マッチングアプリで出会った大学一の美少女に好意を寄せられて困ってます!

赤松奏

第一章

第1話 マッチングアプリでの出会いは予想外!?

「さあいきましょう。」


 美しく長い黒髪が特徴的な女性に強引に連れて行かれそうになる。整った顔立ちや服装から清楚さが伺えて見入ってしまう。


「えっ。あなただったんですか。てっきり私は殿方だと・・・。」

「はい。私は女性にしか恋愛感情を持たないので。」


 ふふっと笑ってはにかむ彼女を不覚にも可愛いと思ってしまう


 それが結花ちゃんとの最初の会話だった。




 遡ること数日前


 私、一ノ瀬陽葵は一ヶ月前から大学二年生です。友達の少ない陰キャ女子大生です。ちなみに私の桃色の髪は地毛ですよ。周りからは染めてるでしょってよく言われるんだけど私がそんな陽キャな髪色にするわけないじゃん。


 そんな私ですが実は最近はじめてみたことがあります。


 それは!


 マッチングアプリというものです。


 大学二年生になるとみんな彼氏がいるんですよ。 それなのに、彼氏いない歴=年齢の私にも彼氏ができるよって友達が言うからっ。

 要するに私の灰色の大学生活も恋人がいればきっと華やかになるっていう期待があったのだ。


 別に顔は悪くないと思うんだけど。


 実際マッチングアプリでも何件かメッセージは来ている。だけどそのほとんどの年齢が自分よりも遥かに年上なのだ。流石におっさんと呼ばれるような人とは付き合いたいとは思わない。


 私が彼氏にしたいのはかっこよくて優しくて年齢が近い人!


 確かに大学の男は清楚でお淑やかな彼女が欲しいんだろうけど。あとは可愛くてコミュ力の高い女の子とか。


 なんて考えながらもまたマッチングアプリをスクロールする。アプリを入れて以降暇さえあればマッチングアプリを開く生活になりつつある。いくらマッチングアプリを開いたところでなにか変わる訳では無い。現実を突きつけられ、はぁとため息を吐きスマホを閉じる。

 街中で彼氏と手をつないだりご飯食べたり。

 でも見てるこっちは焦ってくるんだよ!


