第4話 恋愛相談は新たな発見と共に

 あの吉河結花ちゃんの一目惚れ宣言の翌日。


 いつも通り講義を受けているとメールでユミちゃんから学食で待ってるからお昼食べようと誘われたので注文したラーメンを持ちながらユミちゃんを探す。


 最近はユミちゃんが彼氏を優先すること多かったのでユミちゃんと学食に来るのは久しぶりだ。


 結花ちゃんが私に恋愛感情!?


 さすがにそれはないでしょ。なんて考えていたせいで今晩は一睡もできなかった。


 朔にはカッコつけちゃったけど・・・。


 昨晩を含む昨日のことを思い出す。

 今考えるとめっちゃ恥ずかしいセリフ言ってない!?なにが「かっこいい姉でいたい」だよ。


 やっちゃった・・・。


 弟に変な心配をかけないのは姉の義務だ。なんだかんだ優しい朔はきっと自分のこと以上に心配してくれるだろう。



 数分探すと混み合った学食のなかでユミちゃんを視界にとらえる。金髪セミロングのユミちゃんは平均身長よりも少し高くて結構目立つ。


「あっ。陽葵!ここ。ここ!」


 ユミちゃんも私に気がついたらしく少し大袈裟に手を振る。


 最近わかったことだがユミちゃんと結花ちゃんの性格は全く逆だ。ユミちゃんは結構大雑把で明るい。結花ちゃんはお淑やかで物静か。


 だけど二人には共通点がある。


 それは人を惹きつけるということだ。ユミちゃんはコミュ力が高くて友達が多い。ちなみにユミちゃんは私の誕生日に私にはとても大きくて着けられないブラを渡してくるという嫌味なやつだ。そして結花ちゃんの周りにも自然と人が集まってくる。(天使みたいな包容力があるからだね。)だけどそんな二人と関わる私は友達も少なくてコミュ力も低い。


 そんな劣等感を持っている私がまっすぐ伝えられた結花ちゃんからの好意の受け取り方に悩むのは普通のことかもしれない。


 心の中ではそんなことないと否定しつつも、そうだったらどうしようと不安になってる自分がいる。


 はぁ。なにを思い上がってるんだろう。結花ちゃんが私なんかに恋愛感情を抱くわけないのに。


「ユミちゃん!おまたせ。」

「久しぶりだね!陽葵。」

「それはユミちゃんが彼氏優先にするからでしょ!」

「そりゃーね。大学生だよ。異性関係は必要でしょー。陽葵は告白されたりしないの?」

「いや!されるわけな・・・」


 告白っぽいのされたわ。結花ちゃんに。一目惚れしたって言われちゃったわ。


 いやいや。あれば友達としてってことだから!絶対にそういうのじゃないから!と言いつつもどうしていいか分からず寝れなかったのは私なんだけど。


 忘れようとしてたのに・・・。もう。


「えー。まさか告白されたの?」

「いや。そういうわけじゃないけど…」

「なになに?聞かせてよ!私と陽葵の仲じゃん。私の恋愛だって話してるんだし!」

「あれは惚気話だよ!」


 ユミちゃんは半年くらい前から同じ学部の一個上の先輩(イケメン)と付き合っている。そして惚気話をいつも聞かされてきた。それが私に恋愛沙汰がないことを焦らせていたのは言うまでもない。


「で、なに?聞いてほしそうな顔してるけど。お姉さんに話してみなさい!陽葵!」


 いやいや。お姉さんて。確かに恋愛においてユミちゃんは先輩かもしれないけど・・・。

 しかも目をぱっちり開けてて・・・。


「怖いよ。ユミちゃん!」


 でも相談に乗ってほしかったのは事実だ。自分では答えに導けそうにない。

 だけど私が相談できる人なんてユミちゃんと結花ちゃんしかいない。まあ結花ちゃんには相談できるわけないし。


 朔には気恥ずかしさから断っちゃったし。


「ははーん。誰に告られたの?」


 もう言ってしまおう。誰からかを伏せればわからないだろう。


「ゆい・・・。」


 いや。なんで名前を伏せようとした瞬間から言おうとしてんの!?落ち着け私。


 恋愛相談の経験なんてしたこともされたこともないから動揺してるんだよな。


「なんて言えばいいのか分かんないけど、一目惚れしたって言われたんだ」

「えっ。陽葵が?」


 文字通り目を丸くして驚いているユミちゃん。私がモテないって言いたいのかな。失礼だよ!


