第12話 サンカヨウ

美乃里は志門に、グリーンルームへと車椅子を押させた。


そして、虹色に光るサンカヨウの鉢の前に行く。



「何をするんだよ」



志門の掠れ声の問いかけに、美乃里は何も言わずにサンカヨウに手を当てた。

すると、今度は先程の真奈美のときのように、美乃里を包み込んだ光がサンカヨウに吸収されていった。



「もう…限界なんだよね、私が。

だからこうして器を用意したんだよ。」



志門は複雑そうに、持っていたクマを見つめた。


元気が出るよと言った真奈美の顔が脳裏に浮かぶ。


いつも明るく元気だった真奈美が、このクマを俺にくれた理由は……きっと……




「ちくっしょう!!!」



ドガッ!!


こみ上げる怒りを拳で壁にぶつけた。



「美乃里は悔しくねぇのかよ!!

好きなだけ散々身体弄り回された挙句!こうして死を待つだけの人生にされて!!」



黙ったままの美乃里の背中を見つめながら、やるせなさとともに涙が溢れ、その背中が見えなくなってくる。



「なんなんだよ……なんなんだよ俺らはよお!!」




" マナはね、無駄になりたくないんだよ "




「 無駄じゃねぇかよ俺らなんて……

意味ねぇじゃねぇかよ生きてたって……

なんのために生まれたんだよっ…俺らはっ………」



美乃里は暫くして振り返ると、泣き崩れている志門を見下ろした。



「意味なら持たせればいい」



美乃里は静かに、でも力強くそう言った。



「だからあの子だって、今までの皆だって、私に……」



「……でも……それはいつなんだよ!!

いつになったらっ!」



「わからない。私にも…。

でも皆が信じて託したの。

私にじゃない。未来に……。だから私も死ぬまでやるだけ……」



美乃里は虹色の光を放つサンカヨウの鉢を、

ゆっくりと志門に差し出した。

志門はそれを受け取り、代わりにクマを美乃里に渡す。




「きっといつか…絶対に意味を持つから」




志門の流した涙が一滴、サンカヨウの花びらに落ちた。

するとその花びらは透き通っていき、透明に変化した。




「……ねぇ……真奈美の才能って、

なんだったか知ってる?」



突然の美乃里からの問いかけに、

泣き腫らした目で志門は「あぁ……」とため息を吐く。



「知ってるよ。あいつが赤ん坊のとき同じ施設に来た時のこと、今でも覚えてる…。

相手の心を読む才能だろ」



「違うよ。」



「え?」



サンカヨウから顔を上げると、

美乃里は抱いているクマを見つめていた。




「相手の心を操作する才能だよ」




志門は驚きで目を丸くする。



「私たちにも使ってたかどうか、それは私にも正直わからない。でも……光には使ってなかったんじゃないかな」



そうか……と志門は納得した。

心を操作しなくても、初めて自分にたくさんの愛情を注いでくれたのが光だったんだ。

だからあんなに懐いてたんだな……




「きっと、俺らにも使ってないよ」



「……そうだね」



美乃里が初めて少し表情を崩した。




「でも……そっか……

俺はあいつと同じ、 " TS 64 の ファイブ " だったけど、そんな才能なら気がつくわけねぇよな……」



あのころの惨い想い出がふと脳裏をよぎり、また胸糞悪くなった。



「そういや美乃里はどこの施設にいたんだっけ」



そういえば聞いたことがなかったと思って問いかける。

サンカヨウのおかげか、心情は落ち着いて涙はもう乾いていた。




「私は……」



美乃里はクマを差し出しながら、

いつもの真顔でハッキリと答えた。



「" Z 28 エイト"」





ボトッ……



目を見開いた志門は、渡されたクマを落とした。

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