第15話 お泊まり会は大波乱!? 〜結花の帰宅と今後の約束(?)〜
朝、カーテンの隙間から漏れてくる光に目が眩む。ベッドはいつもよりも固くて寝心地はお世辞にも良かったとは言えない。
そうだ。結花ちゃんに私のベッドで寝てもらったんだ。
だけど少し手を動かすと綿糸の束のようなサラッとした感覚が伝わってくる。訝しんで耳を澄ますとすーすーと心地よさそうに眠る音がする。
ん?なんかいるな。
重たい瞼を開けると純白のなにかが顔を覗かせる。
・・・。
「えっ」
えぇぇぇぇぇぇぇぇ。
よく見ると艶のある黒髪にすらっとした体つきが目の前に。
なんで結花ちゃんがここに!
結花ちゃんって私の部屋で寝たよね!?しかも丁寧に布団までかけて。
まさか・・・エッチなことを・・・。いやいや、流石に。
私は結花ちゃんを起こさないようにそっとさっきまで寝ていたソファから離れる。結花ちゃんが気持ちよさそうに寝ているから起こさないためだ。
確かに一緒に寝たいって言ってたけど・・・。勝手に入ってくるのは違うでしょ!
ほんとにびっくりした・・・。こんなに朝、目が覚めたの初めてなんだけど。まだドキドキが収まらないよ。
私はリビングの電気は消したままにしてキッチンの電気をつける。
たぶん結花ちゃんも朝ご飯食べて行くからね。何を作ろう。
普段の朝ご飯は簡素なものだ。パンにサラダにカップスープの組み合わせか白米と味噌汁だ。どちらもそこまで時間はかからない。パンは焼くだけだしサラダは野菜を切るだけだしカップスープはお湯を入れるだけ。白米は朝食のときに炊けているように設定してあるし味噌汁だって作るのには慣れている。
そういえば白米と味噌汁は小学校のときの調理実習で作ったっけ・・・。
なんて考えているとガチャっと扉が開く音がする。音がした方に目をやると朔が立っている。
「あっ、ねーちゃんおはよう。」
「しっー。結花ちゃんが寝てるから。」
私は口に人差し指をあて朔を黙らせる。普通の声で話すと結花ちゃんを起こしてしまう。結花ちゃんが起きたら嫌でも顔を合わせなきゃいけない。いま結花ちゃんと話してもまともに会話できる自信がないから少しだけでも時間がほしいのだ。
友人と言っても同衾まで至ったという事実は紛れもないもので結花ちゃんの顔を見ると朝の目の前にいた結花ちゃんを思い出してしまう。近くで見た結花ちゃんの肌は思っていたより白くて艶のある黒髪とのコントラストが印象的だった。
「そっか。結局一緒に寝たんだ」
朔はいつもよりも低く冷淡な声で聞く。
怒ってる!?いやさすがにそれはないと思うけど。
「えっ。一緒に寝たっていうかなんていうか・・・。」
勝手に入ってきたんだけど。私は別に一緒に寝たかったわけじゃないし。そもそもそんなことしたら緊張して寝れなくなっちゃうから!
「どうしたの?」
「いやいや。そっ、そうだよ。一緒に寝たけど。なっ、なにか問題でも?」
私は19歳でもう大人。こんなので狼狽えることなんてないから。
「いや。別に。」
「そっか。」
「う、うん。」
そう言うと朔は自室にもどっていった。
朔が起きてからしばらくしたあと結花ちゃんが起きた。
「あっ、おはようございます。陽葵!」
結花ちゃんはソファに座ったまま伸びをするとそう言った。寝起きの結花ちゃんの少しぼさぼさや髪も重そうな瞼も寝起きっていう感じだ。
すごい新鮮だ・・・。
そもそも大学生が同級生の寝起きに遭遇する確率は皆無に等しい。まあお泊まり会とかすれば別の話だが。
「おっ、おはよう。結花ちゃん。」
だっ、だめだ。慣れない寝顔のせいで結花ちゃんが頭から離れない!
「どうして陽葵はそんなに狼狽えているのですか?」
「えっ、別にうろたえてなんかないから!」
「そこまで言うならそういうことにしておいてあげます。」
結花ちゃんはふふっと笑うとソファから立ち上がった。
「そっ、そういえば結花ちゃん。朝ご飯食べてくよね?」
「はい。頂いていきます。」
「うん。なにか食べたいものある?」
「うーん。ないですね。陽葵が作ってくれたものならなんでも大丈夫ですよ!」
うーん。そんなこと言われてもな。
こうなった以上私が決めないと話が進まないのは昨晩のことで分かりきっているので朝食を考える。
「普通にご飯と味噌汁でいいよね?」
「はい。うちもいつもそうです。」
「そうなんだ。じゃあ味噌汁作るから待っててね!」
結花ちゃんのお家もごく普通のご飯と味噌汁なのか。いやでも身分問わずに食べる組み合わせなのかな。
「なんだか、お母さんみたいです。」
「えっ。」
いやいや。それはないでしょ!
「陽葵は母性が強いというかなんというか。」
はぁ!?大学生にそれを言うのは失礼だからな!彼氏だっていないんだから!
「そうかな・・・。」
「うーん。いや、やっぱり母性が強いというより包容力があるって感じです。」
うんうん。私にお母さんはまだ早いからね。
「そっか。」
「あっ、私も手伝います。陽葵にやってもらうのは悪いです。」
「ありがとね。」
料理はつつがなく終わり朝食をとり結花ちゃんが帰る時間になった。結花ちゃんを寝間着のまま帰すわけにはいかないのでまた服を貸した。
その服は白地のTシャツに薄茶色のロングスカートで結花ちゃんによく似合っている。
「昨日と今日はお世話になりました。」
「ううん。気にしないでよ。」
「ありがとうございます。両親とも話してみます。」
そっか。親とモメてうちに来たんだっけ・・・。なんでモメたんだろう。
「うん。頑張って。」
「はい。ありがとうございます。」
その時ひょいっと朔が自室から出てくる。結花ちゃんがいるからか部屋に籠もりっきりだったようなきがする。
「あの・・。近くまで送ってきましょうか?」
えー。ちょっと朔!!!まさか・・・。
「お気持ちだけで大丈夫です。ありがとうございます。朔くん。」
「あっ。はい。」
朔。あっさり撃沈。
「幼女」って言ってしまったことにいまさら反省して優しくしても無駄だよ。結花ちゃんは鉄壁のバリアを貼ってるからね。
「じゃあ皆さんさようなら。ぜひ陽葵も今度私の家に泊まりに来てください。」
「うん。機会があればね。」
バイバイと手を振ると結花ちゃんの少し小さめの手でゆっくり振り返してくれる。
かわいい・・・。
まあいずれ私が結花ちゃんの家に泊まりに行ってあげてもいいかな。
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