いつつある。
その中で、柚が懸命に志門を庇っている。
それを今まさに、八朔がトドメを刺そうとしていた。
しかしその瞬間、それは玲二が庇った。
「っ!! れ……じ……ど、してっ」
玲二は半開きの目で、意識を朦朧とさせながら薄ら笑っている。
「はは……そんなの……君のことが好きだからに決まって……」
「っ……!玲二っ!玲二ーー!!」
ズルいよ……
最期にその言葉を言うなんて……。
好きなんて……今まで1度も言ってくれなかったくせに。
志門は力を振り絞って八朔に飛びついた。
「お前なにすっ」
「八朔!!!!」
必死な形相で泣きながらすがりついてくる志門に、八朔は目を見開いて動きを止めた。
「頼むからもうやめてくれ!!
もう……これ以上っ……大切な人を失いたくないんだ!!」
その泣き顔に、八朔はかつて同じことを同じ顔で叫んでいた幼少期の志門がリフレインしていた。
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