第19話 突然の大告白!?
夏休みまであと2周間。
大学の雰囲気も夏休みムードになりつつある。
遊びに誘ったり計画を立てるもの。バイトの予定を限界まで入れるもの。
どちらでもない私はふぅとため息をつく。大学生の夏休みを満喫したいという気持ちをまだ捨てきれないのだ。
「どうしたのですか?浮かない顔をして」
「なんでもないよ」
私に話しかけてきたのは結花ちゃんだ。いまさっき大学の講義が終わって一緒に帰っている。さすがに夏休みの予定がほとんどないことに対して不満だと言うわけにもいかない。
バイトをもう少し入れようかと思ったが私が住んでるのは学生街。夏休みにシフトに入ろうとする大学生なんて山程いるのだ。
まあ結花ちゃんを誘ってどっか行くのもアリだね。
「そういえば結花ちゃんはバイトとかやってるの?」
「急ですね。私はバイトなんてやったことありませんよ。社会経験にいいとか聞いたことがありますけどね」
さすがお嬢様。このくらいの年頃の大学生はほとんどバイトしてるはずなんだけど結花ちゃんは違うらしい。
「そうなんだ」
「陽葵はなにかバイトをしていますか?」
「私は駅前のファミレスだよ」
ちなみにユミちゃんがアパレル関係のバイトだ。この前自分が作ったマネキンのコーディネートが一式売れたとかなんだとかで喜んでいた。
私には服のセンスなんてほとんどないのとコミュ力も皆無なのでそんなことは出来ないだろう。
私のバイト先のファミレスは大学の最寄りなのでお客さんの大半が学生で働きやすい。特に大きな失態をすることもなく働けている。
そもそも親からは朔の分の生活費を含めてバイトをしなくても暮らしていける程度の仕送りを貰っている。
私がそれでもバイトを始めた理由は特にはない。ただみんながやってるからという安直な考えで始めたのだ。
「そうなんですか。じゃあ今度会いに行きますね」
「いや。いいよ来なくて」
「行きます。陽葵の制服姿を見ておかないといけませんし」
「そんなに目新しいものじゃないよ」
「それでも。です」
来られると困るわ!!
私だって接客をするときは営業スマイルを保っているはずだ。そんなところに結花ちゃんが来たら素の私が出てしまいかねない。
「そうです。陽葵。あそこのベンチで話していきましょうよ!」
「いいけど・・・なにを話すの?」
「ちょっと話したいことがあるんです」
何を?って聞いたんだけどな・・・。
結花ちゃんの表情はいつになく深刻でいままでとは大違いだ。
大学の中には様々なところにベンチが設置されている。昼食をとるときや雑談をするときなど思いの外使われているのだ。
木陰にあるベンチに腰を下ろすと夏でもやや涼しい風が流れてくる。その風を受けて結花ちゃんのロングヘアは揺れる。
私は肩までしか髪がないのでロングヘアは羨ましく思う。でも私は髪の手入れが苦手なのだ。私は髪質が良いため少し手入れをするだけ、と結花ちゃんが言っていたがそもそもやり方がよくわからない。
今度結花ちゃんに教えてもらおう・・・。
最近は結花ちゃんとも友達っぽくなってきて遊びに誘ったりもする。だからこのままの関係が続いたらなと思うのだ。
そんな矢先の結花ちゃんの言いたいこと。他愛のないことだといいなと思いつつもいつもと違う雰囲気だと感くぐってしまう。
「それで結花ちゃん。話ってなに?」
「あのー。先日陽葵の家にお泊りさせていただいたじゃないですか」
「うん」
結花ちゃんは落ち着いていや淡々と話し始める。そういえば結花ちゃんが泊まりに来た理由を詳しくは聞いていない。その時は初めてのお泊り会で自分のことで手一杯だったが話ぐらいは聞くべきだったと後悔していたのだ。
「その理由と言いますか・・・」
「そっか。気になってたんだよね」
「実は私、アメリカに留学することになりまして」
・・・。
アメリカ
米国
USA
アメリカ
・・・。
えぇぇぇぇぇぇぇ。
せっかく仲良くなったのに!!
