第16話 嘘つきにだけはならない


カラカラカラ……



車椅子の音に振り返る燕と蓮砲。


現れた美乃里と、後ろで車椅子に手を置いている光。


一瞬で蓮砲が攻撃を放った。

しかしまた一瞬で消えたため、攻撃は2人を通り抜けて向こう側の壁に当たった。



「ちくっしょう!また消えやがった!」



その間、姿を表したり消したりしながら光が車椅子を必死に押し斬撃を避けている。




バリン!!!



今度は後ろでガラス窓が割れる音に振り返る燕と蓮砲。



窓から逃げていったのがクマを持った志門だと分かり、蓮砲が舌打ちする。



「くっそ!追わねぇと!」


「心配ない。私の結界があると言ったろう。そう簡単にガキには破れん。放っておけ」



そして美乃里たちに向き直り、燕の全てを消し去る凄まじいオーラがこちらを包み込むように向かってきた。

しかしそれも、透明になってしまえば当たらない。




一方その頃、志門は結界を破るのに必死だった。



「はぁっ!はぁっ……くそっ!なんでっ!!

急がなきゃなのに!!早くしないと美乃里がっ!光がっ!」



自分のスキルを込めたパワーだけでは体当たりしていても全く効かない。


志門は傍にあった石ころを拾った。

目いっぱいの力をその石に込める。


志門のスキルは、対象にパワーをこめることで変形させ、威力を底上げして使役するものだった。




「お願いだ……お願いだっ……!

頑張れ俺っ!!頑張れ!!」




" 頑張れ志門っ! "



ふいに、昔数年前にここで一緒に生活した友達、裕介のことが脳裏に蘇った。



毎日ここで、キャッチボールをして遊んだ。

自分と同じスキルだったのに、その子は自分より遥かにパワーが強かった。


俺はいつも、裕介のボールを受け止められなかった。



「はぁ…くっそー!これじゃいつまで経ってもキャッチボールにならねぇよ!」



「でも俺はキャッチできてるぜ!」



ニヤッと笑う余裕な裕介が、いつだって腹ただしかった。



「チッ。それじゃキャッチボールって言わねーんだよ」



「頑張れ志門っ!ほらほら!」



俺は負けず嫌いだから毎日付き合ってたけど、本当は、勝てないってわかってることをやるのはしんどかった。

才能同士のぶつかり合いには、いつだって勝ち負けがある。



「俺、将来野球選手になりたいな!」



「はぁ?野球選手?」



「俺とお前だったら、全国制覇も夢じゃないぜ!な!なろうぜ野球選手に!!」



……なれるわけねぇだろ。野球選手なんか。


確かにこの世界では、スポーツ選手はもれなく皆、そのスポーツの才能がある者だ。

でも俺らは違う。

俺らはスポーツの才能があるんじゃなくて、

" エスパー "なんだ。


エスパーに、スポーツは許可されてない。



でも……そんなものを少しだけ一緒に夢見た裕介との時間は、俺が生きてて一番自分らしくいられた時間だった。



「なんでだよ……っ……なんで俺なんだよ!」



死ぬ間際、裕介は悔し涙を流しながらそう言った。

エスパーは、自分の死期が分かる。



「なんで俺が生きれずお前が生き伸びんだよ!!」



その瞬間、俺の中で何かが割れる音がした。

それは夢とか希望とか、そんな大層なものじゃない。



「俺の方がお前より凄いのに!!俺の方がお前より価値あんのに!!」



人は、死に際に初めて本音を漏らすのかもしれない。



「なんでお前じゃなくて俺が死ぬんだ!」



人は、死に際に初めて本当の自分になる。


だから……

生きてるうちは皆嘘つきだ。

嘘ばっかり。


俺を売った顔も知らない親も、慰めるフリして実験してくるあいつらも、気色悪い笑顔振りまく看護師たちも、友達だと思ってた奴らも、小せぇくせに俺より度胸ある真奈美も、全部わかったような顔してる美乃里も、偽善者みてぇな光も、みんなみんな、




「嘘つき!嘘つき!嘘つきぃ!!!!」



叫びながら、みるみる変化していく大きく鋭く尖った頑丈な石でガンガンと結界を打つ。




" 志門、頼んだよ "

" 志門くん、気をつけてね"



"" 信じてるよ ""




光と美乃里の顔が、言葉が、脳裏に蘇る。






" うん。わかった。やる。 "



そう言った。

そう言ったから俺は……





「俺は嘘つきにだけはなりたくねぇんだよ!!!!!」





バリーン!!!!!








「はっ?! まさか結界がやられた?!」



「おいマジかよ!急がねぇと奴が来るのも時間の問題だ!」



燕と蓮砲は、焦った顔で光と美乃里を追いかけた。




ーーーーーーーーーーーー





帰宅途中の颯は、クマのぬいぐるみを持って息を切らしている1人の少年に追いついた。

恐らくこの年齢にしては一生懸命走っているのだろうが、もともと瞬足の颯ということもあり、余裕で追いついてしまった。



「なんか君、大丈夫?」



異様なほど切羽詰まった雰囲気に心配になり声をかける。



「どこ行こうとしてるの?あれ…しかも怪我してない?」



薄汚れているクマのぬいぐるみを見て、昔、そんなようなのを休み時間に一生懸命作っていた光を思い出した。



「なぁなぁ、そんな急いでるなら送ろうか?」



「あぁ?」



そこで初めて少年は声を出したのだが、あんまり怖い顔で睨みつけてきたので颯は逆に面白くなってしまった。



「んなスピードでトロトロやってたら日が暮れちまうよ。ほら、乗れ。どこ行くんだ?イケメン兄さんが連れてってあげよう!」



おんぶの体勢で腰を落とすと、意外にも少年は背中に身を預けてきた。



「茂さんち……」



「おっ!なんだ茂さんちか!光の隣んちだな!」



「っ?!お前、光を知ってー……っわあ!!」



ピューンと息ができないほどのスピードで走り出した。

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