第8話 カラオケデートで騙された!

 今日はなんと結花ちゃんとカラオケに来ています。


 どうしてこうなったかと言うと・・・。


 普通に誘われたからです!



 朝起きると結花ちゃんからカラオケ行ったことないのでいきましょう。とメッセージが来ていた。断る理由もなかったのでいいよと返信をして結花ちゃんの初めてのカラオケを私とするようになった訳だけど・・・。


 私だって何回かしか行ったことないのに。


 私は大学に入るまでずっとぼっちだと思われない程度の浅い友人関係で友達と外出なんてほとんどしたことがなかった。大学に入ってユミちゃんと仲良くなってから本心に近いことを人に伝えられるようになった。そして結花ちゃんも私にとってかけがえのない友達。


 結花ちゃんはちょっと言動が私をドキッとさせるけど・・・。



「これで選曲をするのですね?」


 結花ちゃんはタッチパネル(デンモクと言うらしい)を持って感心した様子で操作し始める。私は電気をつけやや広めの個室の端に腰掛ける。


「陽葵から歌って下さい」

「えっ。私から!?」

「はい。私は初めてですし」


 いや。私も何回かしか来たことないんだけど。でもこうなった以上歌うしかない。


 私は一番得意な歌を入れる。得意と言っても80点台後半を出せるだけだが結花ちゃんは初めてのカラオケ。いろいろな面でなんでも普通以上にこなす結花ちゃんに私が勝つチャンスだ。


 ふふふ。私を先に歌わせたことを後悔するがいい!結花ちゃん。


「陽葵は声が可愛らしいですね」

 歌い終わると結花ちゃんが目をキラキラさせて私のほうを見ている。


 ふふーん。これは私の勝ちだろ。


 点数は87.5点。私にしては満足の結果だ。一般的にはそんなに高いとは言えないかもしれないがカラオケで初めて歌う人に負ける気がしない。


「じゃあ今度は私が歌いますね。」


 結花ちゃんは初めてにしては自身たっぷりな様子でマイクを持つ。結花ちゃんが選曲したのはやや昔のJ-POP。結花ちゃんも音楽とか聞くんだなどと考えていると曲が始まる。


 すると澄んだ優しい歌声が響く。背筋をピンと伸ばしてやや緊張が抜けない結花ちゃんも中盤には曲に乗って歌っている。


「えっ。初めてカラオケに来たんだよね?」


 私が驚いたのは歌声。緊張からか声がやや震えていた前半に比べて後半は天使の囁きのような優しい声だった。


 点数は92.2点。


 いやいや。

 初めてでこの点数はないでしょ。


「えっ。初めてだよね?」


 92点なんて私も取ったことないのに。

 あー。今回は私が勝てると思ったのに!!


「実は…」

「えっ。どうしたの?」

「あの…。怒りませんか?」


 結花ちゃんは指を動かしながらモジモジとなにか言いたいことがありそうに話す。


「なんで?なにも気にすることないよ!」


 初めてなのに私よりも点数が高いことを気にしてるのかな。

 別に結花ちゃんが何でもできるのは知ってることなんだけどな・・・。


「実は、私。・・・・」


 ん?


「実は私、練習してきたんです!」


 ん?

 初めてカラオケに来るわけじゃないってこと!?


「だって・・・。陽葵に変な歌を聴かせる訳にもいかないし。でも陽葵とカラオケに行ってみたかったし・・・。どうしていいか分からなかったんです!」

「えぇぇー。」


 じゃあ私が勝てたかもしれないの!?

 もじもじと顔を赤く染めて言う結花ちゃんはいつもとは違って健気で可愛らしさを覚えてしまう。


 こんな表情だとなにも言えないよ!


 結花ちゃんは行ったことがないから行ってみたいという建前で誘った。だけど罪悪感があった。という感じだろう。


「失望しましたか?」

「してないよ。言ってくれたらいつでも行くのに!」

「そうですか!じゃあ毎日行きましょう!」

「さすがにそれはやだよ。」


カラオケの時間はまだ長い。それからはお互い点数を気にせずに歌い合った。

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