「なんで急に」
「お父様がそう言ったので・・・」
「結花ちゃんは行きたくないんでしょ?」
結花ちゃんはあの晩逃げ出してきたのだろう。何も持たずに外に出て、雨に吹かれてびしょ濡れになっていた。それの原因がアメリカ留学の件ならなぜ受け入れてしまったんだろう。
「私個人の行きたいかどうかは関係ないですよ」
「それでも・・・」
「だから当分陽葵には会えないってことが言いたかったんです」
結花ちゃんは諦めているのだろうか。自分ならどうしようもないと。
感情を殺したように笑う結花ちゃんはやはり寂しそうだ。
「ちなみにいつから行くの?来年とか?」
「来月です」
来月!?
さすがに急すぎるよ!!
あっ。だから最近なんか変だったのか。
「そっか。気をつけてね・・・」
私が自分で発したはずのその言葉にどこか違和感を覚える。
おうちの事情で私に止める権利なんてないのに寂しそうな表情の結花ちゃんを見ると心が痛む。
私はどうすればいいんだろう。
風の音にかき消されそうなほどのひくひくとすすり泣く声が聞こえる。声の主は考えるまでもなく結花ちゃんだ。
私より一回り小さい肩は僅かに震えていて漆黒の瞳は潤んでいる。
「大丈夫?結花ちゃん」
「はい」
結花ちゃんのその声は弱々しくて決して大丈夫そうには見えない。風に消えていきそうなほどの声量でも私にははっきり聞こえた。
「結花ちゃんはアメリカに行きたいの?」
「だから・・・お父様が言ったので」
「そういうことじゃなくて。何ていうか・・・いまは結花ちゃんの気持ちを聞いてるんだよ」
「私は・・・行きたくなんかないですよ。でも行かないと」
きっと結花ちゃんにとって社長である父親というのは絶対的な存在なのだろう。小さい頃から両親と会話をすることが少なかったということは知っていたがここまで溝があるとは考えたこともなかった。
「行きたくないってお父さんに言ったの?」
「もちろん言いましたよ。だって陽葵と離れたくないですし・・・」
いやいや。こういうところで変な冗談挟まなくていいから!
でもだめでした。と結花ちゃんはボソッと呟いた。
「そっか」
「別に陽葵が気を悪くする必要はありませんよ」
「そう言われても・・・」
結花ちゃんが留学したくないのなら私は留学は笑顔で見送ることは出来ない。行かないでと止める事もできないので板挟み状態だ。
「ねぇ結花ちゃん。バッティングセンターに行かない?」
「急にどうしたのですか?」
「ちょっとね。気晴らしになるよ」
家の事情なら私が関わるのも変な話だ。ただ悲しそうな結花ちゃんを放っておくのはなんとなく良心が傷んだ。
そこで私が選んだのはバッティングセンター。野球が好きという訳では無いが上京して以来たまにストレス発散に使っていた。
「このまま沈んだテンションのままじゃだめですからね。私は陽葵の制服姿も見ないとですし」
「いや・・・。制服はいいんじゃないかな・・」
「いやです」
どうやら気を取り直してくれたようで何よりだ。バイトの制服に関してもまあ結花ちゃんの気がそれで収まるならそれでいいのかもしれない。
結花ちゃんの涙は収まっていて目の下が多少赤くなっている。そんな姿を見るといても立ってもいられなくなる。自分には何ができるだろうと自然と考えてしまうのだ。
「じゃっ、行こう!結花ちゃん!」
「そうですね」
私は座っている結花ちゃんに手を差し出すと優しく握り返してきた。
そのあと離すタイミングが分からなくて繋ぎっぱなしだったのは誰にも内緒です。
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