第19話 エンパワメント計画①

ふと目が覚める。


見たことのない周りの光景に目を見張る。


辺り一面真っ白だからだ。


よく見ると、それはどこかで見たことのある小さな白い可愛らしい花だった。


「あ……サンカヨウ……」



自分の手元に触れているサンカヨウを優しく撫でた。


ここはどこだろう……

綺麗な場所だなぁ……

まるで天国みたいだ……



「起きた?」


「?!」



突然頭上から声をかけられて腰を抜かしそうになった。


全く知らない少女だ。



「さっきはありがとう…」


「っ?え?」



なに……?なんの話だ……??



「サンカヨウの花言葉はね、」



少女は隣にゆっくりと腰を下ろした。

持っているサンカヨウの花を、どこか切なげに見つめている。



「自由、幸せ……」



彼女の長いまつ毛についていた雫が風に揺れ、サンカヨウの花に落ちた。







「……はっ!!」



目が覚めるとまず、視界いっぱいに広がっていたのは、不機嫌そうな仏頂面の、明らかに怖そうな男性の顔。

片耳にピアスをしていて、片目が綺麗な黒髪に隠れている



「よーやく起きたか。いつまでも寝てんじゃねーよ……っ!てめっ押すな!」



その横からグイッと割り込んできたのは、対象的な明るい雰囲気の女性。大人にも見えるし子供にも見える。

金髪の髪を、高い位置でポニーテールにしていて、キャンディーをぺろぺろと舐めながら顔を覗いてきた。



「起きたーっ!起きた起きた良かったあーっ!」



すると今度は、さぞ驚いた顔をしたメガネの男性が視界に入ってきた。

肩までくらいある少し長めの銀髪を横に縛っていて、オシャレなメガネをかけている。



「しっ、茂さんんんん!起きましたああ!!」



その名前が出た瞬間、光は夢とも現実ともつかない一連の出来事が蘇ってきた。

ゆっくりと起き上がって手のひらを見つめる。

血の着いた跡がまだ少し残っていた。



「あれは……全部…夢じゃなかった……?」



「起きたな光」



「しっ、茂さんっ……俺っ、俺はっ」



不安の表情いっぱいで小刻みに震える光の手に視線を落としながら、茂範は眉を寄せた。



「悪かったな……シールドが甘かった。

志門が呼びに来てくれなかったら間に合わんかったかもしれん」



「っ!そうだ志門くんはっ!」



志門はクマを抱きしめたまま隣のベッドに眠っていた。

こうして見ると、ただの可愛らしい男の子だ。



「あっ!みっ、美乃里ちゃんは?!」



その名前を出すと、全員の雰囲気が暗くなった。

嫌な予感がしてゴクリと生唾を飲み込んだ。

最後に見た彼女の表情は覚えている。



「仮死状態…いや、起きる確率は無いに等しいから、死亡という表現が正しいか…。

ただ彼女の遺体の処理は闇雲にできないんでな」



「そんな……っ」



絶望的になった。

それと同時に思い出してしまう。

彼女の最期の言葉を。



" 光っていい名前だね "

" 光は闇より強いから "






「それより光、話をすべきだな」



「……うん……俺も話したい。

話を聞きたい。わけわかんないことばかりなんだ」



何もかもが信じられない。

目覚めた瞬間、夢でよかったなんて一瞬思った。


でもきっと全部、現実だった。


そもそも……茂さんは何者なんだ。







茂範は3人に席を外すように言い、

部屋には茂範と光と志門だけになった。

美乃里は別の場所に保管されているらしい。


ここは茂範の部屋の一室だ。

外から観る外観よりも、この一軒家はだいぶ広いと思った。

来る度思っていたが、明らかに1人で住んでいる家にしては不自然だった。

広い上に、ソファーやテーブルも広く、部屋はいくつもある様だし、しかもベッドがいくつもあるこんな部屋まで……


でもきっと、その理由は今からわかるのかもしれない。





「光。お前は、エンパワメントについては当然知っておるな。」



光はこくりと頷く。


エンパワメント……それは個々に潜在的に眠っている才能を、成長に従って強制的に引き出す注射である。


生まれた瞬間、赤子のときに誰もが必ず打つものであり、これはある時を境に国が定めたものだ。



才能……

それはざっくり言えば、国語や算数だったり、絵や歌だったり楽器だったり特定のスポーツだったりなわけだが、実際はもっともっと細かい。

つまり、読解力、言語力、外国語、ピアノ、バイオリン、サッカー、水泳、ダンス、持久走、水彩画、料理……あげたらキリがない。



稀に、少し特別な才能を発揮する者もいた。

例えば、暗記能力が優れすぎている(1度見たものは忘れない)、全てを方程式化させてしまうほど数学に優れている、推理能力がある、何キロも先まで見える視力がある、全ての運動能力がずば抜けて高い、嗅覚が鋭い、味覚が鋭い、聴覚が鋭い……




「ここまではお前も知っての通りだと思う。

しかし、更にごく稀に、かなり特殊な才能が開花する者もいるのだ。」



茂範は続けた。



例えば、念動力すなわち物を動かせる、念視すなわち物に触るなどして残留思念を読む、念話すなわち心を読む、テレパシー、透視能力、予知能力、規格外の身体能力、人間以外の動物と意思疎通ができる、火や水などの耐性………こちらも上げればキリがない。




「そんな人がいるなんて……」



「この者たちに一つだけ、共通しているものがある」



「共通してること…?」



「このようにある程度のパワーがある者は、他人のオーラやエネルギーが見えるということだ。

つまり、この世の物質的なこと、事件や事故、そして人の死にまつわる物事が、人間のどのようなエネルギーによって巻き起こるのかが目視できるのだ。」




そう、この世のものは全て、人の「影」が生み出している。



「それを、影憑かげつきという。」



「かげ……」



光はここまでの話を理解するのに

既にかなり必死になっていた。


まさに知らなかったことばかりだ。




「そのようなエネルギーや害になる物事を阻止し解決するために結成されている組織がある」



「組織……?」



「PSI……サイと呼んでいる。」





その組織は、特別な才能を持ち得る者のみで構成されており、年齢は非常にバラバラ。

下は3歳〜、上は100歳越え、

また、各国に養成所もいくつか存在している。


つまり、特別な能力を発揮した者は強制的にその組織に入る流れとなるため基本的に普通の学校には行かない。




「世のため人のため国のために生きる」

選ばれし者というレールが敷かれているのだ。



このような者たちのことを、"影憑祓い"

もしくは、PSIサイ、と呼ぶ。



ちなみにサイというのは、


EXTRA SENSORY PENCEPTION 超能力

PSYCHOKINESIS 念力 (サイコキネシス)


これらが語源となっているらしい。



サイの角とスペルが組み合わさったような特殊な記号がトレードマークとなっており、

そのシンボルは、彼らの身につけている何かしらに刻まれているとも。

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