第7話 とある二人の邂逅
私、坂井ユミは大学内では明るくて人気者の方だと思う。恋愛面でも上手くやっているし友達にも囲まれて、少なくとも大学に入学してから退屈だとは思ったことはない。
金髪セミロングの髪の手入れは欠かしたことはないし陽葵ほどではないが肌の手入れにだって気を遣っているつもりだ。
私は朝起きるのが苦手、というか起きるのが基本的に昼なので学食で昼食をとる陽葵と朝食をとることがしばしばある。そもそもあんまり話してないのも事実なのだ。
そのせいで最近陽葵と話せてないのが気がかりだ。
「陽葵大丈夫かな・・・」
陽葵は友達づくりが苦手だと思う。
打ち解けた相手にはフランクに話してくれるが見知らぬ人だと挙動不審になりがちだ。
だから大学でぼっちを極めてないかが心配でたまらない。
陽葵を放置してるから申し訳なくてなに話していいか分からなくなっちゃうんだけどね。
せめて私以外に話ができる友達でも作ってくれたらな。
講義はもうほとんど終わってる時間帯で大学内の電気もちらほら消えかけている。そんな校舎の中を一人で歩いていると大学一の「美少女」である黒髪ロングの華奢な女の子、吉河結花さんが目に入る。
「ねえ。吉河さん一人なの?」
「はい。そうですけど。どなたですか?」
警戒心が強くて誰とも深く関わろうとしない様子はいつも遠目で見ている吉河さんそのものだ。
だけど私、坂井ユミはコミュ力が高い。吉河さんとだって仲良くなれるはずだ。
「坂井ユミ。学年も学部も一緒だよ!」
「そうですか。じゃあ私は帰るので」
冷たー!!話も聞いてくれない感じね。異性じゃないんだからそこまで警戒しなくてもいいのに。
まあでもこれまでは噂通りだ。吉河さんが誰とも仲良くしようとしないのなら私が一番最初の友達になればいいだけの話だ。
「じゃあ途中まで一緒に帰ろうよ」
吉河さんは帰ると言った。だからもう逃げ道はないよ。
多少強引でも話してみれば意外と仲良くなれるものなのだ。
「いいですけど、私になにか用事でも?」
「別にそういうわけじゃないんだけどね。なんとなく話してみたいなって思って。」
「そうなんですか。別に構いませんよ。」
大学の南門を出ると街灯がついているが周囲には人気はなく静かだ。ちなみに北門からでると飲食店が立ち並んでいて大学生で賑わっている。
「ねえ。吉河さんは好きなこととかあるの?」
コミュ力とは会話、意思疎通を円滑に行うこと。それを可能にするのは相手を知ることだ。そして相手から聞き出した情報に自分の情報を上手く付け足せればそれはコミュニケーションとなる。
「ないですね・・・」
「へぇ・・・。そっか」
好きなこと聞いてないって言われたの初めてなんだけど。あの陽葵ですら初めて話したときには、私が一方的に話したかけた感じは否めないが、結局いまでも友達だ。
「じゃあ吉河さんは時間がある時どうしてるの?」
「最近は友達と遊んだりしてますよ」
友達いたのね。しかも遊びに行くくらいの。大学では吉河さんがそんな親しげに話しているのは見たことない。
自分だって陽葵と遊びに行ったのなんて数えるほどしかない。
陽葵は可愛らしい子だ。乱雑な感じの桃色の髪も、少しあどけない感じの顔も、全てにおいて好ましく思っている。初めて話したときには運命を感じた程だ。
「そうなんだ。何して遊ぶの?」
「・・・。この前は水族館に行きました。あとは家で遊んだり・・・」
「そっか」
そのことを話す吉河さんはまるで笑顔がこぼれ落ちているようで楽しそうだ。ひとつひとつの挙動に可愛らしいなという印象を抱いてしまう。まぁ陽葵のほうが可愛いけどね。
「坂井さんはどんなことして遊ぶんですか?」
「うーん。大体一緒かな。カラオケ行ったり」
「カラオケってあの歌うやつですか?」
「うんそうだよ。行ったことないの?」
「はい」
吉河さんてやっぱりお嬢様なんだな・・・。
「じゃあ今度一緒に行こうよ!」
これがコミュ力よ!会話を通して相手のことを知って些細なことから会話を発展させる。
これで吉河さんと友達になれるね。
「結構です。」
・・・。
もうちょっとやんわり断ってくれないんだ・・。心が折れそうだよ。
まあ周りと距離をとる吉河さんって感じだね。
「そっか。人間関係とかで困ったことあったら相談してよ。私、友達多いから」
なぜかはわからない。でも吉河結花という人間が窮屈そうに見えた。きっと距離をとるのは彼女の優しさだろう。下心をもって近づく人たちに囲まれながらその人達を傷つけまいとする優しさだ。
「そうですか。じゃあ意中の相手に振り向いてもらう方法を教えてください」
えっ。いきなりなに!?いやいや。流石にこの流れでそう来る!?
