第28話 お買い物デートは超楽しい!! 〜待ち合わせと映画!〜
今日は待ちに待った結花ちゃんとのお買い物の日。
服装にも髪型にも気を遣って来たので結花ちゃんと歩いていても見劣りすることはないと思いたい。今日の私の服装はベージュのミニスカートに白のTシャツだ。至って普通だが違和感がなければいいと妥協した結果だ。そもそも私にセンスなんてものはないのだ。
待ち合わせ時間より早く着いた私は端っこでひっそりと結花ちゃんを待っていた。日陰を選んだので日焼けの心配はないが結構暑い。8月もまだ始まったばかりなのだ。
実は私、今日結花ちゃんとお出かけするのが楽しみでならなかった。そもそも結花ちゃんへの想いを自覚してからどこか変だ。結花ちゃんという存在が頭から離れなくて時間があるとすぐに結花ちゃんのことを考えてしまう。まるで結花ちゃんがこの身に刻まれているみたいだ。
「陽葵。おまたせしました」
なんてことを考えているとあとから来た結花ちゃんが元気な声で話しかけてくる。ドキッとしたのを抑え込みいつも通りを心がける。デートなんて大事な日にボロを出したくないのだ。
「いま来たばっかだから気にしないで」
「そうですか。ありがとうございます」
今日の結花ちゃんの服装はクリーム色のワンピース。落ち着いた感じが出ていて可愛すぎる!!
結花ちゃんが可愛いのは当たり前だが何度でも叫びたくなるのだ。
「結花ちゃん。その服いいね・・・」
「そっそうですか・・・。陽葵の服もいいですよ」
「そっか。ありがと」
どこか距離がある気がするんだけど・・・。
ちらっと横を見ると結花ちゃんの頬は朱に染まっている。確かに外は暑いのでそろそろ中に入ったほうが良さそうだ。
「じゃあ行こっか」
「そうですね」
「初めにどこ行く?水着買いに行っちゃう?」
「そうですね。映画にいきましょう!!」
いやいや。そんな話聞いてないけど!!買い物じゃないの!?
でも結花ちゃんと映画っていいかも・・・・。これは行くしかない!!
結花ちゃんと話したのは海水浴にための水着を買いに行くということだけだ。ちなみにここのショッピングモールにはたくさんのお店が入っているだけでなく映画やゲームセンターなどの娯楽も充実している。
私も買い物をしに何回か一人で来たことがあるがここまで広い施設に未だに慣れないのだ。
「うん。いいよ」
「今日の陽葵はいつもと違いますね」
「えっ。そうかな・・・」
確かに私はいつもと違う。いつもはあまり気にしない身なりだってある程度は整えてきた。
それは結花ちゃんとの貴重なデートを無駄にしたくなかったからだ。
全力でデートに取り組んで結花ちゃんに私を好きになってもらうんだ!!
「いつもなら何で急にって否定から入るというか・・・」
「なんかごめんね」
「いえいえ。否定しないでいただけるようになったのは嬉しいです」
「でも嫌だったわけじゃないよ」
「そうですか。しつこいって思われてるかもって心配だったんですからね」
「ごめんね・・・」
「そこまで謝るなら今日、陽葵は私のものです!」
「ゆっ、結花ちゃんのものって!?」
結花ちゃんとあんなことやそんなことを・・・。いやいや流石にそういう意味じゃないか。
「今日は私に振り回されてもらいます」
ドヤッと自信満々に言う結花ちゃん。そして満更でもない私。
「別にいいけど・・・」
「いいのですか!?じゃあ仕方ないですね」
いいと思ってなかったんかい!まぁ喜んでる結花ちゃんも可愛いですよ!!
そもそも私は結花ちゃんに振り回されてばっかだったのでもう慣れっこだ。そもそも私は誰に対しても積極性に欠けるのである程度リードしてくれるのは助かるのだ。
「ほらほら。行きますよ!!」
「あっ。うん」
「まずは映画です!」
これは振り回す気満々だな。結花ちゃん。
私は結花ちゃんから差し出された手をしっかり握って一歩足を進めた。
映画館には夏休みの初めということでたくさんの人がいた。小学生ぐらいの小さい子どもからお年寄りまで幅広い層だ。
こんなに多くの人がいると結花ちゃんと手を繋いでいることが急に恥ずかしくなってくる。そして気になるのは手汗だ。こんなに暑いのだから手汗が出てしまう。
横目に結花ちゃんを捉えると顔色を変えずに上映スケジュールを眺めていた。
「ねぇ結花ちゃん」
「なんです?」
「なんの映画みるの?」
「そうですね・・特に観たい映画とかはないので陽葵の好きな映画でいいですよ」
えっ。私。映画なんてほとんど観たことないよ。
ご存知の通り私は陰キャだ。好みの映画なんてものもないしそもそも映画を観た経験もほとんどない。
「うーん」
「陽葵も観たい映画ないんですね」
「う・・うん」
「じゃあ適当に決めちゃいましょうか!見始めるたら大体面白いですよ」
「そうだね」
「じゃあこれでどうです?」
結花ちゃんは少しの間上映スケジュールとにらめっこしてそう言った。結花ちゃんが指さしたのは『精霊は深い森に眠る』というタイトルの映画でテレビのコマーシャルで最近よく見るものだ。そういえばユミちゃんもこの前見に行ったとか。
結花ちゃんと私は不手際ながらもチケットを取ることができた。話題になりつつある作品でかつ夏休みということもあり席は埋まりかけていたが2人並んで席を取れたのは奇跡かもしれない。
「いいね」
「じゃあ決まりですね」
「結花ちゃんはポップコーンとか食べるの?」
「ポップコーンって映画館で食べるって言われてるやつですか?」
「そうだけど・・」
「食べたいです!!」
結花ちゃんは小さい頃から娯楽というものに親しみがないようだ。私も友達が少なかったので遊びとかには詳しくないが結花ちゃんよりは知っている。
でもそのことがちょっとだけ嬉しく感じるときもある。だって新しいものを見る結花ちゃんの目は大学生とは思えないほど輝いていて希望に満ちているように見えるのだ。
そしてそんな結花ちゃんを見ていると自然と微笑ましくなるのだ。しかも可愛いし!
