第129話 やるのはお前だ


ザシュッー!


「ぅぐっ…!」


「はっ!瞳子ぉ!お前は目のスキルが効かないと使い物にならねーな!もうこっちに戻ってこなくていーぞー?!どーやって解除したかは知らんが!」


瞳子は千鶴環の攻撃を避けるのに手一杯だった。


亜蘭は目視できない位置で別のと戦っている。

他のみんなも然りだ。

皆が今、この戦場と化した地に自然と集められていた。



その時近くで、ドン!と突然異質の何かが現れた気配がした。


シュパパパパパー……!


「!!!」


影も含め、一気に数十のアダマスエスパーを戦闘不能にしてしまったのは……

茂範だった。


茂さん!!と皆が心の中で叫ぶ。



「チッ……随分と遅い登場だな。

どっかで燻っていたんですかー?

随分とお疲れのようですがー?」


環の嘲笑うような問いかけに、茂範は無言だが、実はここに来るまでの間に他エリアを全て1人で片付けてきてしまっていた。

少し疲れた様子で息を切らしている。


バシュー!

ザシュッー!

ガガガッー!


険しい顔をした環と涼しい顔をした茂範がスキルのぶつけあいを始めた。



一方で、志門とアクシアの寧々、弥々、瑚々、がアダマスと戦っている。


「まさか俺がお前らと手を組む日がくるとはなっ」


「どうよ心強いでしょ?」

「感謝しなよね」

「また泣くなよー」


カチンとは来たものの、こいつらが居るのは確かにかなり心強い…と、一旦言い返すのは我慢する。





シュッー!

ガンッー!

バシッー!


茂範の、その目にも止まらぬ速さの俊敏な動きに環は奥歯を噛んでいたが、次第に鼻で笑い始めた。


パチンッ!


環が指を鳴らすと、1人のアダマスエスパーが空中に丸を描いた。

その中で見えてきたものに茂範は動きを止め、目を見張る。


「ふはっ!どーだー?見たかったろ爺さん?

感謝してほしいね!」


そこには明らかに、大人になった朱星が"誰か"と仲良く何かを話している映像だった。

その "誰か" の顔が見えた瞬間、茂範はハッと息を飲んだ。


その瞬間ー…


ズババババー!!!


