第95話 一番大切な奴が消える気持ち
ー 銀座、新橋、有楽町 方面ー
このエリアでは、愁磨、朝比奈
そして光の親友、颯が担当していた。
颯は、まさか長年の憧れタレントの朝比奈アリサがサイに存在したことをまだ信じられないでいた。
光の奴……隠してやがったな。
次会ったら説教だ!
と思いながらも、当然この悲惨な状況には困惑していた。
まさか自分が、この戦争を巻き起こした敵組織側に体を弄られた挙句、気がつけばエスパーになって、しかも今は光側の組織にいて……
どう考えても夢の中だとしか思えない。
だから颯は、これはまだ俺の夢の中だと思い込むようにしていた。
じゃないとこんな……こんなの……
「……くそ……」
颯は倒れている人間たちを避けながら超特急のスキルで走る。
夢の中じゃなくてこれが現実なんだったら、俺は正気を保てねえ。
「颯くん!」
「っは!」
考え事をしていたせいで見逃していた影を、朝比奈が長い髪を駆使して祓ってくれた。
「よっと!これがホントの間一髪!
……なんちゃって」
「は、はは……」
朝比奈はたまに、あまり面白くないギャグを言う。
颯は苦笑いしつつも心の中で、
朝比奈さんが俺を助けてくれた!!
しかも!近くで見るとやっぱ…う、うわぁーっ!
ホントに夢かこれ?!超リアル!
などとこんな状況でもまだ夢と信じ込んでいる颯は1人興奮していた。
「おい、光の親友!大丈夫か?顔真っ赤だぞ具合悪いんじゃないのか!」
心配そうにドシドシと向かってくる愁磨に、颯はまた違った意味で興奮する。
おいおいおいおいこの人も間近で見るとマジ凄いんだよな、なんなんだよこのマッチョな男前!
彫刻みたいな体して、こんなレベル見たことねえんだけど?!ホントに人間かよ?!
「あの……颯です、名前」
「おぉすまんな、颯な。名前覚えんの苦手なんだ」
「愁くんて私の名前も全っ然覚えてくんなかったもんね、当時さ。」
「お前のはそもそも難しすぎるのがダメなんだ。だいたい俺は、字なんて読めないからな。」
「えっ」と颯はつい声を出してしまった。
次の瞬間……
シュッー……!!
「あーもおっ!外したじゃんレアルのせーでー!!」
「人のせーにしないでよ!アイラ!」
なんと……
「だっ!大丈夫ですか朝比奈さんっ!!」
朝比奈の髪が、半分ほど切られていた。
ー 池袋、目白 方面 ー
龍太郎と誠、そしてカミラが担当していた。
「カミラちゃんさぁ、そんなにエネルギー使いまくって大丈夫なん?いきなりぶっ倒れねーか心配なんだけどよ」
もうかれこれ2時間は爆発的なスキルを使いまくっているカミラをさすがに心配した龍太郎が声をかける。
「え?まだアタイ半分のカロリーしか使ってないよ?」
「はっ?どんだけ食ってんだよ普段……」
普通に引いてしまった龍太郎はある意味でホッとする。
「んだよ…心配して損したぜ。なぁ?誠さん」
「いえ私は別に。はなからどなたのことも心配してませんので」
「えっ」
「皆さんお強いじゃないですか。なんだかんだ。」
いつもの無表情、無機質な時季誠の言葉だが、それには仲間たち全員に対する信頼が込められているのが分かり、龍太郎はフッと笑った。
「でも……犠牲、出しちまったっすね……」
池袋も、渋谷並みに常に人混みの街だ。
遺体の数は数え切れない。
「この遺体の数……一体いつ誰がどう処理をするんだか……」
「後のことは、後で考えましょう。
今は死者を悼んでる暇は無いですので。」
龍太郎は頭を搔く。
なんでこの人ってこんなにいつも冷静でいられんだろ。
普通こんなに人死んでんのとか見たら、こっちまで具合悪くなんのが普通なんだけどなー。
まぁエスパーだから元々ノーマルより免疫はあるもんだけど。
ただ誠さん、なんだか妙に慣れてる感じっつーか……
俺ですら吐き気してんのに。。
「龍太郎くん」
「はっはいっ」
「一旦茂さんたちの方へ行ってみませんか。ここは粗方片付き、生きてる人間も避難させましたし」
「えっ?でも茂さんどこにいるか分かんないっすよ。言わなかったじゃないすかあの人。」
茂範はきっと、皆が来ないよう、行き先などを伝えなかったのだろう。
「あなたも茂さんも、私のことをだいぶ舐めてらっしゃるようで。」
誠はいつものノートパソコンを広げカチャカチャとやり始めた。
「皆の現在地を把握するくらい序の口ですよ。
とりあえずカミラさんを連れてきてもらっていいですか」
龍太郎が急いでカミラを探すと、遠く離れた瓦礫の上でなんと食事をしていた。
「えっえっ?!おーい!ちょっと何食ってんの、カミラちゃんっ!」
「ん?ここ多分どっかの店の厨房だったみたいで、未開封のソーセージいっぱいあったから〜」
「はぁあ?!」
全く……年上とは思えん……
と思いながらとりあえずカミラを呼ぼうと口を開いた、その時……
シュッー……!!!
