第11話 無駄になりたくないんだよ
志門は昨夜のことを思い出していた。
「これ…あげる」
「はぁ?要らねぇよ、んなガキが持つもん」
渡されたクマを押し返すが、逆に真奈美から無理やり押し付けられた。
「いいから持ってて!」
「あ?なんでっ」
「志門のことが心配だから」
「はぁ?」
「いつも…辛そうだから……
だからこのクマちゃんと一緒にいて
……元気が出るよ」
自分が肌身離さず宝物のように持っているものを、簡単に誰かにあげるなんておかしすぎる。
不審に思った志門はクマを受け取り、恐る恐る真奈美に問いかけた。
「なぁ……まさかお前……」
「美乃里ちゃん呼んできて」
「っ!それはっ」
「いいから呼んできて!」
志門は走って美乃里を呼びに行った。
美乃里の車椅子を押して廊下を急いでいる時に、もう消灯時間を過ぎているから見回りの看護師や受付にいる看護師たちとすれ違った。
しかし、こちらの姿は見えていない。
ゆっくりとベッドに横たわっていた真奈美は、美乃里が現れると、いつもの笑みを作り、サイドデスクにある折り鶴を指さした。
「これ、お兄ちゃんに渡してね!」
「真奈美……」
「最期にお兄ちゃんにも会えたし、マナは満足だよ!すっごく楽しかったの。だからもう…いいの。」
ジッと見つめあっている真奈美と美乃里を交互に見ながら、慌てたように志門が声を上げた。
「ちょっ…ちょっと待てよっ!」
「マナはね…無駄になりたくないんだよ」
穏やかにそう言って、ゆっくりと手を伸ばした真奈美。
その手を、美乃里は優しく握った。
「おやすみ。志門、美乃里ちゃん」
気持ちよさそうに目を閉じる真奈美。
眉を寄せて今にも泣き出しそうな志門。
冷静に真奈美を見下ろしている美乃里。
「……お疲れ様、真奈美。よく頑張ったね。
また、会おうね……」
美乃里と真奈美の繋がれた手にオーロラのような光が一瞬見えた。
かと思えば、その光はゆっくりと真奈美を包み込み、そしてまたゆっくりと繋がれた腕を通して美乃里に入っていった。
手を離すと、穏やかな顔で息を引き取っている真奈美がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます