第13話 もがき続けろ
あれから3日が経った。
まだまだ気分は晴れないが、体育祭の練習はサボるわけにはいかないので、今日もなんとか出席している。
まだ、ふとした瞬間に脳裏をよぎる真奈美の笑顔が涙をじわりと誘ってきてしまう。
何かに集中できないし、何かをしていてもしていなくても頭から離れない。
白布をとった時のあの真っ白い顔が。
"人っていつかは死ぬんだよ
人が死ぬたびにいちいちそんなにメソメソしてたらさ…あんた生きていけないよ"
美乃里の辛辣な言葉が、頭から離れない。
俺は一体何を勘違いしていたんだろう。
誰だっていつかは死ぬんだ。
どんな才能や功績や財を持っていたとしても
どんなに凄い人でも、もれなく全員いつかは死ぬ。
ここにいるクラスメイトも、先生も、
父さんも母さんもプヌも茂さんも、
病院のみんなも……
しかもそれはいつなのかわからない。
今じゃない保証なんてどこにもない。
今までこの歳まで考えてこなかった、
死というものの恐怖。
想像したくないのに想像してしまう。
死ぬのが怖いんじゃない。
誰か身近な人、大切な人が死んだ時の
自分が怖いんだ。
「っ!うぁっ……!」
「おい光!大丈夫かぁ?」
「ごめん皆っ!」
全員揃って跳ばなくてはならない大縄で、
また引っかかってしまった。
「ほんとごめん……だっせぇな俺……」
「お前、血出てるぞ!」
颯に言われて膝を見る。
確かにもう3度も転んだせいか血が出ている。
「あー、大丈夫だよこんなの」
「おい藍那!ちょっとこいつ保健室連れてってくるわ!」
「えっ、おい颯っ」
瞬時に光を担ぎ、驚くようなスピードで一瞬でいなくなる颯に、伊達巻藍那は何も言う暇がなく、ほかのクラスメイトと共に呆然としていた。
保健室で手当してもらい、光は自分の弱さに心底嫌気がさしていた。
「ごめん颯、わざわざこんな」
「お前さ、無理しなくていいんだぜ?」
「っ……」
「自分の妹みたいな存在を亡くしたら、そりゃしばらく正気でいられねぇよ」
「……や、違うんだ……ただ俺が……」
「体育祭、休むのもありかと思うぞ」
「え……」
その時、ノック無しに保健室のドアが開き、
現れたのは藍那だった。
「その通り!あなた体育祭休んだ方がいいわよ」
「えっ……伊達巻さん……」
「だって足引っ張ってばかりだもの」
その言葉にハッと息を飲む。
そうだ……その通りだと思った。
迷惑かけてばかりの人間なら、いない方がマシだし、藍那や皆の期待している賞金の件もある。
このまま自分が参加していたら……
途端に不安と恐怖だけが倍増した。
「藍那お前なぁ、そういう言い方ねぇだろ?」
「いや……2人の言う通りだ。
俺、絶対いない方がいい。」
「光っ!俺はそういう意味で言ったんじゃ」
「俺が個人的なことを理由に皆の足枷になるなんて、一番嫌なんだよ」
皆の残念がる表情、迷惑がる表情、颯や岩野が精一杯励ましてくる表情、賞金が取れなくて悲しむ藍那の表情がリアルに浮かんで、心臓がズキズキと痛むほどの恐怖を感じた。
「頼む……俺を外してくれ。」
勝手すぎて、申し訳なさは充分ある。
だから勇気を出して、そう声を絞り出した。
「そう。じゃあお望み通りそうするわ。
そんな弱小な仲間なんて要らないもの」
「いい加減にしろよ藍那!!
お前だって知ってるだろ、こいつは今、」
「だから何?!何があってもすぐ立ち上がれない奴なんて、この先何があってもこの繰り返しよ!」
顔を上げると、真剣な目をした藍那が睨んでいた。
「私、そういう奴って大っ嫌い。
恵まれてるくせに、何かあるとすぐ失望して、いつまでも前向こうとしなくて人任せにして」
藍那の中で今、自分の母親の惨めな姿が浮かんでいた。
金のある旦那に頼りっぱなしで、いざ捨てられると、働くことも自分でどうにかしようとする意欲も何も無くて。
いつまでも金持ちの奥様だった残像を捨てられなくて、藍那が一生懸命バイトして稼いだお金を勝手に高価な化粧品やブランド物に使ってしまい、借金だけが増えていく。
それでも……
「私はどんなことがあっても諦めたことなんか1度もない。諦めようとしたことも、後ろを振り返ったこともない。もがいてもがいて、ダメでももがき続けるの。」
あぁ……そうやってきっと私は
自分で自分に言い聞かせてる。
「前を見てもがき続けられないなら、どこにもたどり着けるわけない」
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