「あー。彼氏欲しー。」


 そんな時スマホが光る。ホーム画面には例のマッチングアプリのマークが映っている。


 なんか来た。これは私にも遂に遅めの春が・・・。


 少し震えながらいつものマッチングアプリを開く。メッセージの欄には通知を知らせる赤いマークがついている。


「うぉぉぉおーー!」


 これは本当にきたのでは。私の時代が。


「ねーちゃん。うるさい。」


 突然ドアを開けて叫んだのは私の弟の朔だ。実家が地方の私の大学が東京ということもあり東京の高校に進学した弟と二人暮らしだ。


 もうトゲトゲしちゃって。反抗期かな。


 まあ弟の話は後にして。


 もう一度スマホに目を下ろし再度確認する。


 いや待てよ。メッセージが届いたことは私とてある。問題は相手がどんな人かとメッセージが続くかだ。


 震えている指で恐る恐るチャット欄をクリックする。

「吉河 佑樹。21歳。職業 学生。」

 うんうん。なかなかありじゃない。

 顔はタイプって感じじゃないけどまあ悪くはない。ちょっとだけ年上だけど許容範囲内だ。

「プロフィール拝見しました。よければお話しませんか。」

 届いたメッセージを読み上げる。


 きたー。これは。あるんじゃない。ワンチャンが。


「ぜひ。よろしくお願いします。っと」

 浮つく心を少し落ち着かせて大学へ行く準備をする。キャンパス生地のトートバックに数冊の教材と筆箱を放り込む。


「じゃあお姉ちゃん大学行ってくるから。」

 玄関からリビングでくつろいでいる弟に叫ぶ。


「ねーちゃん。今日、日曜日だよ。」

「あっ。」


 そうだった。心が浮ついてたからか謎の使命感で大学に行こうとしてしまった。


「ってか。ねーちゃん。」

「なに?」

「昼ごはんまだ?俺腹減った。」


 あなたが作ればいいでしょう!別に私が作るって決まりはないんですけど。


 まあ確かに、お腹は減ったけれども…


 時計を見てみるともう12時を過ぎていた。


「はぁ・・・。ちょっと待ってて。今から作るから」


 部屋にカバンを置きエプロンをつける。彼氏もまだなのに保護者になった気分だ。


 キッチンに行くと朝ご飯のお皿は流しに溜まったままで汚れが目立っていた。


 うわぁ。そろそろ掃除もしなきゃな。


 とりあえず適当に棚からインスタント麺を取り出し調理を始める。料理もできるようにしなきゃな。未来の旦那さんのためにも。そうなると便利なインスタント麺ともお別れになるかもしれない。


 このままだと夏休みは毎日インスタント麺になりそうだ。手慣れた手付きでインスタント麺を準備しお皿に盛り付ける。流石に野菜がないと成長期の弟にはまずい気がするので適当にサラダを作る。


「はい。出来たよ。テーブルまで運んどいて。」


 あーもう。絶対母親感出てるし。


 テーブル待っていた弟を呼んでテーブルまで昼食を運ばせる。私が料理をしている間ずっとくつろいでいた弟にもそれくらいはしてもらいたかった。



「じゃあ。いただきます。」

「いただきます。」


 本当に、高校生の元気ってどこから出てくるんだか・・・。でもちょっと可愛いかも。


「ねーちゃん。今日の晩ご飯、唐揚げ食べたい。」


 いやいや。無理でしょ。流石に作れないよ。料理だって最近始めたばっかなのに。


「無理です。」

「えー。唐揚げ食べたい。」

「あーもう。しょうがないわね。作ってみるわよ。」


 なんか私ツンデレみたいじゃない!?

 でもなんだかんだ言って弟の言う事は聞いてしまう気がする。まあ私にとってたった一人の弟だし大切にしたいと思っているのだ。


「やったー。ありがとう、ねーちゃん。」

 何がねーちゃんだよ。まったくもう。


 食べ終わったお皿は弟の朔が洗ってくれるとのことなので自室に戻って例のマッチングアプリを開く。

 本当もう朔ったら。珍しくお皿洗いなってしてくれちゃって・・。


「返信は・・・まだか。」


 返信が来ていないことを確認し大学のレポートに取りかかる。

 あーもう。レポートってなんでこんなに毎回、面倒なの!後にして買い物にでも行くか。




 スマホでレシピを調べスーパーで買ってきた材料をもとに唐揚げを作った。


 作ってみると意外と簡単だったかも・・・。まさか私って思ったより料理できる系女子!?

 

 まあ調べて作っただけだけどね。明日は残った唐揚げを詰めて珍しくお弁当でも作ってあげるか。


 美味しそうに頬張って食べている朔は小学生に戻ったみたいだったな。私は布団の中で思い出して一人幸せに浸っている。





「ねぇ。陽葵ひまり。最近恋人がさー」


 いつも大学で一緒に食事を摂っているセミロングで金髪の女の子は同じ学部学科の坂井ユミちゃん。イケメンの年上彼氏がいて明るい。しかも可愛い。理想の大学生活ってやつを送っていて羨ましい奴だ。