でもそれ以外のときは何を考えているのか掴めないことも多い。真顔で冗談言ってくるときもあってどうしていいかわからないのだ。
「でもよく見ると量が多いですね。これじゃあ昼ご飯が食べれなそうです・・・」
「じゃあ一緒に食べようよ!」
「いいんですか?」
「うん。ポップコーンは映画での醍醐味だからね」
「ありがとうございます」
売店で少し並んで私はメロンソーダ、結花ちゃんはオレンジジュース。そして2人で食べる用のポップコーンを買う。ちなみにポップコーンは定番の塩味で私の一番のおすすめだ。
そういえば昔お母さんがポップコーンをおやつに作ってくれたな・・・。
入場までは10分ほど時間があるので映画館の中で時間を潰す。それぞれトイレに行ったり物販を見たりしていたらあっという間に過ぎていった。
「そろそろですね・・」
「そうだね。結花ちゃんは映画観たことある?」
「映画館で観るのは初めてですね。迫力があると聞いたことがあります」
「うんそうだよ」
「陽葵といると私の初めてが塗り替えられてきますね」
「そうかな」
「そうですよ。そのときの陽葵の表情も好きです」
いやいや。好きとかそんなにストレートに言わないでよ!!照れちゃうから。映画どころじゃなくなっちゃうから!!
「私ってそんなに表情変わるかな」
「すごい変わりますよ。楽しいんだなってときはすごく笑顔ですし凹んでるときもすぐに分かります。だからこの前のことは謝りたいです」
きっと結花ちゃんは私が結花ちゃんにスルーされて悩んでたのを知っていたんだろう。でも結花ちゃんには事情があってそのままにしておかなきゃいけなかった。
そんなことだろう。
もともとその時のことで結花ちゃんを責めることなんて考えつきもしなかったのでどうでもいいと思えるが。
「そうなんだ。結花ちゃんは表情に出ないときも多いよね」
「そうですか?私は陽葵の前では正直ですよ」
「そうかな・・」
「はい。むしろ私の気持ちに気づいてください!!」
「うん・・。頑張るよ」
結花ちゃんの気持ちってなんだろう・・・。
そのことを考えていると入場開始の案内が始まり私たちは指定された席に座った。席につくと飲み物とポップコーンを手すりに配置し映画を観る体制を整える。
「陽葵は炭酸にしたんですね」
「うん。結花ちゃんはオレンジジュースだったね」
「子どもっぽいですか?」
「ううん。可愛いよ」
結花ちゃんの家庭では炭酸飲料を飲むこともなさそうだしねと苦手なのも頷ける。そもそも炭酸飲料を飲めなくても困ることなんて一切ないのだから問題はないはずだ。
「普通にそういう事言うのやめてください。恥ずかしいでしょう」
「ごめんって」
「最近陽葵は私にそういうことばっか言う・・・。私への仕返しのつもりですか?」
「なんでだろうね・・・」
結花ちゃんは私への仕返しだと思っているかもしれないが実際はそうではない。感情に任せて言葉を放つと毎回そうなってしまうのだ。心のなかでは結花ちゃんの頭を撫で回したいと思ってしまう。せめて言葉で愛情を伝えないと私の気持ちが収まらない。
「あっ。そろそろ映画始まりますよ!!」
「そうだね」
電気が消えると劇場内は一瞬沈黙に包まれる。それをかき消すかのような大音量とともに映画が始まる。
久しぶりの映画だからかこの音にびっくりしてしまう。
『精霊は深い森に眠る』という映画のストーリーは精霊の女の子リリィがとある国のお姫様のアリアが出会った場面から始まる。リリィは精霊ということもあり人間の住む街に憧れていてアリアは次期国王としての責務から逃げ出したかった。そんな2人は田舎町に身分を隠して暮らし始め対立をしつつも仲を深めていく。そんな中リリィが精霊にしか罹らない特殊な病気に侵されてしまう。一秒でもリリィに長生きしてもらいたいアリアとアリアに自分のことを忘れて幸せになった欲しいリリィのガールズラブ作品だ。
「アリアあなたには幸せになって欲しいのよ」「リリィがいないのに幸せになんてなれるわけないじゃない」
どれだけ涙をこらえても収まらない感動のラスト。
肘掛けに置いていた私の右手に結花ちゃんの指が絡まる。結花ちゃんの瞳には涙が浮かんでいてそれがスクリーンの光を反射していた。
えっ・・・。これじゃあ内容入ってこないよ・・・。
「面白かったですね」
「うん、そうだね」
そんな私のことなんてつゆ知らず。結花ちゃんが話しかけてきた。
「結花ちゃん。私の手を握ったでしょ?」
「そうですか?すいません。無意識です」
無意識なら何にも言えないじゃん!!
結花ちゃんが手を握ってきたせいで終盤は内容は追えたものの感動は収まってしまった。まあこの無駄にした感じも結花ちゃんと来ていなければ味わえなかったのだから皮肉だ。
顔を赤くする結花ちゃん可愛い。最近、結花ちゃんが顔を赤くしているのが多い気がするな。
「じゃあお昼にしましょうか!」
「そうだね。残ったポップコーンはどうする?」
「持って帰りましょう!!」
「そうだね」
そう言って私たちはショッピングモールの人混みの中に足を踏み入れた。
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