「!!」



戦場に響く千鶴環の笑い声に、皆が視線を移す。


「ようやくっ!ようやく邪魔者が1人消える…!ふははははっ」


目の前には、5人のアダマス幹部エスパーに囲まれ、六芒星の中に囚われている茂範がいる。

顔色悪く息を切らしていて、全くスキルが出せない様子だ。


それを、他のアダマスエスパーたちと戦っているサイとアクシアの面々が気が付き、焦りの表情になって茂範の名を呼んでいた。



「おいマズイ!光はどこだ!っっう…!」


「くそっ!こいつらウザくて手が空かねぇっ!」



カイトと薬膳も戦いながらなんとかしようと思考を巡らせるがとにかく動けない状況だ。



「いやあれは……もう…っ…」


モトキがいくつかの生物をタトゥーから放ったが、いとも簡単に六芒星に弾き返された。



「僕の虫たちも……。

あれは破ることも入ることももう誰にもできないんじゃっ…」


賢吾も虫を放ちつつ顔を苦くした。



「そいつぁやべえな…爺さんはもう諦めるしかねぇかもしれん」


冷静沈着な態度で辰巳が呟いた。


「そんなっ!皆でどうにか力を合わせればっ」


「そうですよ!我々には茂さんが必要です!」


「ばっか!力を合わせてどうにかなるもんじゃねえ!アイツらはアダマスのトップファイブだぞ?!」


「だからってじゃあ見捨てるって言うの?!」


辰巳、洸輔、町野姉妹が口々に言い合う。



「だいったい汚ぇぞやってることがアダマス!!」


爽斗がスキルを貯めて走り出すと、ババッと瞬時に止められた。


「っ!てめぇっ……!」


止めてきたのは玲二だった。


「そうか、そうだったな?俺の相手はいつだってお前だったな玲二?今日こそはお前を殺す……」



「私も協力する……爽斗。」



「!!柚っ!」


柚は涙を流していた。


「もう……愛なんていらない……」


潤んだ瞳の中に、切なげな顔をした玲二が映っている。



「だってどうせ……偽物なんだもん…っ…」



そう言って柚はいくつものピアスを取りだし、玲二に投げた。


しかしそれを、いとも簡単に弾いたのは柚の弟、八朔だった。


「八朔っ!うっ……ぁあっ……」


柚と爽斗が八朔のスキルによって押し潰されそうになる。

そのとき八朔目掛けて志門が飛んできた。


「おい八朔!お前っ!!

自分があんなに会いたがってた姉ちゃんに何してんだよ!!」



八朔と玲二 VS 柚、爽斗、志門

となり、誰も寄せ付けないくらい大きな乱闘になった。






一方では、茂範を囲った六芒星が光りだしていた。


遠くから、マモのウルフに乗った光がこちらに近づいてきた。

少し離れた別エリアで戦っていた光は、突然ウルフに連れ去られたのだ。

ウルフは、マモがいなくなってもサイに忠実で、賢く状況を判断する。


そうして置かれたこの場の状況に光は唖然とした。


「しっ、茂さん!!」


「おぉ、ちょーどよかった月詠光。

お前が身代わりになるなら爺さん助けてやってもいいぜ。好きな方を選べ。時間は無い。」


「?!?!」


体が小刻みに震え出す。

目の前の茂範は、その中の重圧に耐えるのに必死なようで、膝をついて汗を流している。


「わっ…わかったよ、俺がっ」


「光!!!何を言ってる!!」


鋭い眼光を突き刺してくる茂範に、光は必死の表情で「でもっ…」と口を開く。


「俺なんかより茂さんがいないとっ」


「馬鹿者!!お前はあの時何を誓ったんだ!!」


ビクッと全身が反応する。


そうだ……俺は誓ったんだ。

必ず最高の変革者になって、世界を平和にするって。



「やるのはお前だ、光。

大丈夫だ……お前なら必ず……」


「茂さっ……」


「頼んだぞ。孫よ……」


最後に目が合った茂範に、光は今までの思い出を重ねていた。

子供の頃からずっと、ずっとそばに居てくれた……



ピカッー……!!!



六芒星の凄まじい光に一瞬目を閉じた次の瞬間には、茂範は消えていた。



「っ…は…あ…あぁ……はっ……」


光は今までにないほどの絶望感に、全身の力が抜け、息苦しさに喉が詰まり、言葉が発せられなくなった。


周りのサイメンバーも呆然と目を見開いている。



「はははははは!初トライだが上手くいったようだ。

次はお前だな月詠!」



ズババババー!!!


「っ!?」


その瞬間、光の体が何かに押されて吹っ飛んだ。



「アンタの相手はアタシだろ」


その人物は環のスキルをなんと人差し指1本で止めていた。


「っ…京……この死に損ないが…」


「ツケは払ってもらうよ」


ズババッー!

ガッー!

ザシュッー!


環と京の対戦が始まった。


京に襲いかかる環以外のアダマスエスパーたちは、京によっていとも簡単に避けられ、影たちは一瞬で払われている。


京は1人で何人もの相手ができていた。


京と環は目で追えないほど凄まじく速い戦闘でみるみる遠くへ離れていく。

次第に、他のアダマスたちも京に集まりだした。



光はまだ絶望感に苛まれながらも、京のその姿にようやく正気が戻った。



「戦わなくちゃ…俺も……

俺が……助けなくちゃ……皆を……

……やらなくちゃ……やれ……やるんだ……」


たとえ茂さんがもういなくても。

皆の力を借りなくても。



俺が、最強の変革者だ。

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