第29話 お買い物デートは超楽しい!! 〜結花ちゃんの水着姿は反則です!〜

 映画を観たあと、時間はお昼を過ぎていた。映画館でポップコーンを食べてしまいお腹はあまり空いていなかったフードコートで軽く食事をとった。食事を摂ることは大学でもほぼ毎日と言っていいほどしていたし映画の感想を話すのに夢中になっていたのでいつも通りにふるまえたと思う。


 改めて2人でお出かけと言われると緊張してしまうのだ。


 夏休みということもあり結構混み合っているが身動きは全然取れる。昼食を食べたあとの今は色々と見て回っているところだ。


「結花ちゃん。次どこ行く?」

「そうですね・・・そろそろ水着を見に行きましょうか」

「そうだね」


 実は私の地元には海がある。家から徒歩何分とか言うほど近くはないが高頻度で行けるほどの距離だった。中学生頃までは両親や朔とも海に入った。

 高校生になってからは水着が恥ずかしいという理由で行かなかった・・・そうじゃん。結花ちゃんと海に行くってことは水着着なきゃいけないじゃん。


 水着はスタイルが出るから嫌なのだ。結花ちゃんのスタイルがいいの言うまでもなくそれに対して私は太っているわけではないが普通だ。


 普段の怠惰がここになって出てくるとはと思うが今からではどうにもならない。


 こうなったらできるだけスタイルが出ないものを選ばなくちゃ・・・。


「ここはどうです?水着の取り扱いだけでなく洋服の品揃えも豊富ですよ」

「うん。私ここで服買ったことあるな・・・」

「そうなんですか!じゃあ後で服も見てみましょう!」

「そうだね」


 そのお店の入口にはオシャレな服を着たマネキンが置いてあって雰囲気もいい。以前来たときは一人だったこともあり入りにくいと思ったが結花ちゃんも一緒だと心強い。


 入口のほうへ足を向けると金髪セミロングで大人びた服を着た女性が立って・・・。


「ってユミちゃんじゃん!!」

「久しぶり、陽葵!!」


 ユミちゃんはそう言って私に抱きついてくる。なんでいきなり・・・?

 金髪セミロングの髪が私の肩にチクチクと刺さってくすぐったい。


「陽葵に触らないでください!今日は私のものです!」


 そう言って結花ちゃんは私をユミちゃんの腕の中から引き剥がす。そうするとユミちゃんの力が強くなって苦しいよ・・・。


「あっ坂井さんですか」

「あっ吉河さんね」


 2人はペコリとお辞儀をする。ユミちゃんはいつも通りとも言えるおしゃれな格好だ。

 そもそもユミちゃんって結花ちゃんと知り合いだったの!?

