第135話 亜斗里の過去
容姿端麗、頭脳明晰。
甘艸亜斗里は物心ついた時から非常にモテる男だった。
今まで生きてきて告白された回数は尋常ではない。
異性だけではなくなんと同性もいる。
もちろん亜斗里の性格上、
誰かと付き合おうなんて微塵も思わなかった。
なんなら性欲すらそんなに湧かない。
理由を問われたらこう答えただろう。
「俺は普通の人間とは違うから。」
どこか自分のことを
特別な人間なのだと思っていた。
特別な星の元に生まれて、
特別な人生を歩む。
普通の人とは違った、
より崇高な生き方を望んでいた。
"エリート"
幼い頃からそう言われていたし
周りが自分に向ける視線も"普通"じゃなかった。
決して大袈裟じゃなく、
もはや神に向けるかのようなそれ。
親の遺伝もあるのは確かなのだろうと自覚はあったが、とにかくそこまで努力しなくてもなんでもトップレベルにこなすことができた。
そしていつしか自分でも気が付かないうちに、
普通の人たちを、
より自分のような人間にさせられるような
そして普通の人間を脅かす存在を排除できるような、
つまり、人を動かせるような、
悪く言えば
支配できるような、そんな人間になろう。
そう思うようになっていた。
幼い頃から、エリートな両親に触発されていたのもあったかもしれないが、自分に対する周りからの大きな期待を感じ取っていたからそれに応えないといけないと……
そう自ずと分かっていたことが大きかったかもしれない。
つまりは、俺は俺という自我を持っていなくて、
俺は、周りから見た俺を演じることが世の中にとって最良なのだと考えた。
でも…
俺は、俺という人間が嫌いじゃなかった。
1番嫌いなのは、後先考えてないテキトーな人間。
人を利用することで自尊心を保っているような奴。
自分さえ良ければと傲慢な不良や輩といったような類の人種。
それらは決まって全員、たいした才能を持ちえない弱者たちだ。
弱者は弱者から生まれる。
そして、そんな奴らから生み出される邪悪な影。
俺はこんなに大きな目的を持って懸命に生きているというのに、こいつらはなんだ?
同じ人間とはまるで思えない。
たまに見かける街中の不良たち、
ニュースで見かけるそんな奴ら絡みの事件。
年齢や性別なんて関係ない。
小学生、中学生、高校生、大学生、大人、老人…
ありとあらゆるそんな奴らを
俺は客観的に見つめていた。
邪悪な影の、穢れた声がいつも聞こえる。
被害者の悲痛な叫びだって永遠と止まない。
犯罪、事件、天災……
才を持つ優秀な人々を脅かすのは、いつだって才を持たない劣悪な悪人共だ。
あぁ…
これはまさに悪循環だ。
悪人は悪人を生み出す。
そうやって世界は回っているから何も変わらないのだ。
社会を穢すゴミ。
世の中を乱すクズ。
地球を破壊する悪魔。
彼らが存在しているだけで
この世にマイナスしか残さない。
なんの利益ももたらさないどころか
ひたすらマイナスだ。
存在価値が1ミリもない。
そんな奴らをなぜ神は生かしているのか?
とすら考えた。
特に日本はどこまでも悪人に優しい国だ。
そんな奴らが更生するわけなんてないのに。
日本の再犯率は約50%
しかしこれにはギミックがある。
要は数字のトリックだ。
再犯率が2人に1人なわけはない。
そこには公にはなっていない、気付かれていない犯罪がごまんと隠れている。
その上、これから犯罪を犯そうとしている者、そして自分が犯罪を犯している認識のない者まで当たり前に存在しているだろう。
今この瞬間にも、
多くの善人が泣いている。
突然意識が途絶えた人、明日が見れなかった人、
大切な人を亡くして正気を失った人、
追い詰められて自殺した人、
挙げればキリがない。
普通に生きていた平和な人間が
今この瞬間にも大勢地獄に突き落とされている。
それを黙って見ていられるほど
俺は"普通の"人間ではない。
人とは違う特別な存在なのだから。
みんなの期待がかかっているのだから。
そうしてある時、俺はしっかりと認識した。
そうか。皆が俺に期待しているのは
一言で言えば、
こんな世の中を正すことなのだと。
なぜ毎日毎日、
善人が悪人に虐げられなくてはならないのだろう?
世のクズ、ゴミ、悪魔…
同じ人間なのにどうしてこうも違うのだろう?
弱者というのは犯罪者予備軍だ。
ならば元を正さなくちゃダメなのか?
対症療法ではなく原因療法?
そうだ。その通り。
この世がずっと変わらず最悪な歴史を繰り返してきた原因はここにある。
才能の無いものは人を恨む。
恨みは悪を生み災害を生みだす。
そういう人間は同類とつるむからまた子が増える。
災厄が増える。被害が増える。
世の中はひたすらこの負のループから抜け出せない。
なぜ誰も気が付かないのだろう?
いや、気が付かないんじゃない。
本当は分かっているはずだ。
しかし、見て見ぬふりをしている。
平和などと謳いながらも、
自分だけは安全な場所にいたいと。
世の混沌から抜け出し、真の平和を創りあげるのは、真の勇気ある優秀な才覚者のみにしか成し得ないことなのだろう。
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