っていうかそれは私も知りたいんだけどなー。
吉河さんも恋愛とかするんだな・・・。まあ確かに大学生だからいないこともないんだろうけど。なんか意外。
私は数多くの恋愛相談を受けたことがある。この陽キャっぽい見た目からかなんなのか。
「うーん。強いていうなら攻めだね!」
これはもう間違いないね。あの吉河さんが攻めてきたら男女問わず落ちるでしょう!
「攻めとはどういう感じですか?」
どういう感じって・・・。
「積極的にいこうぜってことかなー」
「これ以上ですか・・・?」
えっ。
「ちなみにいまはどんな感じで・・・?」
「自分では結構積極的にしてるつもりなんですが。」
「具体的にはどんな感じなの?」
「なっ、名前で呼んでます。あっ、あと一目惚れしたって言っちゃいました。」
まじか。
「結構攻めてるね・・・。というかそれほぼ告白じゃん。」
「えっ。そうなのですか!」
吉河さんは顔を真っ赤にして驚いている。
お嬢様で何も知らないのに一直線で。これが本当の吉河さんなのかな。
そういえば最近陽葵が一目惚れしたって言われたって言ってたっけ・・。
まあ関係ないだろうけど。
「うん」
「やっちゃいました。その方とどう接すればいいんでしょう!?」
本当にあの吉河さんだよね・・・?
「じゃあ、もう告白しちゃえ!」
「むっ、無理です!」
いやいや。一目惚れしたって言ったのはほぼ告白だから!
まあ吉河さんから迫られて拒絶する人なんていないと思うけど。
「まあ、流れってやつよ。会話してたら丁度いいタイミングがあるからそこを待つのがいいんじゃない?」
「そうですか。」
「ちなみに相手はどんな人?」
「優しくて、ついからかっちゃう人です」
吉河さんは少し間を開けて言うとはにかんだ。
まるで陽葵のような人じゃん。まあ陽葵と吉河さんの接点なさそうだけどね。
「そうなんだ。上手くいくといいね」
結局最後までどんな距離感がいいか分からず吉河さんと別れた。まあ色々話せたからいいけどね。
相手を知ることが会話を続けるポイントだからね。これで次回会ったときはきっと違和感なく話せるはず。
陽葵ともこんな感じで話せるといいんだけどな。よく考えると私は陽葵のことをよく知らない。
会う頻度が少ないから陽葵の機微に気がつけてないような気がしてしまう。
陽葵がなにを好きでなにが嫌いかもよくわからない。ただ時間が会えば話すくらいの関係性なのかもと思うと少し寂しさを覚えてしまう。
けどよくからかっちゃうけどね。その時が一番可愛いのよ!
あの狼狽えてる感じがクセになっちゃう。
今度はなんの話をしようかな。
なんて胸を踊らせる私、坂井ユミだった。
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