第17話 光はどんな闇をも凌駕する
美乃里も光も、そろそろ限界がきていた。
「ほーお、意外と音で分かるもんだな」
どこに行っても追いつかれる。
しかも、美乃里はスキルを使い果たしていた。
「見える見える。見えるぞ!はははっ」
シュパッー……!
「うっ!」
「美乃里ちゃん!!」
避けきれなかった。
美乃里の脚に攻撃が当たり、血が吹きでている。
咄嗟に1つの部屋の隅に隠れ、
光は自分の制服を脱いで美乃里の脚を止血する。
「っ…いいよ、そんなの…
どうせ使い物にならない脚なんだし」
「ごめん美乃里ちゃん…っ……はぁ、はぁ……」
こんなにずっと神経すり減らして走りっぱなしなら疲れるのは当たり前だ。
美乃里はそれをわかった上で、大きく深呼吸した。
「……ここにいた皆、あいつに消されたの」
「えっ……」
「だから……私にもしものことあったらさ……
志門のこと、頼むよ」
目を見開いたまま固まる光。
服の上から抑えている美乃里の脚からどんどん血が滲んできて、光の手を赤に染めていく。
「あいつ……馬鹿で、ホントは泣き虫だからさ」
「美乃里ちゃん!美乃里ちゃんにもしものことなんてないよ!」
驚いて光を見ると、光はまたキツく美乃里の脚を止血し始めた。額には大量の汗が滲んでいる。
「さっきはごめん!美乃里ちゃんのことは、ちゃんと俺が守るから」
その必死で真剣な姿に、美乃里の目には初めて涙が滲む。
「っ……馬鹿じゃないの……あんたみたいな人、見てるとイライラすんのよ……他人のために必死になって……最後は自分が損するだけなのに」
「損とか関係ないよ。損得勘定なんて俺は持ってない。」
「……っそんな人間いない。気付いてないだけで、誰だって自分だけは損しないように、自分だけは得するように、私利私欲で生きてるだけなんだよ」
人間は皆、偽善者だ。
それで損すれば死ぬほど落ち込んで。
馬鹿でくだらなくて滑稽だ。
「損とか得とか、それって人生を1番つまんなくする気がする。それって1番損だろ」
目を見開く美乃里の脚を、まだ必死に止血している光。
「生きるとか死ぬとかさ、俺今まで考えたこと無かったんだ。だから、まだ全然よく分かってないけどさ……一つだけ確かなのは、皆、命の優先順位ってものがあるんだよ」
真っ赤になっている自分の手を見つめ、ギュッと拳を握る。
「それは美乃里ちゃんの言うように、結局は私利私欲、損得の世界かもしれない。誰にだって、自分を満たしてくれている相手の命が、1番大切なんだよ」
命は平等だけど、人の前では平等ではない。
「俺、ここの皆のことが大好きだったんだ。」
ここでのたくさんの思い出が蘇る。
いろんな人といろんな話をして、いろんな遊びをして…
いろんなことを教えてもらった。
「俺はここで皆にたくさん、いろんなものを貰った。生まれて初めて、自分に価値があるような気がして、生きてるのって楽しいって思えた。」
必死に手を動かしている光の額には、汗が光っている。
「だからさ、俺、ここにいた人たちの命が無駄になるようなことだけは許せない。
損したくないし、させたくない。」
力強く言う光を、美乃里はまっすぐ見つめる。
「だから皆の……皆の仇は、俺が討つから」
「もう……充分だよ。」
「?」
顔を上げると、美乃里の目から落ちた涙が、サンカヨウの花びらに落ちた。
透明になった花が、キラキラと輝き出す。
「おいガキ共〜!!そろそろ隠れんぼは終わりにしよーやー!!」
その声が聞こえてきたのと同時に、美乃里が光の血塗れの手をとり、サンカヨウにかざした。
自分たちに投げかけられる騒がしい声が近づいてくる。
「ありがとう、光。」
「?」
ギュッとサンカヨウの花を握らされる。
光の手の上から包み込むように美乃里が手を置いて。
「私さ…あんたのこと、ずっと見てた。」
「え……?」
「いつも全力のあんたのことが、羨ましかったよ。」
「美乃里……ちゃん……?」
「ただ、羨ましかったの……
あんたの光が、眩しくて……」
花から手を通って、オーロラのような光がみるみる光自身の中に流れ込んでいく。
「ずっと思ってたんだけど、光っていい名前だね」
「…み、美乃里ちゃん…?何してるの……?」
「光は、闇より強いんだよ……」
どんな暗闇も照らすの。
あの日のように………
いつか誰かが教えてくれた。
「忘れないで……」
たとえ1本の蝋燭でも、一筋のライトでも
ほんの僅かな希望の欠片でも……
「光は、どんな闇をも凌駕する……」
その瞬間、光は意識を手放した。
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