第6話 おうちデートは大混乱!?
大学からの帰り道。
結花ちゃんと初めて会ってから数週間が経った。
結花ちゃんの仲もまあまあ深まり週に2、3回は話す程度に落ち着いた。そして結花ちゃんも私も大学の近くに住んでいるので帰る方向は一緒。なので最近は一緒に帰ったりする。
結花ちゃんの住んでいるお家は高層マンションの最上階。私が住んでいる二階建てのおんぼろアパートとは大違いだ。
家柄の違いを思い知らされるな・・・。
ちなみに私の住んでいるアパートは年季が入っていることもあり家賃は安い。親にしてもらってる仕送りをできるだけ減らしたかったのだ。
今日は午後に授業がある日だったので帰りが遅い。いつも極力午後の授業は避けているが午前中の授業だけでは進級はできない。そのため週に何回かは午後の授業を取っている。
「なんで陽葵はほとんど午前の授業ばっかなのですか?」
いつもより少し遅めの帰宅途中に結花ちゃんが聞いてきた。
「晩ご飯作らないといけないからね。それに弟が帰ってくるとき家にいてあげたいなって」
最近は悪態をついてくることもある弟の朔だが私にとってのたった一人の弟だ。できることなら可愛がってあげたいし寂しい思いもさせたくない。
こんなこと本人には絶対言えないけどね。
「陽葵は優しいのですね。」
似たような話をしたときにブラコンだと言ったユミちゃんとは大違いの反応だ。
「そういう感じでもないけどね。」
このように二人で肩を並べて歩くことにも慣れてきた。出会ってから日が浅いのに結花ちゃんには少し心を許して話せる気がする。
こんなに仲良くなった友達なんていたっけ・・・。
高校時代も中学時代もその昔も自分の周りにはぼっちだと思われないくらいの友達数人しかいなかった。
その友達にも心を許せたかというとそうでもない。ただ他の人よりも相手のことをちょっとだけ多く知っているというだけだったかもしれない。
だから大学に入ってユミちゃんと出会って少し私の人生は変わった。ユミちゃんが気さくに話しかけてくれたお陰で本当の意味の友達を知れた気がした。
そして結花ちゃんも・・・。
「あっ。雨です」
結花ちゃんは掌を上に向けて雨を感じる。
「ホントだ」
「あのー。陽葵は傘を持ってたりしませんか?」
「まさか。忘れたの?」
「はい」
これはまさか相合傘をする流れ!?いやいや変なこと考えちゃだめだから!
友達同士なら普通だから!(たぶん)
「じゃあちょっと待ってね。傘探すから。」
そういってカバンの中に手を突っ込む。教材の詰まったカバンの奥に入っているはずだ。
あっ。
その瞬間にすべてを察する。手が空気を掴む感覚をつい疑ってしまう。
ない・・・。
「ごめん。こんなこと言ったのに申し訳ないんだけど・・。私も傘なかったわ」
「えっ」
すこし固まった結花ちゃんは私の手を引いて急いで走り出す。
「走りましょう。でないと濡れてしまいます」
そりゃあそうだけど。この無意識に握られたこの手はなに!?こんなことされたら男女問わずに惚れちゃうよ。
雨粒が垂れたのか結花ちゃんの指は湿っている。それでも温かくて自分が濡れていくのが気にならなかった。
しばらく走って結花ちゃんの住んでいる高層マンションの前に着く。
「うちに寄ってってください」
きっと結花ちゃんのことだから雨に濡れた私を気遣ってくれたのだろう。でも結花ちゃんの家に見合うだけの身分はないしどうしていいのかわからない。
「えっ。大丈夫だよ。すぐだし」
「ですが。風邪を引いてしまいますので駄目です。うちで暖まっていってください」
断れそうにないな・・。
こういうときの結花ちゃんは良くも悪くも強引だ。まあ優しさだって分かってるから嫌な気はしないけど。
半ば強制的に結花ちゃんのお家に連れて行かれる。
結花ちゃんは慣れた手付きでエントランスの鍵を開けエレベーターのボタンを押す。
住む世界が違うのを再認識させられるな・・・。
最上階に着くと結花ちゃんが玄関に向かって左手を向ける。その先には明らかに豪華なドアがあり、横の大きな窓からは大学の校舎も見ることができる。
「ようこそ。我が家へ」
結花ちゃんが電子キーで玄関の鍵を解錠する。ドアを開くと清々しい空気が押し寄せてくる。
「えっ。ひろ」
「そうですか?高校時代に住んでいた家の方が広いですよ」
「えっ。これよりも広いの!?」
よく見ていると部屋の中は塵一つなく家具も全て新品同様に手入れされている。そしてリビングとガラス一枚で仕切られたベランダもまた広い。
ベランダだけで私の家のリビングより広いかもな・・・。
「お手伝いさんはまだ来ないので気にせずくつろいでくれていいですよ」
あれ・・。多分私が雨に濡れたこと忘れてるな。濡れてるからくつろげないし!
