第131話 誰にも頼らないのは



「朝凪!!朝凪ぃいーー!!!」


「おい夕凪離れろっ!」


「いやぁあーーーーっ!!!」


クマによってグイグイと引き摺られる夕凪だが、息をしていない朝凪の手を離さないため、朝凪まで引きずられていく。


「こんなとこでいつまでもピーピー騒いでる暇ねえんだよ!!」


クマは険しい顔をして内心焦っていた。


くそ……朝凪まで死んだ…!

完全に全体の士気が下がってやがる!!

アクシアの奴らも数名死んだらしいし…

このままだとどんどん向こうに主導権を持ってかれるぞ!


「おい光はどこだ!!光ーっ!!」


「ここだよ」


「っっっわ!!」



突然隣に現れた光は全く感情のない表情をしている。


憎悪と焦燥でイッちゃってんのかもしれん、とクマは舌打ちをする。


「ビビらせやがって……まぁいい。

今の状況理解してるよな?」


「……うん」


頷きながら、光は飲み込まれそうになっている朝凪の遺体を一瞬で救い出し、夕凪の元へ置いた。



「数人死んだ。他の奴らもほとんど疲弊しきってる。何人かは戦闘不能だ。わかるな?」



「……うん」



「だから今すぐにでもお前が持ち直さなきゃならねえ!

お前がこの場を支配するんだ!」



「………うん」



「………。おいてめぇ!うんうんってホントに分かってんのかコノヤロウ!!」



バシンっと光の頭を叩くクマ。

しかし、光のその目にビクッとしてしまった。

今までに見たことがないくらい形容しがたい光を宿らせていたからだ。



「俺……責任とらなくちゃ……」



光は抑揚のない声色で静かに呟いた。



「たくさん……人を殺しちゃったんだ……」



影憑石によって爆発的に沸いてきた影は、光の周囲には当たらない。

光の身体にエネルギーが有り余りすぎて無意識に跳ね返していた。

サイとアクシアが戦っているアダマスメンバーを、光は何人も殺してしまった。



「俺が全員殺して……颯と母さんのところに行って……。

何も変わってないなら俺が全部変えて……それで……」



黙りこくっているクマの隣に、いつの間にか伊央里がいた。



「光くん。」


色の無い目の光とゆっくりと目が合う。


伊央里は思った。

あぁ……茂さんや仲間が死んだことやこの惨状が、全て自分のせいだと思っているんだな……

自暴自棄になるのも無理は無い。これだけ強くてもまだ、十代の子供なんだ。

たまたま美乃里に才能を譲渡されただけの……。



「私も協力しますから、1人で千鶴たちのところへ行こうとしないでください。奴らは危険です」



「ついてこないでください」



「……それはできませんよ。

私は茂さんに、何かあったらあなたの力になるように言われているんです」



「っ!」


茂範の名前が出た瞬間、光は鋭い視線を突き刺してきた。



「あなたの力なんて借りなくて平気です!

俺は頼んでない!」



「誰の力も借りないということは、誰からも助けてもらえないということだよ。」



その言葉に、ピクっと立ち止まる。



「君は一人で生きていると思ってるの?

自分は自分だけの力で生きていけるだなんて勘違いしてはいけない」



光は俯いたまま、グッと拳を握った。



「どうして……こんなことになっちゃったんだろう……」




そうだ。俺は強いんだ。

強いのに…………



「皆の力を借りたから……だから皆は死んだ……

初めから俺一人だったら……こんなことにならなかった」



こんなふうになりたかったわけじゃない。

皆の命を捨ててまで世界を変えたかったわけじゃない。

自分を最強にしたかったわけでもない。


俺はただ……

皆とずっと笑っていたかっただけだ。



「確かに今の光くんは、過去に君が思い描いていた自分じゃないかもしれません。」




伊央里が静かにそう言って手を差し伸べた。



「でも誰かが君を見捨てないでいてくれた。

誰かが君を見て、この人をサポートしてあげなくちゃと思って、実際に支えられて助けられて今の現状がある。

それと同じように、差し伸べられた手をとれば君の現実はまた変わります。」



下唇を噛み眉を寄せながら、その差し出された手を見つめる。


またこうして誰かに頼って、また失って、また後悔するかもしれない。




「もう全部……終わりにしたいんだ…っ…」



俯いていて顔の見えない光から、ポタッと雫が落ちたのが見えた。


そのときクマが突然、伊央里の手と光の手をとった。

そして双方を近づけた。

クマはジッと2つの手を見つめている。



「真奈美がよく言っていた。

1人でいるのは寂しいってな……」



ドクッと光の鼓動が跳ねる。

幼い真奈美の表情が脳裏に反芻し、また涙が頬を流れた。



「君がこの手をとったなら、私もついて行きますよ。

たとえ全てを、終わりにするとしても」



顔を上げると、力強い眼差しの伊央里がいる。

風がたなびき、長い髪が揺れた。

その姿が、かつての美乃里と完全に被り、目を見開いた。




" 忘れないで

光は闇より強いんだよ "



どうして忘れていたんだろう。

大切にしてきたはずの、彼女の言葉を。

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