 私は大学生なので当たり前だが平日は大学にいる。ユミちゃんと昼食をとることはめったにないけどこれはこれで楽しいのだ。


「嫌味だよね。ぜったい私が彼氏ができないことを気にしてることしってて言ってるよね!?しかも毎日その話ばっか!」

「そう?えーだって。大学生だよ。やっぱ恋バナじゃない?」

「私に話せる恋バナなんてないから!知ってて言ってるでしょ」


 彼氏がいるというのは一種のステータスなのだ。今まで誰とも付き合ったことがないということがバレたら大学から居場所がなくなるのではなんて考えてしまう。


「どうだろうねー。ほらあそこに座っている吉河さん。可愛くてモテるらしいよ。」


 ユミちゃんは3つほど右のテーブルで友達と食事をしている黒髪ロングでお淑やかそうな子を指差す。


 ってか、ん?吉河って名字どっかで聞いたことある気が・・・。


「そりゃーね。可愛いしお淑やかそうだし、小柄だけど胸もあるし、スタイルいいし絶対モテるだろうね。」


 それはもう女の私が見入ってしまうほど。

 ほんと羨ましい。


「でも告白されても全部振ってるから彼氏はいないみたいだよ。」

「なんで!?もったいない。」

「ちなみに大学で吉河さんの名前を知らない人はいないからね。二つ名は大学一の「美少女」らしいよ。」

「へー。」


 私は告白すらされなくて悩んでいるというのに贅沢なやつだ。一人でいいから分けてほしいと心の底から思う。


「まっ要するに私が言いたいのは恋バナって自分のじゃなくてもできるんだよってこと!」

「そうだね・・・でもユミちゃんは惚気話だよ・・・」

「そうかなー」


 ユミちゃんは午後から授業とのことなので席を立ち私は家路につく。なんだかんだ人と話すのは好きなのかもしれない。焦燥なんかも少しは吹き飛んだ気がする。





 マッチングアプリでの会話も徐々に続くようになってきた。相手の声とか雰囲気とかはあまりわからないけど今度会ってみる約束をした。


 ちょっと緊張するな。どんな人なんだろう。流石に写真の加工とかはしてないと思うけど。


 始めてのそういう出会いは新鮮で心配だ。その日のことを考えるとちょっと不安で、でも楽しみで。こんな感覚は初めてだ。




 そして約束の日。


 待ち合わせ場所に先に到着した私は期待に胸を膨らませていた。


 なんて呼べばいいの?ってか実際はどんな人だろう。


 なんて考えていると辺りを見回して誰かを探している様子の艶のある黒髪の子と目が合う。


 あれって吉河結花じゃん。何してるんだろう。まあ面識がないから話しかけられないけどね・・・。


 はっとなにかに気がついたように吉川さんは私の方に近づいてくる。


「あの・・・。一ノ瀬さんですか?」


 えっ。それはそうですけど。なんで私の名前を?


「そうですけど・・・。どうしたの吉河さん?」


 心を落ち着かせて質問してみる。吉河さんは大学イチのお淑やかで可愛い女の子で吉河産業社長の娘。お金持ちで人望も厚い彼女が私なんかのことを知ってるわけがない。ちなみに吉河産業は世界でもTOPの企業で日本で持っている権限は絶大だ。


「なんで私の名前を知ってるんですか?」


 えっ。質問も質問で返された・・・。


「えっとね。吉河さんは知らないかもしれないけど大学同じなんだよね・・・」

「そうなのですか。じゃあ行きましょう!」

「えっ。なんで!私は別に待ってる人がいるんですけど・・。」

「それたぶん私です。さあ行きましょう。」


 えっ。なりすまし?どーゆーこと!?


 吉河さんは私の右手を掴み引っ張る。いや。強引だな。なんにも情報が入ってこない。


 一瞬で全てを悟った。


 彼女の存在を知った時から名字が同じだなとは思ってはいた。まさかこんなことになるとは・・・。


「えっ。あなただったんですか。てっきり私は殿方だと・・・。」


 ってか写真の男は誰!?加工どころの騒ぎじゃないじゃん!


「はい。私は女性にしか恋愛感情を持たないので。」


 いっ、いや。どういうことなの!

 ふふっと笑ってはにかむ彼女に不覚にも可愛いと思ってしまった。騙されたはずなのになぜか腹が立った訳ではなかった気がする。

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