第30話 お買い物デートは超楽しい!! 〜プレゼント交換は予想外!?〜
ユミちゃんのバイト先のお店で水着を購入し、ショッピングモール内をうろうろと結花ちゃんと歩いていた。
「次はどこ行きますか?帰るには少し早いですよね?」
「そうだね・・・」
そうは言っても見たいところは結花ちゃんと大体見尽くしたのだ。お洋服屋さんに化粧品ほとんどだったが女子大生の買い物なんてそんなものだろう。
ちなみにここの施設は屋外のテラスから海が見えることで有名だ。東京湾に沈む夕日が見えるとか。そういうのもロマンチックで憧れるかも。
あと行ってないのが・・・。
「そうだ。雑貨は見てないよね?」
「そうですね!行きましょう!」
結花ちゃん、全力で楽しむ気だな・・・。
ショッピングモールを歩き回っていたら多少は疲れると思うが結花ちゃんにはその素振りが一切ない。私もテンションが上っているせいか疲れは感じずこの状態がずっと続けばと思うほどだ。
雑貨屋さんは角にあってそこに向かう。店内は女子高生などで賑わっている。自分の高校時代はキャピってした感じの陽キャが居そうなところには行かなかったので不思議な感覚だ。
「こういうところに来るのって実は憧れてたんですよね・・・」
「そうなんだ。じゃあ結花ちゃん初めて?」
「はい。あまり外出とかしなかったので・・・また陽葵と初めてを経験できますね!」
いや!言い方よ!変な意味に聞こえるから!
軽快な足取りで店内に入るとオシャレな文房具などが綺麗に並べられている。前にユミちゃんが使っていたものなどもあって陽キャはこういうところで買うのかと思う。前までは私には縁がない世界だったけど入ってみると意外と普通で一人で足を踏み入れるのは無理かもしれないけど結花ちゃんとなら行けそうだ。
「陽葵はこういうところによく来るのですか?」
「うーん。あんまりかな」
「そうですか。陽葵はそんなに身の回りのこと気にしませんしね」
ひどくない!?
確かに使っている文房具は高校時代と同じものだけど。
「そうです!!今日のデートのお礼に陽葵に文房具をプレゼントしますよ!!私のセンスを見ててください!」
「えっ。いいよ。悪いし」
今日のお買い物は私が何かをしてあげたわけじゃない。だからお礼をもらうのはフェアじゃない。それに私だって楽しかったからね。
「お礼ですので気にしないでください!」
「じゃあ私も結花ちゃんにプレゼントするよ!」
「私は別にいいのですけど・・・」
「貰ってばっかだと悪いしね。日頃の感謝だよ」
「そこまで言うなら・・・楽しみにしておきますよ」
「うん。そうこなくちゃね!」
遠慮がちに結花ちゃんは頷いたのを見て内心安堵する。
結花ちゃんがどうしてもプレゼントするというのなら私もなにかプレゼントすればと思ったのだ。でもよく考えると見た目をあまり気にしない私がプレゼントを選ぶなんてできそうにない。ユミちゃんならこういうのを卒なくこなしそうだけどね。
「結花ちゃんってなにか欲しいものある?」
「それ聞いちゃいますか?特にないですよ」
ないんかい!それじゃあプレゼントの選びようがないじゃんか!
こうなってしまうと何を渡せば喜んでくれるのか見当もつかない。結花ちゃんの家はお金持ちだから大抵のものが一級品だろうし、そもそもこの店で結花ちゃんのお眼鏡にかなうものがあるとは思えない。
うーんと考えながら店内をうろつき始める。プレゼントはお互い秘密ですとのことなので買い終わったらお店の外で待っているということになった。店内には見たことのないワニのぬいぐるみみたいな筆箱や動物を模した小さく畳めるはさみ。どれも結花ちゃんが使っていることが想像できないものばかりだ。
「そういえば言い忘れましたけど私は陽葵がくれたものなら何でも嬉しいですよ!」
「えっ。うん」
いきなり話しかけられてびっくりする。声の正体に気がついて後ろを振り向くと結花ちゃんはもう歩いて行ってしまった。なぜそれだけを言いにわざわざ来てくれたのはわからないが気持ちは楽になったかもしれない。
ぷらぷらと店内を見ていると一つの髪留めが目に入った。こんな明るいお店では浮いているとも言える紫色ので少し光沢のある手のひらサイズのものだ。
結花ちゃん普段は髪下ろしてるから違う髪型も見てみたい・・・。きっと似合うはず。
それに結花ちゃんは華やかなものというより落ち着いたものに身を包むことが多いと思う。だから気に入ってくれるはずだ。
雑貨屋さんと言えど価格帯はそこまで高くないお店なので財布へのダメージも少ない。むしろプレゼントとして安すぎないか心配になるほどだ。
お会計を済ませお店の外に出るとすでに結花ちゃんは私のことを待っていてくれた。なるべく早く選んだつもりだったので少し申し訳なくなる。
「おまたせ。結花ちゃん」
「気にしないでください。私もいま買ったところですから」
「そっか」
私が買った髪留めは袋に入れて一応包装もしてもらった。それは結花ちゃんも同じようだ。黄色の袋はひらひらと揺れる。
「じゃあどっちのから開けますか?」
「そうだね・・・じゃあ私からでいい?」