 さすがコミュ力おばけユミちゃん・・・。


「ユミちゃんはここで何してるの?」

「バイトだよ。私ここでバイトしてるから」

「えっ」

「陽葵には服屋でバイトしてるって言ったことあるでしょ」

「そうだけど・・。ここだとは思わなかったよ」

「そっか。ちなみに陽葵と吉河さんはデート!?」

「はい!!」


 そんなにはっきり言わなくてもいいでしょ結花ちゃん。デートだなんて恥ずかしいよ。

 その答えに対しユミちゃんはそっかと言ってごまかすように笑った。なにか嫌なことでもあったのだろうか。


「じゃあうちで服見てけば?今の時間は空いてるよ」


 ユミちゃんの働くアパレルショップのなかは確かに人がまばらだ。他のお店に比べても少ないように見える


「そうですか。じゃあそうさせていただきます」

「ちなみに2人は何を買いに来たの?」

「水着です」

「もしかして陽葵の実家に帰省でもするの?海近かったよね?」

「そうじゃないけど・・・」

「陽葵の実家は海が近いのですか!?行ってみたいですね・・・」


 海が近いのは本当だけど・・・。

 結花ちゃんが来るにはうちはみすぼらしすぎるよ。普通の家なんだけど。


「いやいや。うちは遠いし・・」

「私が行っては迷惑ですか?」


 結花ちゃんが上目遣いで私を見る。その表情に心が揺れる。


「いやいや。そういうわけじゃないけど・・」


「はいはいお二人さんいちゃつくなら店の外でやってねー」


 ユミちゃんはパンパンと手を叩きながらそう言った。

 お店の中でこんな話をすることが迷惑なのは納得できたので黙る。申し訳なく思いつつもお店の中を回り始める。


「水着はここらへんだよー」

「そっか。ありがとうユミちゃん」


 辺りを見渡すと華やかな水着が棚いっぱいに並んでいる。フリルのついたものや露出の多いもの。見ているだけで恥ずかしくなってくる。


「っていうかユミちゃん今働いてる時間じゃないの!?」

「うん。そうだけど。一人くらいいなくても大丈夫だよ。きっと」

「それならいいけど・・・」


 周りを見渡せば店員さんらしき人は確かに多い。だからとは言ってユミちゃんが働かなくていい理由にはならないがユミちゃんの服のセンスは信用してるので色々と助かるのだ。


「気にしなくていいよ。これは接客だからね」

「そうなんだ・・」


 友達と話してるだけだろとツッコみたくなるが今回はお世話になるとしよう。

 さっきから結花ちゃんの表情が優れないのは私とユミちゃんが話しているからだろうか。それって嫉妬ってやつですか!?


「ねぇ結花ちゃんはどんなのにする?」

「そうですね・・・。どうせなら陽葵に選んでもらいたいですね」

「えっ。私じゃセンスないしユミちゃんに頼んだら?」

「私は陽葵がいいです!」

「そっか。ありがと」


 結花ちゃんはユミちゃんをヘビの如く睨む。ユミちゃんは軽く受け流すかのように笑う。

 対極的な2人の様子だが一周回って仲が良さそうにも見えてくる。ユミちゃんは私の友達で結花ちゃんは私の好きな人。2人の仲良さげな感じを見ていると心がモヤッとしてきてしまう。


「はいはい。陽葵は恋人の水着を選んであげなー!」

「こっ。恋人・・・」

「えっ。付き合ってるわけじゃないの?」

「いや・・・なんというか」


 ユミちゃんは驚いたように言う。私は結花ちゃんのことが好きだしきっといや私の希望だが結花ちゃんも私のことを好いてくれていると思う。

 それでも私たちの関係に明確な名前はない。友達というのは違う気もするし恋人と表現するのは気が早すぎる。第一はっきり面と向かって告白したわけでもされたわけでもないのだ。


 ちらっと結花ちゃんの顔色を伺うと頬が紅潮している。

 私の最初の結花ちゃんへにイメージは何を考えているかわからない子だった。でも最近は表情豊かで感情を出してくれている気がする。


「私たちは・・・・です」


 えっ。なんて言ったの!?結花ちゃん!!声が小さくて聞こえなかったよ!


 結花ちゃんはボソッとユミちゃんの問いに答えたが私は上手く聞き取れなかった。でもユミちゃんはなにかを納得したように頷いている。


「そうなんだ。じゃあ水着選んじゃおっか!」

「そうですね」


 えー!!やばい聞きそびれてしまった。気になるのにこの状況で聞き直す訳にはいかない。


「陽葵はどういう水着にしますか?」

「そうだね・・」


 私がほしいのはボディーラインが上手く隠れるものだ。私だって痩せているほうではあるが結花ちゃんと並ぶと違いが浮き出てしまう。


「私はワンピースタイプのにしようかな」


 ワンピースタイプの水着は上下くっついていて肌の露出が少なくてボディーラインも上手く隠れる。それに加えてフリルがあるのならもっといいな。


「えー。陽葵はスタイルいいほうなんだからビキニタイプのやつにすればいいじゃん」


 ビキニタイプの水着とは上下で分かれているものだ。もちろのその分露出も多い。


「いやいや。それだと体型が見えちゃうじゃん!」

「全然いいと思うけどな・・・。そうだじゃあとりあえず着てみよう!!」

「えっ。水着って試着出来んの!?」

「うん。普通にできるけど。それで吉河さんにどっちがいいか聞いてみよう!」

「構いませんよ。むしろ大歓迎です!」


 えー!!なんで着る流れになってるのさ!っていうか水着姿を見られるの恥ずかしいよ!


