第130話 各々の別れ
バババババババー!!
「平気か朝凪夕凪!」
間一髪のところで薬膳の針によって助けられた2人は怪我をしていた。
「っ…随分ひでぇじゃんか。化膿する前に美羽に直してもらわねぇと」
ダンっ!
「ハッ?!美羽?!?!」
薬膳の助手の美羽は、3人を庇うようにして影を押さえつけていた。
「早く…っ、逃げて…くださいっ…!」
急いで応戦しようとしたが、他の影やエスパーに邪魔をされて近寄れなくなった。
町野姉妹とも離れてしまった。
「美羽!」
美羽の背後に襲ってくるエスパーに瞬時に駆けつけようとするが、間に合わないと頭がもう分かってしまった。
「先生…私が居なくてもっ…シャキッとしてくださいねっ!?」
ずっと……先生の背を追いかけてきた。
死にかけていた私が先生に拾われたあの日から……
先生に生き場所をもらって、私は幸せだった……
あぁ……そんな顔しないで……
私、先生のあの笑顔が好きだったのに……
ズサッと後ろからやられた瞬間に同時に返り討ちにし、
そのまま倒れていく美羽がスローモーションに見える。
その光景に、ゾクッと全身の産毛がたつ。
叫びたい雄叫びを必死に押し殺して薬膳は美羽の周りと対峙する。
あまりの強さに自分もやられそうになった寸前、一瞬の光が見えた。
その一瞬で周りはほぼ消滅しており、急いで美羽を引き寄せその人物を見る。
「は……やはりお前か……光。」
光は何も言わずに他のエリアに飛んでいった。
それを見送り、腕の中の美羽を色の無い目で見つめる。
" 先生!また散らかしてる!"
" 先生!サボりすぎです!"
" 先生!ちゃんと寝てます?!"
先生先生先生って……
俺、お前にそう呼ばれる度に自分の存在自覚してたってのに……
もうその声が聞こえねぇなら、お前の存在がねぇなら……
俺は自分がなんなのかわかんなくなるよ…
「……すまん。最後までっ世話かけてばっかだったな……俺もすぐ、そっちへ行くから待ってろよ…」
ーーーーー
奏は今、1人のアダマスとの戦闘で意識が途絶える寸前だった。
こうして頭が朦朧とするとき、必ず脳裏にこびり付いた記憶が蘇る。
" 奏は絶対に音楽の道に進むべきよ!
せっかく素敵な才能あるんだから! "
授業をサボって屋上で
自分が作った曲をただひたすら弾いていたあのころ。
" バンド作ったなんてすごいっ!
デビューしたら、私が1番のファンね!"
俺は曲を、書いて、書いて、書きまくった。
ひたすらに、お前のことだけを考えて。
お前の存在は、俺の創作の源だった。
いや、
俺という男の原点だった。
それなのに……
気がつけば、彼女の惨い死体を前に、
立ち尽くしている自分がいた。
ある日優香は、俺のファンの嫉妬を買い、攻撃をくらつて植物人間になった。
俺のせいで……
優香の耳にはもう、俺の音楽は届かなくなった。
それでも毎日、寝たきりの優香に曲を聴かせる俺に、優香の親は言った。
「奏くん……毎日来てくれて嬉しいけど、もういいのよ?奏くんには奏くんの人生があるんだから、もう目を覚まさないこの子のことは、忘れなさい」
は……?忘れられるわけないだろう。
俺はこいつがいたから今まで音楽をやってこれたんだぞ。
だから俺は諦めない。
誰がなんと言おうと。
「奏くん……今までありがとうね。
この子、あなたのことをいつも応援してたわ。
夢を叶えて、これからも音楽を続けてね」
優香がずっと楽しみにしていた大きなコンサートの日、優香は死んだ。
よりにもよって俺が唯一、お見舞いに行けなかった日だ。
ひでぇじゃねぇかよ。
そんな日を選ぶなんて……。
でも俺は気がついた。
それは優香がわざとしたことなんだって。
きっと俺が、お前無しでステージに立てたところを見届けて安心したかったんだろう。
でもな優香……
これからお前にやっと会いに行けるけど、
そんときはハッキリ言うよ。
本当は俺……音楽なんか最初からどーでも良かったんだよ。
だって俺の音楽がお前を殺したんだぜ。
でもお前はずっと、誰よりも俺の音楽を好きでいてくれたから……
だからただお前に聴かせたくて……
天国にいるお前にも聴こえてることを願って……
お前のことを書いて書いて書きまくってただけだ。
「ははっ……よーやく言えるな……」
「は?」
首を傾げるアダマスエスパーを、奏は最後の力で自分もろとも自爆した。
ーーーーー
亜蘭は自分が失明することを覚悟して目を一気に駆使していた。
既に視力が落ちてきていて、目からは血が流れている。
しかしそのおかげでかなりの影とエスパーたちを葬っていた。
「はぁ……さすがに少し……疲れてきちゃったな……」
普通の目で、普通の人間として生まれたかったなぁなんて思ってたことがあった。
そしたら僕は……今頃何をしていたんだろう。
「ダメ亜蘭くん!!」
そんな中、聞こえたその声にハッと我に返る。
「その目はまだ必要なの!!」
「瞳子ちゃん!」
亜蘭が叫んだのと同時に、瞳子はスキルごとこちらに飛び込んできて、黒が勢いよくはけて行き、一瞬で消えた。
「ありがとう亜蘭くん。ずっと好きだったよ、今言うなんて…ずるくてごめん…」
「っ!そんなことはいいからっ早く手をっ」
亜蘭が必死に伸ばした手を、瞳子は握らなかった。
瞳子はその影に飲み込まれ、まるで吸い取るように倒れていった。
最後に目が合った瞳子は、覚悟を決めたように笑っていた。
言葉を失い、手を伸ばしたまま呆然と立ち尽くす亜蘭。
しかし一瞬で目の前のその大きな影たちが一掃され、魂が全て抜き取られたような瞳子の抜け殻が残った。
「……は…じめから……これを知ってて……」
亜蘭が瞳子の元に膝を落とすと、その横を光が無言で通り抜けた。
周囲をどんどん一掃していっているのは光だと認知した。
ーーーーー
「武さん……!」
「すまんね、カオルくん…
私はここまでだ」
カオルは自分を庇って攻撃を食らってしまった武臣を急いで抱き上げ、周囲にバリアーを張る。
「ダメです武さんっ!もう茂さんもいないんだ!あなたまで居なくなったら僕らはっ」
「キミがいるじゃないか、カオルくん。
それから……光くんも、皆も、まだいる…」
カオルはなんとかならないかと必死に思案し、ひらめいたのは伊央里だったが、彼はこの近くにはいない。
「カオルくん……雫ちゃんのこと……本当にすまなかったね」
「っ!何言ってっ…!それは武さんのせいではっ」
「あぁ……お迎えが来たみたいだ…」
意識を朦朧とさせている武臣には今、随分前に亡くした小さな娘が見えていた。
彼女は先天性の痣があり、国に渡した後しばらくして亡くなったと聞いた。
弄り回された挙句、命を落としたのならそれは国に殺されたも同然。
そして、自分のせいも同然だと思った。
行き場をなくした感情が爆発し、それを受け止めてくれたのが茂さんだった。
「千尋っ……」
娘は元気よくこちらに駆けてくる。
ずっとお前に謝りたかった……ずっと……!
「……っ……武さん……っ……」
うっすら微笑んだまま脈が止まった武臣に気付き、カオルはグッと奥歯を噛み締めた。
その横を、光が影たちを一瞬で一掃しながら通り過ぎた。
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