「え………?」
カミラが持っていたソーセージが、突如消えた。
「えっ?アタイのソーセージは?!」
「げっ。何コレ不味っ!ポイッ」
建物のてっぺんでソーセージを投げ捨てる少女、そして……
「正気か、ジュン!
人間の食ってるもん口にするなんて!」
パシンっと少女の頭を引っぱたいている少年がいた。
「ガンホのケチ!腹ごしらえしてくんの忘れたんだモーン」
どちらもアダマスのマントを着ている。
カミラも誠も龍太郎も、一気にオーラを滾らせ各々のスキルを構えた。
ー 新宿、代々木 方面ー
亜蘭、奏、朧があたっていた。
「………はぁ……」
亜蘭と朧を交互に見て、奏がため息を吐く。
普段は人一倍うるさい2人が、一言も喋らないのだ。
事情はもちろん分かる。
亜蘭は瞳子のこと、奏は玲二のこと、
ショックがデカいのだろう。
しかし、こんな2人を前にしてしまうと、普段はウザがってはいる奏でも逆に居心地が悪く、変に気を使ってしまう。
「……歌舞伎町のお前の店、無事で良かったじゃねえか亜蘭」
「うん……そうだね……良かった……かな」
「……朧、お前ちょっと見ないうちにスキルレベル上がってて驚いたぜ?」
「……そーでもないよ」
2人ともまるで、この世の終わりかと言うような顔をしている。
「………イライライライラ
お前らなぁっ!!いい加減にしろよな?!」
ついにキレだした奏に、2人はギョッとする。
「いつまでシケた面してんだよマジで!!
お前らがそんなんで誰が救われんだ?!
こういう時ほど誰よりも気合い入れなきゃダメだろ?!」
奏の言葉に、2人とも複雑そうに俯く。
「お前がそんなんで、惚れた奴が戻ってくんのか亜蘭!!たかが殺されそうになったくらいでそのムカつくイケメンフェイス台無しにしやがって!」
「……っ……」
「お前もだ朧!ただ項垂れてりゃあ玲二にまた慰めてもらえるとでも?!また甘えられる日が来ると思ってんのか?!」
奏はグッと拳を握って視線を逸らした。
「わかるさ俺だって……。
一番大切に思ってた奴が突然消える気持ちくらい……
ただな、お前らの場合、そいつまだ生きてんじゃん。
俺と違って、いくらでも希望は残ってんだぜ…」
その言葉に、2人はハッとしたように奏を見た。
「ご、ごめんよ奏くん、情けないとこ見せて」
「奏先輩…ごめんなさい……僕ちゃんとするよ」
「…お…おう。まぁ……全部終わったら亜蘭の店でパーッとパーティでも、っ」
ガンッ!!
「っぶね!んだよ今のっ!」
突然鉄板のようなものが飛んできたが、奏は持ち前の瞬発力で瞬時に避けることができた。
鉄板は建物に綺麗に刺さっていて目を見張る。
自然現象なわけはないからだ。
パチパチパチ
突然の拍手の音……
その方向に目をやると、アダマスのエスパーが1人……2人……こちらに向かってきていた。
「いやはや凄いなぁその反射神経!
キミ、SSじゃないよねぇ?」
「ついに来たな……アダマス」
本気で感心したように拍手をしている男は10代にも20代にも見えるゴーグルをした若い男だ。
そして少し後ろから冷静沈着な態度で歩いてくるのは、女のように見える。
「……と、うこちゃん……」
その呟きに、2人は驚いたように亜蘭を見た。
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