 結局流れに逆らえずに着てみることになった。ユミちゃんから渡された薄いピンクのビキニタイプの水着を持って試着室に入る。

 その水着を来た自分を姿見で見てみるとほとんど裸同然なのではと思ってしまう。それに世の中の女性はよくこんなものを着れるなと尊敬に等しいものを抱いた。


 恐る恐る試着室のカーテンを開けるとユミちゃんと結花ちゃんが立っていた。


「似合ってますよ。陽葵!」

「うん。似合ってるね!!」


 と2人ともとってつけたように褒めてくれても恥ずかしいことには変わりない。胸元も脚もお腹もスースーするし日焼けもしそうだ。


「じゃあ私も陽葵とおそろいのにしましょうかね」

「えっ。本気で言ってる?」

「はい。だってせっかく陽葵と買いにきたんですから」


 そんな事言われたらこの水着以外のを買えないじゃん!!


 まぁ結花ちゃんとおそろいなのは嬉しいけど・・・。


「じゃあ私も一応試着してみますね」

「うん。待ってるね」


 そう言うと結花ちゃんは私が使った試着室の隣の試着室に入った。私はユミちゃんの提案で結花ちゃんが水着に着替えている間に着替えることになった。


 私が私服に着替え終わるのは結花ちゃんの着替えより速かったようだ。私が着替え終わって試着室から出るとそこにいたのはユミちゃんだけだったからだ。


「ユミちゃん。今日はありがとね」

「気にしなくていいよー。陽葵のためだもん!そもそも私は一緒にいただけだし」


 今日のお礼だけは言っておきたかった。ユミちゃんの貴重な時間を私に割いてくれたのだから当然だ。


「それでもありがとね」

「律儀だな・・・」

「この前も相談に乗ってもらったし最近はユミちゃんにお世話になってばっかだね。私」

「陽葵が頼ってくれるのは嬉しいよ!でも陽葵には吉河さんがいるもんね。ちょっと寂しいかも」


 ユミちゃんは作り笑いをした。私にとってユミちゃんは大切な友達。大学に入学したばっかのときも私のことを気遣って話しかけてくれたのだ。


「そんなことないよ。ユミちゃんはかけがえのない友達だから。ずっと友達でいてね」

「うん。もちろんだよ」


 私がそう言ってもユミちゃんは寂しそうな顔の顔のままだ。今まで彼氏だのなんだの言って私を放っておいたくせにと思うがユミちゃんを責めたいとは微塵も思わない。



 シャーっとカーテンが開く音がする。しんみりとした空気を一掃するように試着室から出てきたのは結花ちゃんだ。私のよりも一回り大きい薄ピンク色の水着は結花ちゃんの真っ白い肌のお陰でより目立っていて強調される胸元に目が行ってしまう。


「どっ、どうですか?」

「うん。似合ってるよ」

「それは良かったです」


 結花ちゃんはふふとはにかんだ。頬は水着同様に薄ピンク色に染まっていて可愛らしい。


 結花ちゃんかわいすぎる!!


 恥ずかしくなったのかじゃあ着替えてきますと言ってすぐに試着室へ戻ってしまった。

 そうするとユミちゃんと私の間に沈黙が訪れる。私はこんな空気を変えようとなんとか言葉をひねり出す。


「ユミちゃんはどれくらいここでバイトしてるの?」

「うーん。もうすぐ一年くらいかな」

「そっか。長いね」

「陽葵は駅前のファミレスだっけ?」

「うん。まだ半年くらいしか経ってないけど」


 半年と言ってもシフトに入ってる時間は少ないので同じ半年でも他のみんなとは経験がだいぶ違うだろう。


 結花ちゃんが試着室から出てくるなり水着を買った。なんとなくユミちゃんと顔を合わせると私が裏切ってしまったような気持ちに包まれるのだ。今度会ったときには普通に話せるといいな。


 そんな事を考えながらユミちゃんがバイトをしているお店を出た。

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