第18話 この世に敵も味方もいない


「はい見〜っけ!!!……ん?」



蓮砲の目の前には、脚から血を流して目を閉じ倒れている美乃里と、俯いたまましゃがみこんでいる表情の見えない光がいた。




「なーんだ。小娘死んでんじゃん。

ちょっと面白かったのに〜」




蓮砲は舌なめずりしながら近づいていく。



「つぅか今更だけど、お前誰〜?」



固まって動かない光に、ニタニタと問いかける蓮砲。

その後ろで、「早くしろよアホ」と呟く燕がいる。




「まっ、どーでもいっか。ゲームオーバーでどーせこいつも消えんだし」




そのとき、ふらりと立ち上がった光。

ゆっくりと顔を上げた色のない表情に、蓮砲はゾクッと鳥肌が立った。

正確に言えば、表情というよりも、滾り出すスキルオーラに背筋が凍りつくような寒気さを覚えた。



「は……?なんだよこいつ?

ノーマルじゃなかったのか?さっきまではそうだったよな?なぁ燕?…おい燕?!」



燕の只事では無いような表情に、蓮砲は舌打ちする。



燕も一気に緊張感が滾りだしていた。



本能が、こいつは危険だと察知している。


おかしい……

こいつはさっきまでスキルオーラがなかったはず。

なのにここまで……

ここまでのオーラは見たことがない……!




「……はっ!なんだか知らねぇけどどーでもいい!小娘もろともそこでくたばれ!」



「よせ蓮砲!!」




ボボボボボボボボボ




燕は一瞬の出来事に、目を見開いて顔面蒼白になる。


技を放った蓮砲が、その瞬間一瞬にして目の前の男に跳ね返された。

蓮砲は、灰にするほどの威力の炎を操れるのだが、それがそのまま跳ね返ってきたので、蓮砲は一瞬で灰になった。


サラサラの灰色が宙に舞う。

蓮砲ではなくなったそれに視線を落とした。



「し………」



死んだ……!……一瞬で!




ゾワッ!!

と一気に本能が察知する。


ここにいたらやばい……!!!



説明できないやばさが咄嗟に燕を突き動かす。



「っあ!」



逃げようと踵を返した瞬間、すぐ後ろにいた人物にぶつかった。


一瞬で距離をとり、身構える。



「久しぶりだね」


「鷲谷……」



やばいやばいやばい

なんでよりによって今ここにこいつが……!


こいつに……適うわけない!



逃げ道を探せ!




「……この院内にいたはずの者たちが全員消えているのだが、それはお前だな、燕」



「……安心しな。痛みどころか考える余裕もなく一瞬で消してやったんだ。感謝してほしいくらいだね。」



喋りながら周囲に視線を巡らせ考える。


……棚がある。……デスクも1つ……テーブル……

ついでに大きい黒板……




「燕、お前を殺したくはない」



「あ?黙れよクソジジイ……

てめぇの偽善にはほとほと愛想が尽きた」



シュパパパパパー……!



燕の念力によって、周りの家具が茂範を四方八方から囲み出す。

視界を塞いだのと同時に、燕は窓から飛び降りた。



しかし……



なぜか目の前には茂範がいた。




「チッ……」



やはり簡単にはいかないか……




「……わかっておる」



「っ、何がだ」



「終わりにしたいのだろう。全てを。」



ドクッと燕の鼓動が跳ねた。



「だがお前の力だけでは無理だ。

もちろん、私の力だけでも……」



「何が…っ……何が言いたいんだよ!」



「この世に敵も味方もいない。

いるのは、自分と少し違う人間だけだ」



「っ……それを……それを敵っていうんだろうがああぁぁあ!!!」



燕の念力によってそこらじゅうの木々が竜巻のように茂範を囲んだ。

しかし茂範はそれを一瞬で巻きとって塵にし、一瞬で燕の背後を取った。


目を白黒させて崩れ落ちる燕。


全て約1秒以内に起こったことだった。






ササッー……



一瞬で茂範の背後に現れ頭を下げる3名。



「申し訳ございません!」



「いい。過ぎたことを何も言うな。」



1人の男は「はい…」と、さぞ申し訳なさそうに項垂れており、もう1人の女は「クソっ」と悔しそうに砂を掴む。そしてもう1人の男は涼しい顔の無表情だ。



「回収だ。上にいる2人もだ。」



「「「 承知 」」」


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