第25話 気持ちの整理
ユミちゃんとはカフェの前で別れ、家に帰る。日差しはもう弱まっていて夜の兆しが見え始めている。生暖かい風は右から左に流れていき猛暑という程ではない。
心が軽くなると足取りまで軽くなっている気がする。スキップとまではいかないが足の指先が跳ねたがっている。疲労も取れていまはここ3日で一番元気だ。
ふふん。この流れで結花ちゃんとも仲直りできるかな。
私は結花ちゃんのことが好きなのかもしれない。まだ確信したわけじゃないけど好きという言葉が一番しっくりくる。少なくとも友情ではないこの気持ちは高まっていってるようだ。
結花ちゃんとどんなことお話ししようかな。といまはこれだけが楽しみで仕方がない。ただ話すことを考えただけなのに胸が高鳴ってきてしまう。やっぱり恋なのかな。
よく考えると私はお泊り会のときもドキドキしっぱなしだった。結花ちゃんが急に来たからだと思っていたがそれだけじゃないような気もする。
家に帰って玄関を開けただいまと言うと朔のおかえりという声が返ってくる。去年はまだ朔が上京していなかったので声が返ってくるのは少し嬉しい。
「ねーちゃん。元気になった?」
「そっそうかな。なんで?」
「最近目に
「大丈夫だよ。もう」
「そっか」
朔は部屋から出てきたと思ったら話が終わるなりすぐに部屋に戻ってしまった。まあ男子高校生なんてそんなもんかと考えるが少し寂しさもある。心配してくれただけで嬉しいんだけどね。
帰りに買い物を済ませていたので玄関から冷蔵庫に直行し生ものから順にしまっていく。今日の夕食は冷しゃぶサラダに手羽先を焼いたやつとご飯と味噌汁だ。いつもよりも品数が多いのは心に余裕ができたからだろう。
まぁ心に余裕ができたといっても結花ちゃんの留学の件についてはまだどうしていいか手探りだ。私が結花ちゃんのことを好きだとしてそのあとがわからない。好きです!行かないで!というわけにもいかないし・・・。
もしかして根本的にはなにも解決してなかったじゃん!!
でも結花ちゃんなら私の想いを伝えれば・・・。ぬぉ!そういえば初めてあったとき・・・。「一目惚れしちゃってなかよくなれたらなって・・・」的なこと言ってたよね!?
これって完全に脈アリじゃん。えっ。結花ちゃん私のこと恋愛的な意味で好きなの?
いやいやでも。あの吉河結花ちゃんが私・・・。
なわけないと思うがそう考えると頬が熱くなってくる。
私はずっと結花ちゃんの気持ちから目を背けていたのかもしれない。「私なんか」とか「なんで」とか否定してばっかだった。それできっと結花ちゃんの思いを踏みにじって傷つけていたんだ。
だから結花ちゃんは「陽葵は鈍感です」という台詞を残したんだと思う。ユミちゃんも同じようなこと言ってたしね。
私に思いを汲んでほしいという気持ちがあったのかそれともそうじゃなかったのかはわからないけどその思いに誠心誠意答えたいと考えてしまった。
「朔。ご飯だよ」
「わかった」
料理を済まして朔を呼ぶ。調子に乗って品数を増やしたがそこまで複雑な手順があっったわけではないので意外と速く終わった。
朔は部屋から出てくると私の目の前の席につく。何もしないんかいと思うが片付けは任せるとしよう。
「今日品数おおくね」
「ちょっと張りきっちゃって」
「まぁ元気になったようでなにより」
朔は以前私に告白を受け入れるべきか相談してくれた。その後どうしたのかは知らないがなにかあったような素振りは見せない。
「そういえばこの前言ってた子と付き合ったの?」
「えっ」
「あの告白されてどうするか?みたいなのあったじゃん」
「あーあれね。結局断ったよ」
「なんで!?もったいない!」
「好きじゃないのに付き合うのも違うだろ」
「確かにね・・・」
「なんか悩んでるの?」
私の不自然な様子に朔は感づいたのだろう。あと一歩なにが助言が欲しいのだ。
「別にそんなんじゃないんだけど」
「ねーちゃんは相手のこと考えすぎるからな。自分の気持ちに素直にならないと良い相手にも逃げられるんじゃね」
「そうなのかな・・・」
「うん。知らんけど」
いや。知らんけどってなによ!その保険をかけるような発言は!
こういうときにビシッと意見を言ってくれる朔を頼もしく思いながらも弟だと思うと恥ずかしくなる。我ながら不甲斐ない姉なのは分かってるが身長の差もありどっちが年上かわからなくなってきている。
自分の気持ちに素直になる・・・か。
確かに私は相手に意見に乗っかることが多かった。当たり障りのないことしか言えなくて。要するに嫌われるのが怖かったのかもしれない。
でも大学に入って状況が変わった。
他人の意見に乗っかるだけじゃダメなこともあるし自分の考えを聞いてほしいと思うことだってある。
恋か・・・。
ずっと憧れていたこの感情をついに味わえた。想像とは大きく違ったけど新鮮な気持ちだ。物語みたいな華やかなものじゃないけどこれはこれでアリかなと思える。
今になって可能性から確信に近いものに変わった気がする。きっとこうやって自分の思いは形になっていくのだろう。
夕食の片付けは朔に任せて私は少し早めの眠りにつく。眠気は覚めていたがすることもなく手持ち無沙汰だったのだ。明日は結花ちゃんとしっかり話そうと心に決め温かい布団のなかに入った。
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