第2話 初デートは大波乱!?

「でっ。なんで大学一の『美少女』の吉河さんがここに?」


 流れで連れて行かれたカフェで着席し次第吉河さんに質問する。疑問はたくさんあるが一番知りたいのは結花ちゃんがなんでここにいるかだ。


「美少女はやめて欲しいです。私はこれでも大学2年生なんですからね」

「ごめんね。気をつけるよ」


 大学ではみんなが使っている二つ名だったので大丈夫かと思ったがだめなようだ。本人の意思を蔑ろにするわけにはいかないので今後は控えよう。


 確かに大学生に美少女は変なのかな・・・。少女じゃないからね。


 吉河さんが"美少女"と呼ばれるのには華奢で美しい見た目によるもので、ちなみにこの二つ名がついたのは吉河さんが入学してすぐのことらしい。


「あの。アプリで見てて一ノ瀬さんがすごい可愛いなって一目惚れしちゃって仲良くなれなたらなって・・・話しかけちゃいました」


 えっ。一目惚れ?私に恋愛感情があるってこと?いやいや。さすがに嘘でしょ。冗談だよね。冗談。


 とっ、友達としてってことだよね。うん。そうだよ。絶対。



 でも・・・。

 艶のある黒髪を耳にかける姿はほんとに映える。紅茶をフーフーと冷ます姿は小動物のようで癒やされる。やっぱり可愛いんだな。吉河さん。


「じゃあアプリで会話してたのは吉河さんってこと?」

「はい。そうです。騙してたことは反省してます。申し訳ありません」


 ペコリと頭を下げる姿はなんか・・・。わたしが申し訳なく感じるからやめて!


 こんなに可愛いと人って謝られただけで罪悪感を感じるんだ・・・。


 ってか私だけタメ口で大丈夫なの!?


「いや。別に気にしてないで、ですよ」


 緊張からかつっかえてしまう。普段ユミちゃんと朔くらいしか話していないからこういう場面は私にとって結構きつい。


「なんで急に敬語になったのですか?」


 確かに。不自然だな。


「いっいや。なんて言うかこういう時は敬語かと・・・。」

「タメ口でお願いします。気を遣わせているみたいで嫌です」


 えっ。いやいや。気は遣うでしょ。しかも吉川さんも敬語じゃん。


 ここまではっきりと嫌ですと言われると一周回って気持ちがよい。遠回しに言われるよりもずっといいよ。ツンと口を尖らせた吉河さんを見てやっぱりタメ口で話そうと決める。


「えっ。うんうん。」

「話を戻しますけれどもやっぱり私はあなたの気持ちを踏みにじってしまったかもしれませんし」


 確かに。ほんとそれな。せっかく彼氏ができると思ったのに・・・。


「別にいいよ。私に彼氏なんてできるなんてもともと思ってないし」


 何言ってるんだろう私。まあ、まだ付き合ったことがない女の子だって探せばいるよ!


「ですが、それでは私の気が済みません」


 私になにをさせる気だよ。


「なので、私と恋人になりましょう!!」

「いやいや。どんな冗談だよ」


 そもそもそういうことじゃないのだ。なんか距離の詰め方が怖いというか尋常じゃないな!

 しかも予定調和感というかなんというか吉川さんの思うようになってる気がする。


「せめてデートだけでもどうですか・・・?」

「えっ」


 でっデート!?なんでいきなり。っていうか吉河さんは行きたいの!?


「だめですか?」


 吉河さんの上目遣い。最高かよ・・・。


「行くよ!」


 少し蠱惑的な瞳をした吉河さんを見て、私の本能が出てしまった。急にガツガツ行くのは変だよね・・・?


「じゃあ行きましょう。」


 吉河さんは紅茶をぐっと飲み干し立ち上がる。私もコーヒーを急いで飲み干し吉河さんについていく。




 コーヒーは吉河さんが奢ると言ってくれたので店の外で待つ。

 吉河さんが謝ってるのに漬け込んだ感じでなんか申し訳ないんだよな・・・。ってかデートってなに!?普通に遊びに行くんじゃなくて!?


「お待たせしました。」

 少し焦った様子の吉河さんが店から出てくる。


「ごめんね。ご馳走になっちゃって」

「いえ。悪いのは私なので」

「いや。私もそんなに気にしてないから・・・」

「あなたがそう言っても今日はデートさせていただきます」


 いや。強引。ってか悪いのは私なのでとかお詫びなのでって言えば引き下がると思ってるでしょ。

 こういう時ってなんて返せばいいんだか・・・。まあでも可愛いからいいか。


 もう眺めてるだけで幸せ。


 どこに向かっているかはわからないが歩き始める。私の隣に吉河さんが並ぶのは少し緊張してしまう。そもそも吉河結花は誰とも深く関わらず一線を引いているイメージだったのだ。


「じゃあどこ行きますか?デートですし」


 普通にデートって言葉使ってきたし。


「ちょっと待って。私たちの関係って何なの?」

「んー。なんでしょう?恋人とか?」


 少しからかうような控えめな笑顔!破壊力やば。


 こう聞けば引き下がると思ったのに。友達と出かけたことなんてユミちゃんと何回か出かけた以外でほとんど経験ないから無理だよ!


