第10話 お泊まり会は大波乱!? 〜抜け出せない温もり〜
<結花side>
雨が地面を叩きつける音とピチャピチャと水を踏む音が響く漆黒になりきってない暗闇のなか。
吉河結花はいま、路頭に迷っていた。
助けを切望するように一番の友達であり、最愛の想い人に送ったメールの返信はまだ来ない。
どうしましょう・・・。
何も考えずに家を出てきてしまったせいでスマホを持ってくるので精一杯だった。
ぐっしょりと濡れた服は徐々に重みを増してきて足取りが遅くなる。
一歩一歩踏みしめる度に感じるのは無力感。
自分の希望、尊厳をも奪われたような無力感だ。
あなたならなんと言ってくれますか。
自分の想い人。そしてちょっとした憧れの人。
その人ならどうするだろうとふと考えた。決して頭がいい訳でもなにか特別なものを持ってるわけでもない。
でもそんな彼女は優しくて狼狽えた姿は可愛らしい。そして私、吉河結花に一人の大学生として接してくれた気がする。
そばにいると温かくてどこか幸せな気持ちに包まれる。
そんなあなたの声が聞きたい。
無念さからか瞳が潤む。そして溜まった涙は雫となりピチャと音を立て水たまりに波紋を作る。
それと同時にスマホから通知音が鳴る。
水滴が溜まったスマホの画面がパッと光りそこには一ノ瀬陽葵の文字が見える。
さっき送ったメッセージに対する返信だろう。
泊めて欲しいというお願いは無理も承知でしたものだ。
でももし陽葵に泊めてもらえたら、いや会えたらどんな悩みでも和らぐ気がする。
恐る恐る陽葵から送られてきたメッセージを読み上げる。
『いいよ!部屋、古いし汚いかもしれないけど。』
陽葵は優しすぎます・・・。
さっきよりも軽くなった足取りを陽葵の家に向け、数が増えた涙を濡れた袖で拭った。
<陽葵side>
結花ちゃんからの泊まっていいですかというお願いに承諾してから数分が経ったとき。
陽葵と朔は急いで部屋を片付けていた。それはもう雨の音が陽葵たちを急かすように。
「ねーちゃん。なんで俺まで一緒に片付けなきゃいけないんだよ」
朔は不機嫌さを声で表しながらも片付けを手伝ってくれる。
「しょうがないでしょ。急に泊めてって言われたんだから」
「なんでOKしちゃったんだよ。こうなること分かってだろ」
「断れるわけないじゃん!」
なんて軽いいざこざが起こりつつも部屋の片付けはサクサク進んでいく。
もともとそれぞれの部屋にそれぞれの荷物を置いているので姉と弟で一緒に使うスペースにはほとんど物は無かった。姉、陽葵の雑誌等を除けば・・・。
「ていうかねーちゃんに友達なんていたんだ。」
「そりゃあね。一人や二人はいますよ!」
「へー。どんな人?」
「華奢な女の子!」
「幼女をうちに連れてくるわけじゃないよな・・・」
「違うよ!!大学の同級生だよ!」
うちの弟は・・・。
私のほうが年上なんだからね!もっと敬って接してくれてもいいのに!
しばらくするとピンポーンというインターフォンの機械音が響く。
玄関ドアの向こう側に誰がいるのかは考えるまでもなくわかった。いつもよりきれいになった廊下を歩き玄関の扉を開ける。
そこには・・・。
全身ずぶ濡れの結花ちゃんが!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・・。」
いつものサラッとした黒髪は水を含み結花ちゃんの服にくっついていてネグリジェの上に羽織った上着の隙間からわ結花ちゃんの
家出少女感半端ないな・・・。(服が濡れてるからなおさら)
これで街中を歩いてきたの!?そして変な大人に絡まれたりしなかったの!?
「どっ。どうしたの結花ちゃん?」
普段の姿からは考えられない結花ちゃんの見た目に驚きとともに不安になる。
「あの・・・。実は・・・」
「やっぱり。その前にお風呂入ってよ。風邪引いちゃうよ」
「そうですね。お願いします」
「ちょっと待ってて。タオル持ってくるから」
「ありがとうございます」
タオルを持ってきて結花ちゃんに手渡そうとする。しかし結花ちゃんは受け取ってくれない。
「拭いてくれないのですか?」
「えっ」
いや。拭くわけないない・・・。
結花ちゃんが上目遣いでこちらをみる。黒曜石のような瞳は涙(?)でいつもより光沢がある。
まあ拭くくらいなら・・・。
私の両手にタオルを広げ結花ちゃんの頭に乗せる。
「ねーちゃん。って。あっ。やっぱ幼女じゃん」
・・・。
玄関を沈黙が包む。
「美少女」と言われるのでさえ嫌がる結花ちゃんに「幼女」って絶対ダメなやつじゃん。さっきしっかり説明しとくべきだったな。
しかも幼女にしては身長高いし胸もあるよ!
「陽葵の弟さんですか?吉河結花と申します」
怒りをぐっと堪えるようにニコッとする結花ちゃん。怖い。そして地雷を踏んだことを全く気づいてない様子のうちの弟。こんなのがよく告白されるな・・・。
「あっ。はい。弟の朔です。よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
・・・。
再び走る沈黙。
顔を赤らめる自室に戻る朔。
やっと地雷を踏んだことに気づいたか。これだからうちの弟は。モテるのに彼女作らないから女の子の気持ちがわからなくなるんだよ。
「早く拭いてください。」
怒ってます!?結花さん!?
怒ってるのって朔のせいだよね!?私は悪くないよね!
この修羅場のせいで無意識のうちに止まっていた手を動かす。
「ごっ。ごめんねー」
「やっぱり、温かいです!」
結花は温もりを味わい少し口角を上げた。
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