第18話 カフェデートの結花ちゃんはいつもと違うような気がする
私、一ノ瀬陽葵は大学帰りに友人の吉河結花ちゃんとカフェに来ています。
お友達を遊びに誘ったのは私で、少し緊張したけど結花ちゃんには楽しんでもらいたいな。
私が結花ちゃんを誘ったのは最近駅前にできたカフェだ。アンティークな内装に通りかかるたびに憧れて中に入るのを諦めていた。
情けない話、あのリア充空間に一人で入りたくはなかったのだ。
「結花ちゃん。何頼む?」
ここのカフェは席についてから注文する形式で結花ちゃんも私もメニューとにらめっこしていた。
「うーん。そうですね。苺パフェ美味しそうですね」
「そうだね。私は抹茶パフェかな・・・」
「意外と渋いですね」
「いやいや。抹茶は女子大学生も食べるでしょ!」
「そうですね・・」
結花ちゃんは私の勢いに負けて黙り込む。
私はアイスの中では抹茶味が好きなのだ。確かに女子大生が食べるには苺とかよりも華やかさに欠けるが甘くて美味しい。
「陽葵はコーヒーと紅茶、どちらにしますか?」
「うーん。結花ちゃんはどっちにする?」
「そうですね・・・。私は紅茶で」
「じゃあ私もそうする」
「抹茶パフェに紅茶ですか・・・。変な組み合わせですね」
「まっまあ。大丈夫じゃないかな」
そんなこと言われても悪いのは抹茶パフェにつける飲み物がコーヒーか紅茶しかないこの店が悪い。
店員さんに注文を取ってもらったあとは少しの間沈黙が走る。友達だからと言って私に自然と他愛のないことを話す能力はないのだ。
さっきの講義中に結花ちゃんが泣いているのを見てからどう絡んでいいのかわからない。
結花ちゃんがうちに泊まったときも悩みがあったようでその悩みの内容の詳細は聞いていない。言いたがらないのを無理に聞くのは避けようと触れられなかったがさすがに気になってしまう。
「あの・・・。なんで静かなのですか?」
「ちょっとカフェで緊張してて・・・」
嘘だ。ただ私が結花ちゃんにどう声かけていいかわからなかっただけだ。
「そういえば陽葵は今日は何時までに帰らなきゃいけないとかありますか?」
「うーん。朔が帰ってくるのが5時半だからそれまでには、って感じかな」
「それならまだ余裕がありますね。久しぶりの陽葵とのデートです!」
「でっ、デートとかじゃない・・はず・・・。」
結花ちゃんは私と朔の予定を慮ってくれる。大学生が家族のことを気にするのは珍しいらしいけど私はこの生活が気に入っている。
そ・れ・と!
結花ちゃん全然元気じゃん。さっきのしおらしさは何だったの!!
気にしなくて良さそうだよね・・・。
「そういえば陽葵とデートするのは久しぶりですね」
「いやいや。この前うちに泊まったじゃん!」
「お泊りデートだったってことですか・・・」
「そっ、そうじゃなくて」
「ふふふ。うろたえてる陽葵は可愛いです!」
だっ誰か!
結花ちゃんのブレーキを止めて!!!
いつになくおかしなことを言って笑っている結花ちゃんの目だけはいつもより寂しそうだ。
いやいや。気のせいだよね。
なんて話しているとそれぞれのパフェと紅茶が運ばれてくる。結花ちゃんは店員さんに丁寧に礼をしてそれを受け取る。
やっぱりお育ちがいいいんだな・・・。結花ちゃん。
「結花ちゃんの苺パフェ結構大きいね」
「そうですね。メニューで見たより大きく感じます。陽葵の抹茶パフェはなんというか・・・そのままですね」
いや確かに抹茶パフェにはフルーツが乗ってたりする豪快さはないけど上品な味だから!!
「じゃあ食べようか」
「そうですね」
パフェ用の細長いスプーンはひんやりしていて少し気持ちがいい。抹茶アイスを一口分掬って口に入れると外の気温で温まっていた体が冷える。
この濃厚な抹茶とその甘さが好きなのだ。
苺パフェを食べた結花ちゃんも満足そうな表情だ。さっきまでは少し心配だったがっそれも晴れた。
「陽葵も一口食べますか?」
「えっ、いいよ」
それって間接キスじゃん。
「遠慮しないで食べてください!」
遠慮してるわけじゃなくて・・・。
いろいろ問題があるでしょ!
あっ、でも同性だからないのか・・・。うん、ないよね!
「じっじゃあ」
そう言って私はスプーンを持つ。
「はい。あーん」
食べさせてくれるんかい!
そこまでしてくれなくても・・・。
抵抗する間もなく結花ちゃんが口に苺アイスを入れてくる。
抹茶アイスにはなかった苺の酸味と甘さが口の中に広がる。
「どうですか?」
「美味しいよ。抹茶パフェも食べる?」
「はい。じゃあいただきます」
「うん。じゃあ取っていいよ」
そう言って抹茶パフェをお皿ごと結花ちゃんに渡すと不服そうな顔をする。
えっ。私もあーんしなきゃいけないの・・・。
「食べさせてくださいな。陽葵」
やっぱそう来たか!!私は結花ちゃんのことわかってますからね!!
「しょうがないな」
仕方なく抹茶アイスをスプーンですくって結花ちゃんの口に運ぶ。
「陽葵手が震えてますよ」
「きっ、気のせいだよ」
「そうですか・・・」
だって誰かにあーんするのなんて初めてだし!いや小さい頃、朔にしたことあるかな・・。
口元に運ぶと歯にあたってカチカチと音がなる。
申し訳ない・・・。
それでも結花ちゃんはスプーンに乗った抹茶アイスを嬉しそうに頬張る。
「歯に当たっちゃったけど痛くない?大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「よかった」
「それにしても陽葵は食べさせるのが下手ですね。今度練習しましょう!!」
「こっ、今回は緊張してただけだから!たまたまだから!」
「ふふふ。そうですか」
私が譲歩された感じになってない?私が子どもみたいじゃん!!
「じゃあ私がもう一度食べさせてあげます」
「なんでよ!?」
「あーんの仕方を教えてあげます」
「いやいや。別に教わるもなにもないでしょ・・・」
私の抗議も虚しく結花ちゃんはもう一度スプーンに苺アイスを乗せる。
「はい。あーんです」
あーんですってパワーワード過ぎない!?普通一緒に使う言葉じゃないでしょ!
2回目の苺アイスは結花ちゃんの会話で温まっていた舌を冷やす。
まぁ。苺アイスも悪くはないね。
「ありがとね」
私の意思には反しているが貰ったのだからお礼を言う。
「はい。じゃあ今度は陽葵の番です」
「えっ。まだやるの?」
「もちろんです。練習ですから」
この食べさせ合い的なやつのせいで私は抹茶アイスよりも苺アイスの方を多く食べる羽目になった。
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