「いや。流石にそれはないから。」


 いやいや。そんな悲しい目で見ないでよ。いやでも確かに失礼か。でも私は吉河さんに恋愛感情は抱いていない。たしかに可愛いし一緒にいて変な気持ちになるけどそれはあんな出会いのせいだ。


「じゃあ友達でいいですか?」


 不満そうな目で見つめてこられるとこっちも困る。だけど友達が一番だろう。無難で。


 恋人なんていたことないし友達も今までで何人かしかいない。だから私にとって友達も恋人もどちらも大切なものだ。


「うん。じゃあ友達ね。」

「じゃあお互いなんて呼びます?友達なんですよね?」


 えっ。名前?普通名字じゃないの?でも友達なのか。

 あーもうややこしい。


「名前で・・・、呼ぶ?」

「じゃあ陽葵ひまりって呼びます。」

「じゃあ・・、私も結花ゆいかちゃんって呼ぶね。」


 なんかめっちゃ友達って感じだ。あの吉河結花ちゃんと友達か。すごいな。


「陽葵、デートってどこに行けばいいのでしょう?」


 それな。ってか彼氏なんていたことない私に聞くな!もはやデートという呼び方自体を訂正する気にもならないよ・・・。


「私もしらないよ!」


 強く言い過ぎたか・・・。

 でもデートなんてしたことないしどこに行くべきかなんてわかるはずがない。


「そうですか。じゃあ水族館にでも行きましょう」


 確かに水族館デートって言うか・・・。いやいや、私がデートする気で行ってどうするの。とっ、友達だから。


「いいけど。なんで水族館?」

「私、水族館いったことないんです」

「えっ!?子どもの頃とか連れてって貰わなかったの?」

「はい。私の両親は連れてってくれませんよ。絶対に」


 結花ちゃんが一流企業の社長の娘だって言うことは知ってたけどなんか闇を感じる・・・。


「じゃあ今日初水族館だね」


 今日は結花ちゃんに楽しんで貰ってさっさと帰ろう。ユミちゃん以外の人と話すなんて久しぶりだしまともに話せる気がしないけど。


「はい。それが陽葵とで嬉しいです。」


 いやー。ちょっと待って!

 ちょくちょくこういうの挟まれるとキツいよ。可愛すぎる!

 案外ご褒美なのかも・・・?


「そっ。そう言ってくれて嬉しいよ。」


 少したじろぎながらも返事をした。




「これが魚ですか。」


 水族館に入って第一声がそれ!?


「いや。さすがにそれはネタだよね?」

「はい。いくら私でも魚くらいは知ってますよ」


 楽しかったのか結花ちゃんはクスクスと笑っている。なんでだろう・・・。普通に楽しいかもしれない。


「綺麗ですね。小さい海の中のようで」


 薄暗い館内で水槽の光に結花ちゃんの顔が照らされる。ほんと可愛い子だな。


「うん、そうだね。」


 そう言って私も水槽を覗き込む。お互いの体温が感じられるくらいまで近づいた頬に少し驚く。どこか浮ついた結花ちゃんは新鮮だ。


「そういえば陽葵の学部学科はなんですか?」

「経済だよ。結花ちゃんは?」

「私も経済です。」

「えっ。初めて知った。」


 同じ学科だったなんて。確かによくすれ違うなとも思ったことはあるような、ないような。


「そうですか。私は基本午前に授業終わらせているんで時間が合わないのでしょうか」

「私も結構午前の授業取ってるけど・・・」

「じゃあお互い気が付かなかっただけですね。次から探してみます」


 えっ。大学で結花ちゃんに話しかけられると視線に殺されそうなんだけど。大学では普段結花ちゃんは人に囲まれている。明るくてかっこいい男の子とかおしゃれで派手な女の子とか。


 絶対私と話してたら違和感半端ないじゃん!私の友達はユミちゃんしかいないし彼氏がいるわけでも特別可愛いわけでもない。


「まあ会うことがあったら・・。よろしく」

「はい」


 結花ちゃんってこんなに元気な子だったんだ。大学ではお淑やかで誰も近づけない感じで私みたいなのと会話することなんてないと思ってたのに。


「結花ちゃん。今日は大学のときよりも明るいね」

「そうですか?自然とテンションが上がっているのでしょう」


 そうか。これは一応友達との外出だしね。けっ。決してデートとかじゃないし・・・。


「そうだね。初めての水族館だもんね。」

「はい。あと陽葵も一緒だからだと思います。」


 うわー。そういうのだよ。可愛すぎるの!恋愛感情とかじゃないけど結花ちゃんの華奢な体を愛でたくなってきた。そういうのを男の子たちに向かっていえばイチコロなのに。なんでそれを私にやるかな。


「あっ。ありがとう?」


 あーもう。こういうときってなんて返せばいいの。恋人なんていたことないしそんな事言う友達もいたことないから困るんですけど!


「やっぱり陽葵は可愛らしいですね」


 そう言い結花ちゃんは髪をなびかせる。

 あー。違う。可愛いのは私じゃない。全部結花ちゃんだよ!


「いや・・。結花ちゃんのほうが可愛いよ・・」


 って何いってんの私。こんなに褒め倒されたことなんてないから変なこと言っちゃったじゃん。


「ありがとうございます。陽葵にそう言ってもらえてうれしいです」


 こういう返し方があったか。まあ可愛い結花ちゃんがやるからいいんだろうけど・・。


 なんだかんだで話しながら水族館を回った結果あっという間に回り切ってしまった。少し楽しくもあり一本取られた感じもある不思議な感覚だ。


 水族館を出ると辺りはやや暗くなっていて今日はこれで解散ということになった。


「今日はありがとうございました。陽葵!」


 満足いったのか満面の笑みで手を振ってくる。


「じゃあね。結花ちゃん」

「あっ。じゃあ連絡先交換しましょうよ!」

「うん」


 断る理由はないので交換した。


 家に帰って晩ごはんを作り例のマッチングアプリを開くと吉河佑樹(結花ちゃん)のアカウントは消去されていた。


 まあ私も急いで彼氏を探す必要はないよね。友達付き合いも楽しいし。彼氏はほしいけど。いつかその時は来るだろう。


 それになにがあるかわからないし。(←これ大事)

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