「・・・。うん。ありがとう」
「あっ。でもやっぱりお風呂を沸かすので待っててください。暖まらないといけないですもんね」
「あっ。ありがとう」
ありがとうしか言ってないな。私。
友達の家に来るなんて初めてだしどうしていいかわかんないよ。しかもこんなイレギュラーなお家。
「一緒に入りますか?お風呂」
「いっ、いや。別でいいんじゃないかな・・・」
「ふふふ。そうですか。まあ今度にしましょう!」
からかわれたな・・・。
確かに私はそういうのに耐性ないんだけどね。ホントよく見てるな。結花ちゃんは。しかも今度ってなによ。
お客様だからと私が一番風呂をいただく事になった。結花ちゃんも雨に濡れてたのに申し訳ない。この恩はいつか返すからね!結花ちゃん!
軽くシャワーを浴びて湯船に浸かる。私の家の湯船よりもはるかに大きい。明るさを抑えた落ち着く明かりのせいか、それともちょうどいい温度のお湯のせいか眠気が押し寄せてくる。
寝ちゃだめだ。ここは自分の家じゃないんだから。
少し温まってきた頬を叩き眠気を覚ます。
「陽葵。大丈夫ですか?」
コンコンと扉を叩いて結花ちゃんは言う。
「うん。大丈夫だけど・・・」
「それは良かったです。長湯し過ぎてはいけませんからね。」
お母さんみたいだな。確かに結花ちゃんは優しくてお淑やかで聖女みたいなところもあるしなんていうか、包容力もあって一緒にいて落ち着くけど。
はぁ。わたしとは大違いだよ。
「じゃあそろそろ出るね」
よく考えると結花ちゃんも濡れていて寒いはずだ。私はできるだけ早くお風呂から出て結花ちゃんに温まってもらいたい。
「あと着替えは横においておきます。」
「ごめんね。ありがとう。」
結花ちゃんが脱衣所から出たのを確認して湯船から出る。軽く体についた水滴を拭き取り脱衣所に向かう。さっき結花ちゃんが置いておいてくれた代わりの着替えを着る。
リビングに向かうと結花ちゃんが紅茶を用意して待っていてくれた。
「着替えありがとね」
「いえ、気にしないでください。サイズは大丈夫そうで安心しました」
「うん。ぴったりだよ。」
「じゃあ、私もお風呂入ってきますので紅茶を飲んでゆっくりしていてください。」
「何から何までありがとね。」
「いえ。気にしないでください。あっあとドライヤー置いといたのでぜひ使って下さい!」
そう言って結花ちゃんはリビングを去っていく。
なんなんだこれ。至れり尽くせりじゃん。
シャワーのお湯がお風呂の床に打ち付ける音が聞こえる。
扉の向こうには裸の結花ちゃんが・・・。なんか想像つかないな。いやいやなんでこんなこと考えてるの!
煩悩を取り払おうと結花ちゃんが淹れてくれた紅茶を口に含む。少し冷めて生暖かいくらいだが茶葉の香りが口の中に広がる。
なにが美味しいとかはわかんないけど良い紅茶なんだろうな・・・。
リビングから外を眺めると先程の雨はやんで青空が見え始めている。
結花ちゃんがお風呂から出てきたらおいとましよう。さすがに長居するわけにもいかないしね。
着替え終わった結花ちゃんがリビングに戻ってくる。結花ちゃんは少し大きめのシャツを着ていて大学でのピシッとした服装とは大違いだ。
お風呂に入って少し赤くなった頬が・・・。なんていうか無防備・・・。この破壊力やばいな。
「じゃあそろそろおいとまするね。」
「もう帰ってしまうのですか?」
「うん。さすがに申し訳ないからね。」
「そうですか・・・あの・・今日もし私が傘を持ってたら相合傘をしてくれましたか?」
いやいや。なによいきなり!
「それは・・・濡れちゃうくらいなら一緒の傘に入るでしょ・・・たぶん」
「そうですか。じゃあいつでも傘を忘れてくださいな」
「いやいや。わざとそんなことしないよ」
「私は・・・嬉しいですけどね」
「えっ」
絶対傘忘れないようにしよ・・・。
「なんでもないです」
「そっか。弟も家にいるしかえるよ」
「そうですか。泊まっていっていいんですよ?」
「いやいや。弟が家で待ってるからね」
ここまで結花ちゃんの家でお世話になるのは気が引けた。今度、なにかお返しをしよう・・・。
「そうですか。じゃあ今度陽葵の家に行ってみたいです!」
「えっ。うちは古いしきれいじゃないし狭いよ」
友達の家に行きたいものなのかな・・・。私は緊張しちゃってそれどころじゃないタイプなんだけど。
「そうでも、です。私の家には入ったんですからね」
そう言われると断れないじゃん。確かに結花ちゃんの家には入ったけど・・・。結花ちゃんが半ば強引に連れてったんでしょ!まあ居心地は良かったけど。
「まあ。今度・・・ね」
「はい。楽しみです!」
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