第9話 モテる男にも悩みはある!
「ねーちゃん。彼氏とかいないの?」
リビングで夕食を摂ったあと皿洗いをしている私に弟の朔が話しかけてきた。
煽ってるでしょ。絶対。それなりに格好いい朔には私の気持ちなんてわからないでしょうね。
「いなくて悪かったですね。そういう朔は彼女とかいないの?」
少し尖った態度の私にも弟は慣れているみたいでこんな私に驚くことはない。
「えっ。俺?別にいないけど」
「どうせ告られたことくらいはあるんでしょ?」
「それはなくもないけど」
ほら。絶対あると思った。ていうか告られたって前言ってたし。よくもまあ私にそんなこと聞けましたね。
ただまあどんな子なのかは気にならなくもない・・・けど。
「えー。どんな子?可愛いの?」
「クラスメートだよ。ただの」
「なんで断ったの?」
駄目だ。止まれ。私。弟がモテてる話なんて聞いても自分が悲しくなるだけだから。
「別に・・・。彼女とか作るつもりないし。」
あー。ほら。作りたくなったらいつでもできるし。みたいな感じ?
作りたくても彼氏ができない私に対しての嫌味ですか!
まあ特定の相手が好きってわけじゃないんだけどね。ただ漠然と彼氏がほしいと思ってるだけ。恋に恋するだけの私なんだよ。きっと。
「えー。もったいない」
好きでもないのに付き合うのは・・・流石に駄目か。なんてったって私の弟だからね。そんな不誠実なマネはしないはずだ。
「むしろねーちゃんはどうなの?」
「えっ。私?」
「うん。好きな人くらいはいるんでしょ?」
「ん?いないけど」
「いないのに彼氏欲しいとか言ってたの?」
あーもううちの弟は。なんでこいつがモテるんだか。
まあ。うちの弟のことだから、彼女とかにはなんだかんだ優しいんでしょうけど!
「うぅ。しょうがないでしょ。女の子はね、恋に憧れるものなのよ!」
「ねーちゃんは単純だからね。いっそのことマッチングアプリとか始めてみたら?」
知ってて言ってるのか?いやさすがに始めたこと言ってないしな・・・。
「もう入ってますけど。」
「えっ。なにか音沙汰とかないの?」
いや・・・。あったんだけど。
さっ、さすがに同性の子が来たなんて言えるわけがないでしょう!私は悪くないのに恥ずかしいわ!
「特に・・」
「え。可哀想」
私をそんな目で見ないで!!
というかあの一件があってからマッチングアプリには一切手を付けていないのでもしもやってたら音沙汰はあったかもしれない。
あの件に関しては悪いのは私ではない。
「しょうがないでしょ!色々あるのよ!」
最近はなんだかんだ言って楽しい生活が送れている気がする。
結花ちゃんとも話すようになって、まあユミちゃんとも相変わらずだし。こうやって弟と会話をするのも数年前までは少しぎこちない感じだったけど今は気の置けない感じだ。
朔の身長も私を超え、体格も声も男の人になっていく。まるで私の弟じゃなくなるかのように。そう考えるとちょっと寂しいね。
洗って乾燥させたお皿を食器棚にしまってテレビをつける。そして朔はすぐに自室に戻っていった。
その会話から数日後の夕食前。
「ねーちゃん」
話しかけてきたのは弟の朔だ。いつもよりも低い声でどこかしょんぼりした様子だ。この夕食前後の時間は二人で落ち着いて話せる唯一の時間だ。いつもは他愛のない雑談をしているだけだが今回はどうも空気が重い。
「どうしたの?彼女でもできた?」
冗談めかして答えるが朔の表情は変わりそうにない。
「そうじゃなくて。いや。でも、それに近しいというか・・・」
えっ。ふざけて聞いたのに。いつもよりしょんぼりしてたからからかっただけなのに。
私を置いて行かないで!!
皿洗いを中断し朔の隣の空いているソファに座る。
「えっ。なになに?」
でも弟の恋愛事情はすごく気になる。なんて言ったって私の妹になるかも知れない子だからね。これも姉としての義務だから!
「なんていうか・・・。告られた」
「えっ。またぁ?今年何回目なの!?」
顔が赤い朔は新鮮でいいなぁ。
いつもは澄ました顔して。どんなによそでかっこよくしててもお姉ちゃんはしっかり見てるんだからねっ。うふふ。
「3回目くらい?」
「えっ。私が知ってるの今日の含めて二回だけど・・・」
「別にいちいちねーちゃんに相談する必要ないだろ」
「そうかもだけど。弟の恋愛について知っておきたいんだよ。姉として」
「関係ないだろ」
もう。そんな冷たいこと言っちゃって。
「で。付き合うの?」
「いや。保留にした。どうしていいか分からなくて」
え。まじな恋愛相談ってやつじゃん。
弟に先を越されたくはないけど・・・。弟の恋路を邪魔するわけにもいかない。
「朔が好きなら付き合えばいいんだよ。」
あー。なに突き放したこと言ってるんだ私。ここは姉らしくなんかこう、もっといいアドバイスみたいなのできないかな・・・。
いや。無理だ。恋愛経験ゼロの私が何を言えるっていうの!?
「なんていうか・・・。好きってわけじゃないんだけど。今のままの関係でいたいと思うというか」
そんな高度なのわかるわけ無いじゃん。告られたことも告ったこともない私に聞かないで!
「それを決めるのは朔自身だよ。軽い気持ちで付き合ってみろ、とも言えないけどそんなに重く考える必要もないよ。ただどうするにも本気で相手と向き合わなきゃね。」
ふぅ。なんかぽいこと言えた。私がどうするかべきか答えるなんてできる訳ないもん。
まあ告白するにも勇気がいるしこんな感じでいいよね。
「そうか。ありがとう。なんか踏ん切りがついたかも」
しかもなんか納得してくれたっぽいし。
そう言って朔は自室に戻っていった。
結局どうしたんだろう・・・。
恋愛に悩む朔を少し羨ましく思ってしまった。
あぁ。青春って感じだな
晩ご飯の準備を始めようとしたその時、スマホの着信音が鳴る。友達がほとんどいないのでスマホの着信音が鳴ること自体稀だ。
なんだろう?
結花ちゃんからメッセージが来ている。普段は直接話すのでメッセージが来ることなんて滅多にない。
メールのアプリを開くと・・・。
『今日、泊めてもらってもいいですか?』
・・・。
えぇぇぇぇぇぇぇ。
閑静な住宅街に陽葵の叫び声が
これが新たな騒動を引き起こすことは言うまでもない。
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