100人の才能を譲渡された俺は、最強の変革者になる

第127話 静かすぎて

「うぁぁぁああああっっ！！」

何をどう攻撃しても効かない光に、アダマスエスパーは雄叫びをあげて何人も襲いかかってくる。

しかし……

ザシュザシュザシュ

ドタドタドタ……

無言の無表情で光が一瞬で殺してしまった。

その光景に、アクシアのメンバーたちが恐慄いた顔をしている。

「さぁ…ここは終わった。次行こうか。」

「あ……は、はい……」

伊央里に言われ、今回光に着くことになったアクシアエスパーの檸檬と蜜柑は顔を見合わせる。

「私たちって、要らなくない？」

「そんなことよりこの人…こんなに凄かったの…」

光はあれから、各々がチームを組み共に行動するようになってからずっと、何の感情もないような冷酷な態度だ。

その不気味さとその強さは、あまりにも戦慄してしまうものがあった。

あれからどのくらいたっただろう。

SPIとアクシアが手を組み、アダマスと戦い始めてから。

光にはもうずっと、時間感覚がない。

一度時空を超えたせいかもしれないが、ただこの現実を心の底では受け入れたくないと拒否をしているせいかもしれないとも思っていた。

だが、そんなことはもはやどうでもいい。

「大丈夫ですか、瑠真さん」

光の治癒により、先程怪我をしていた瑠真の腕の血が止まった。

たまたま光は瑠真や、いくつかのチームと合流した。

アクシアもいるからか、幸い死者は出ていないようだ。

「あぁ…悪いな。」

「いえ……。痛みも取り除いたはずですけどどうですか？」

「……痛みなんて……もう随分昔から感じねぇよ。

それに……あいつのおかげかな。今は血を見てもなんともなくなった…。」

光は、梓美が前に瑠真との昔の話について語っていたことを思い出し、何も言えなくなった。

2人には2人にしか踏み込めない絆があるだろう。

「クマも元通りに直って良かったな。

やっぱお前すげぇよ月詠。

いつも無傷だし」

クマは他の者たちになにやらいつもの如く辛口文句を言いながら治癒に回っている。

「いえ……皆さんのおかげですよ」

俺がすごいんじゃない。

皆が俺にいつも一生懸命教えてくれたから。

ここにもう居ない人たち…もう二度と会えない人たちも、皆が俺のために……。

「…静かだな……」

瑠真はボーッと傷を見ながら呟いた。

「アイツがいるときは常に、騒々しくて煩いって思ってたんだ。

でもいざ居なくなると……静かすぎて……おかしくなりそうだ……」

瑠真の声は震えている。

「分かるぜ瑠真。すげぇ分かる」

「っ…カイトさん…」

突然現れたカイトが無表情で腰を下ろした。

「いなくなったらいなくなったで、今度は周りの音が煩くて…自分の呼吸音さえも煩わしく聞こえる。

静かになったと思ったら、逆に煩くなってやがる…」

カイトの頭の中には、熙の元気ないつもの声が思い出されていた。

「まるで自分を半分……失ったみてぇだ…」

2人の瞳には色がない。

光にも、もうなんの感情も湧かないくらいに心が乾涸びていた。

それくらい、一気にたくさんの仲間を失ったことの衝撃は大きかった。

「光くん、ちょっといいかな」

突然呼び止めてきたのは、伊央里だった。

思えばまだ二人で話したことは無い。

「雫さんのことは…本当に申し訳なかった」

「…いえ……その場にいなかった俺が何か言う資格はないですから…」

力なく無表情でそう言う光に、伊央里は眉を寄せる。

「兄っ、いや…亜斗里がどこにいるのか、君は知ってるんだね」

「……はい。でもそこには俺の親友がいるから…多分…大丈夫なはず…」

って……そう言い聞かせたいだけだ。

本当は…颯のことが、母のことが、心配で仕方ないくせに……

「光くんの、その指輪について聞きたいんです」

伊央里は光の指に視線を送った。

「これは……俺が生まれた時に、母がくれたものだそうですよ。俺自身はもちろん何も覚えてないですけど」

「……なるほど。実はそれを…亜斗里も持っているので…」

「あぁ、はい。知ってます。

彼とは1度、会って話しをしたことがあるので。

この指輪について何かご存知なのですか？」

亜斗里も同じものをしているのを見た時は驚いた。

しかしそれに関しては茂さんも分からないと言っていた。

だが弟の伊央里ならば何か知っているかもしれない。

「それは……彼の元恋人とのペアリングなんです。確か、2人で作ったものなのだと言っていたと思います」

「えっ…」

「だから、この世に2つしか…いや厳密に言えばもう今は…1つしかないはずです。

1つは彼女が亡くなった時にそのまま焼かれたはずなので…」

亡くなった？！

光は心の中で驚愕してしまった。

あの亜斗里に恋人を亡くすという過去があったとは…

「すみません。考えても分からないことを考える暇などありませんから、忘れてください。」

伊央里は思い直したようにそう言った。

「それより、光くんは、美乃里と最後一緒にいたそうですね」

「？！美乃里ちゃんを知ってるんですか？！」

「えぇ。私と亜斗里の…妹なので……」

「？！？！」

目を見開く光に構わず、伊央里は続けた。

「美乃里は元々、私たちと同じスキルを持っているエスパーでした。」

言われて気がついた。

伊央里も亜斗里も、命を奪ったり与えたり蘇らせたりといった命の操作ができるスキル……そして思い返してみれば、美乃里もそうだった。

だから自分は彼女によってたくさんの人のスキルを譲渡されて、今ここにいるようなものだ。

「美乃里はそれに加え、生命と同様にスキルも動かせたので、それに気がついた3.4歳の頃にはもう、SKJに行ってしまいました。

美乃里が私たちのことを覚えていたかはわかりません」

伊央里は視線を落として切なげに言った。

「きっと覚えていないでしょうね。

美乃里はその後、茂さんに救われてから松原という家庭に養子として入ったらしいのですが……

どういうわけか、そこで足の事故にあい、そのままルミエールに入院という形になったようです」

光は、自分は美乃里に関して全く何も知らなかったが、だとしてもまさか本当の苗字は甘艸で、この兄弟たちの妹だなんて誰が想像するだろうか。

「最後……美乃里ちゃんは俺に全部…託して……

俺はただ守られてただけでっ……美乃里ちゃんを守れなくて、すみませんでした。」

ずっと頭の隅に追いやっていた惨い記憶が呼び起こされ、声が震えた。

「キミが謝るのはおかしいですよ、

それこそ、雫ちゃんのときと同じで、私だってその場にいなかったんだ。

それに…私は美乃里よりも自分の理想ばかりを優先していたんだから…」

「……亜斗里さんは……美乃里ちゃんがいることをしらなかったんでしょうか。」

「いや。あの人は知っていました。それでも実行させたのです。」

それを聞いて、ゾクッと嫌な感覚を覚えた。

思っている以上に冷酷な男かもしれないとは思っていたが、実の妹まで殺すまでとは……

ただ光が疑問なのは、初めて会った時の亜斗里はこの伊央里と同じように、本当の極悪人のようには見えないことだ。

茂さんがよく言っている、この世に敵はいないという理論と結びつけても良いのだろうか。

それとも…根拠の無い自分の勘なのだろうか。