「はい。構いませんよ。陽葵は何をくれるのでしょうね・・・」
そんなことを言われると緊張してしまう。私は喜んでもらえるか不安になりつつも袋を結花ちゃんに手渡す。
「開けていいんですよね?」
「うん。いいよ」
今さっき自分が選んだものだと思うと不思議な気持ちになる。結花ちゃんが包装を丁寧に剥がす瞬間は時間が長く感じられた。私があげたものならなんでも嬉しいという結花ちゃんの言葉に内心縋りながらも喜んでもらえたらきっと私も嬉しい。
「これは・・・髪留めですか?」
「うん。結花ちゃんいつも髪下ろしてるから・・・こういうのもいいかなと」
「要するに違う髪型の私も見てみたいと言うことでよろしくて?」
「えっ。まっまぁ。アリかな・・と」
私が結花ちゃんの別の髪型を見てみたいのは正解だ。結花ちゃんは可愛いからいろんな髪型が似合うはずなのにいつも下ろしているからね。
「ありがとうございます。大切にしますね」
「いやいや。そこまで高いものじゃないから。普通に使ってくれれば・・・」
「何を言ってるのですか。私にとって陽葵がくれたものはなんでも宝物なんですから!」
「それは嬉しいけど・・・」
「分かってくれたならそれでいいです」
結花ちゃんは満足そうに笑うと真っ黒に染められたシルクのような髪を手で纏め髪留めと着ける。ゆらゆら揺れる髪は煽情的で思わずドキッとしてしまう。
一見無造作に束ねられたかの見えた髪だが丁寧に手入れをされているからかとても整っているなという印象だ。
「着けてみました。どうですか?」
髪を後ろで束ねた髪型、ポニーテールというやつは結花ちゃんの赤く染まった耳を見ることができる。その照れている様子を微笑ましく思いながらも新鮮な姿に見入ってしまう。
「にっ、似合ってるよ・・・」
「照れてます?」
いやいや。結花ちゃんもね・・・。私だけが照れてるわけじゃないよ!!
「とっ。ところで結花ちゃんは何を選んだの?」
そう。この企画はお互いにプレゼントを交換するものだ。だから私がプレゼントを渡したあとは結花ちゃんのプレゼントを受け取る番なのだ。
「私は・・だいたい予想はついてるかもしれないですけど。私からは万年筆を贈らせていただきます」
万年筆!?使ったことないな・・・。
私がものを書くときに使うものなんてシャーペンと鉛筆とボールペンだけだ。万年筆にはものを書くものという認識しかない。
「なんです・・・その表情は。もしかして気に入りませんでしたか?」
「いっ。いやいや」
咄嗟に出た否定の言葉はそれだけだった。誤魔化すにもどう誤魔化していいかわからないのだ。
「じゃあどうしたのですか?」
心配そうに顔を伺ってくる結花ちゃん。私は万年筆がなんだかわからないというのが無知がバレるようで恥ずかしかったのだ。
でもここで言わないと結花ちゃんは贈り物が気に入らなかったのだと解釈するだろう。それだけは絶対にダメなのだ。
「実は・・・」と恐る恐る口にすると結花ちゃんの表情の曇りは晴れくすくすと笑う声が聞こえる。
「あっ。笑ってるでしょ!」
「だってそれはおもしろ過ぎます・・・」
さっきまでのしおらしい結花ちゃんは嫌だったがこんなに笑われている状況は違う意味で嫌だ。だれもが結花ちゃんみたいに教養を持ち合わせているわけじゃないのだ。
でも結花ちゃんがこんなに笑ってるの初めて見たな・・・。
そう考えると不思議な気持ちになる。いつもはふふふとお淑やかに笑う結花ちゃんが柄にもなく声をあげて笑っている。普通の女子大生にとっては当たり前だが結花ちゃんがやると魅力的に見えてしまう。
なにかの魔法だろうか・・・。
結花ちゃんは丁寧に万年筆とボールペンの違いを説明してくれた。結花ちゃんに関心しつつも教養って大事だなと痛感した。
「陽葵の初めての万年筆は私の贈り物ですか・・・。『初めて』って嬉しいですね」
「そうだね・・・。『初めて』か・・」
たぶん今後、万年筆を見るたびに思い出すのは結花ちゃんだろう。例えそれがどんな万年筆だったとしても。
それほどまで「初めて」というものは特別で大切なものなのだ。どんなにさり気なく起こったとしても心に刻まれる。ましてや大切な想い人から贈られた「初めて」を忘れるはずがない。
それがたった一つの万年筆だったとしても。
パカッと蓋を開けると黒い光沢のある万年筆が輝きを放つ。
「高そう・・・」
「そんなに高くありませんよ。陽葵の初めてには相応しくなかったかもしれませんね」
「いやいや。もらえるだけで嬉しいから」
「これの分も含めて今度の陽葵の誕生日には盛大にお祝いしましょう!」
盛大にってなによ!普通に祝ってくれればいいんだけど。
結花ちゃんのことだからなにかぶっ飛んだことをしないか心配になる。結花ちゃんは常識知らずのお嬢様みたいなところがあるからね。
「ねぇ結花ちゃん」
「なんですか?」
ゆっくりと息を吸って名前を呼ぶといつも通りの綺麗な声が返ってくる。
「ありがと!」
「はい。こちらこそ」
私たちは夕日が照らすテラス席に惹かれるように足を揃えた。
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