第24話 特別編 ユミちゃんの秘密!?
※坂井ユミ視点です
私、坂井ユミは経済学部に通う大学2年生。趣味は特にはないけど友だちと遊んでるときは少し楽しいかも。
陽葵とのカフェデート(陽葵本人は絶対そう思ってない)が終わったあと私はまっすぐ家に帰った。カフェでヒカリと会うということは想像もつかなかったので一応弁明をと思ったのだ。
「ただいま」
陽葵の相談を聞いたあとはそれぞれ家路についた。昼間が長い夏でも薄暗くなっていた。いつも帰るのはもっと遅いがヒカリを放っておくのはよくないはずだ。ドアを開けると
「おかえり。今日は早いわね。ユミ。罪悪感でもあったのかしら」
同棲をしてる訳では無いが最近はヒカリか私がどちらかの家に泊まることが増えていた。ヒカリのほうが帰るのが早いのでほとんどヒカリの家に泊まるんだけどね。
「そんなんじゃないけどねー。なんていうか」
私とヒカリは付き合っている。だけどそれはお互いの想いが重なったわけではないのだ。私には私の好きな人がいてヒカリにはヒカリの好きな人がいる。
でも結ばれることはありえないから二人で心を癒やし合う。それだけだ。
「そうなのね。ご飯できてるわよ」
「ありがと」
ご飯を作るのはヒカリの仕事だ。私はそもそも料理なんて出来ないからやってもらっている。その代わり掃除や洗濯とかは手伝わせてもらうこともしばしば。本当はヒカリのほうが1歳年上なので年下の私が働かなきゃいけないのだけど。
「ユミが好きなのはあの一ノ瀬陽葵よね」
「えっ」
ヒカリは表情を変えることなく言った。表向きは恋人なんだからそんなに澄ました顔じゃなくてもと思う。
お互いの恋路には邪魔をしないそれが付き合い始めたときのルールだ。だからヒカリは私が誰が好きと知らないのはもちろん私もヒカリが誰が好きか知らない。はずだった。
「やっぱりね。あんなにわかりやすかったもの」
ふふんと鼻を鳴らすとヒカリはキッチンに行ってしまった。
私が陽葵を好きになったのは大学1年生の春。
入学式で目の前の席に座っていてやけに目を引く女の子。桜のような色の髪にうっかり見とれてしまいそうになった。
どんな子なのか気になって話しかけてみると緊張していて
入学式が終わり校内を一緒に歩いていると桜が降ってきていた。太陽は優しく陽葵を照らし彼女の髪は輝いた。そのとき流れた時間を私は忘れることが出来ない。
きっとその時恋に落ちたのだろう。異常なまでのドキドキが胸の中に押し寄せてきて息が苦しくなったのだ。
あどけない彼女の顔、私と同じくらいの身長。未成熟な胸。
その瞬間に全てが愛おしくなって居ても立ってもいられなくなったのだ。
「そうかなー。まあバレちゃったなら仕方ないね。言っちゃだめだよ」
「分かってるわよ」
ヒカリは物分かりが良いほうだと思う。お互いの不足を補う関係でも関わってる時間はここ1年誰よりも長くヒカリのことを理解してきている。
まぁ始めはヒカリって名前が陽葵に似てたからくらいのノリだったんだけどね。
「今日の晩ご飯は?」
「生姜焼きよ。まったくあんたも料理しなさいよ」
「えーだって料理とか無理だし」
陽葵も料理は苦手だって言っていた。だけど陽葵は弟が上京したのをきっかけに上手くなったとか。
ヒカリは手際よく料理を進めると机に運んできてくれる。さすがに何もしないのは申し訳ないので最後の食器洗いだけはやらせてもらうが割ったお皿の枚数は数しれずだ。
いただきますと手を合わせ箸を持つ。ヒカリの料理は家庭的な味がする。美味しくて食べすぎてしまうことのがほとんどだ。
「ヒカリの料理は美味しいねー」
「当たり前よ。なにせ私は天才よ!」
「そういうのはキャラじゃないからやめた方がいいよ・・・」
「失礼ね!」
パクパクと生姜焼きとご飯を交互に頬張る。ヒカリと出会ってからはこうやって温かいご飯を食べることも増えた。完全に私が得をしてるだけだが、もともとお互いの不足した感情を補う利害関係なのだからあまり気にしすぎるのも違う。
「そういえば、ユミ」
「どうしたの?」
「吉河さんって知ってるわよね?」
「うん。知ってるけど」
「アメリカに留学するらしいわよ」
「えっ・・・」
陽葵が言ってた人もアメリカに留学。そして吉河さんも。
ってことは陽葵の言ってた人って吉河結花じゃん!吉河さんが一目惚れしたって言ったのは陽葵!?
わけわかんない。
「なんであんたが動揺してんのよ。まさか一ノ瀬陽葵以外とも関係を!?」
「断じて違うから・・・。っていうか仮にそうでも問題なくない?」
「問題はないけど・・・そういうのは言ってほしいわ」
そもそも陽葵とも吉河さんとも関係をもってるわけでもない。ヒカリは普段はおっとりしてるがこういうときには性格が変わるんだな。
ヒカリは少し寂しそうだ。この生活も気に入ってるのだろうか。お互いが代替の存在でも気にしないのだろうか。
私は無理だ。陽葵が吉河さんの思いに気がついたらきっと結ばれてしまう。それだけは・・嫌だ。
いままで味わったことがないモヤモヤしたなにかが心の中でうごめいてるような不思議な気持ちだ。
「なんでそれをヒカリが知ってるの?」
「あーそれね。私は結花のいとこなのよ」
「えっ」
「と言っても長い間、話したことがないけどね」
「そっか」
ヒカリは別に吉河さんと雰囲気が似てるわけでもない。ヒカリは身長が高いし吉河さんとは体の作りも違うようだ。
「ユミ。手が止まってるわよ」
「あーごめん」
「ユミのために作ったのだから食べてもらいたいわ」
「うん」
いろいろ衝撃なことが多いなと考えながらご飯を口に放り込む。陽葵は恋愛なんかとはほど遠い存在だからと油断していた私が悪いとわかってるのにやるせなさに包まれる。
やけ食いなのは分かってるがお腹は空いていたのだ。今夜はパーッと食べようと決めた。
気がつくとお皿に盛り付けられていた生姜焼きもお茶碗のご飯も食べ終えていた。お皿洗いは私の仕事なのでさっさと済ます。
夕食後はそれぞれ自由の時間を過ごす。私はSNSを徘徊してヒカリはテレビを見てることがほとんどだ。
「ねえユミ。私はそろそろ寝るわ」
「そっか。じゃあ私も寝よっかな」
「そうね」
リビングの電気を消して寝室に行く。もちろん恋人同士なので寝室はヒカリと一緒だ。初めは躊躇いもあったがもう慣れた。そんなもんかという感覚だ。
「ユミ・・・」
そんな魅惑的な声でヒカリは囁く。
「またかー」
「夜は長いわよ」
毎回このせいで朝遅くなるのだ。寝るのが遅くなるから・・・。
「仕方ないなあー」
「ふふふ。可愛いわよ。ユミ」
「はいはい。ヒカリもだよ」
あっという間に感じられる時間が始まりはいつも通りだ。ヒカリは私の頬に唇をそっと落とす。
不満足な心を騙すにはちょうどいい時間だ。
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少し本編とは逸れたお話でしたが読んでくれてありがとうございます。
陽葵と結花の恋の模様は次回から続きますのでそちらもお楽しみに!
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