「もちろん私の話に決まってるじゃん!」

「マッチングアプリでもノーヒットだったあの陽葵が?」


 馬鹿にしてんのか!?

 ノーヒットだったのは自分から話しかけるのが苦手だったからだ。相手がうまい具合にリードしてくれたら話せないわけではない。


「あーそうですよ」

「まあ、陽葵は可愛いからね」


 かっ、可愛い!?ユミちゃんがそんなこと私に言ったの初めてじゃない!?


 やめてよ!はずかしい!


 最近私は可愛いらしい。昨日結花ちゃんにも言われたので2日連続で言われたことになる。


「口説いてる?」

「いやいや。化粧を上手にすればモテるってことだよ」

「化粧ねー。やり方よくわかんないんだよね」

「えっ。いますっぴん?」

「うん。そうだけど」


 確かにいまは化粧してない。まあ時間があるときは軽くしていたんだけど最近は朝、時間がないので仕方がない。


「えぇぇぇぇぇ!」


 なっ、そんなに驚くことなの!?


「いい?陽葵。確かに高校までは化粧しちゃいけなかったかもしれないけど、大学ではむしろしないほうがおかしいんだよ」

「えっ。そうなの?」

「っていうか、化粧しないでその肌か。羨ましいわ」


 確かに肌がきれいな自信はある。小さい頃から母親にしつこく肌の手入れだけはどんなに忙しくてもやるように言われていたしそれが習慣になっていた。


 っていうか化粧しているかしてないかなんて見たらすぐわかるでしょう!


「そうなんだ。初めて知った」

「まあ、その話は後にして、結局相手はどんな中年男性だい?」


 中年男性しか引っ掛けられないわけじゃないよ!確かにマッチングアプリでは中年男性ばっかだったけど。


「大学生だよ!」

「ぐぬぬ・・。かっこいい系?可愛い系?」


 どういうこと?

 あの大学随一の可愛らしさをもつ吉河結花ちゃんなんだけど。


「可愛い系かな・・・?」

「えー。沼るやつじゃん」


 沼るってなんだよ。恋愛経験ゼロの私に専門用語みたいのを使うな!


「で。付き合うの?」

「えっ。一目惚れしたってことと仲良くしたいって言われただけで付き合ってとは言われてないし・・・」

「いやいや。一目惚れしたってことは実質告白でしょ」

「そうかもしれないけど・・・」

「まあ男も男だけどね。そこまで言ったならはっきり告っちゃえばいいのに」


 それはまさに私が思っていたことだ。結花ちゃんになにか返事を求められているわけない。だから自分が勝手に告白されたと自惚れているだけかもしれないと考えるとどうしていいかわからない。

 しかも男じゃないんだけどな・・・。


「じゃあ。私はどうすればいいの?」

「うーん。告られるのを待つって言うのも手だけど・・・。あんたが好きなら告っちゃえば?」


 いやいや。どうしてそうなるの。

 私が結花ちゃんにそう言われたって言えないせいで話が別の方向に行っちゃってる気がする。

 だけど・・・。言えるわけ無いじゃん!!

 第一、友達としては可愛くてちょっと面白くていいかもだけど恋愛っていう面では恋なんてしたことがない私が理解できるわけがない。


「いやいや。」

「じゃあ。待ちね。相手がどう来るかによって決めるのが一番よ。」


 いつもよりユミちゃんの声が低い気がする・・・。

 しつこく相談するから嫌がられちゃったかな。


「なんか。冷たくない!?」

「そう?じゃあ陽葵がとられちゃうのが悲しいのかも」


 そう言ってユミちゃんは涙を拭うような、いや絶対嘘泣きだけど、素振りを見せた。


「いやいや。なんだよそれ!」


 散々自分は彼氏を優先して私を放っといたくせに!


「さーね」


 からかわれたぁぁ。

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