「じゃあまず、私への質問から答えるわ。『ここはどこ?』よね」


 確認してくる少女――由香里に向かって、犬上は頷く。


「ここは俺の家だった筈なんだ。なのに戸を開けたらこの妙に明るい部屋に来ていた。おまけに君という知らない人もいる」


「なるほどね」


 由香里は少し時間をおいてから答えた。


「ここは、県でいうと奈良県よ。昔他の言い方でいうと……伝わるかわからないけど、ヤマト、かしら」

「おお、ヤマトか」


 犬上はようやく伝わる言葉が出てきてホッとする。


「ヤマトなら分かる。俺も住んでいたからな」


「お、まじ? まあ、そーゆーことで、ここはヤマトにある私の家よ。もっというなら、その家の中にある私の部屋よ」


 由香里のその言葉には、眉をひそめる。


「え、俺の家だったのに」

「いえ、私の家よ?」

「なんでだよ、意味わかんねぇ」

「私だって分からないわ。でも、あなたの答えを聞けば少しは分かりそう」   

「というと?」

「あなたがどこから来たのかってあう質問よ」


 由香里がその整った顔を近づけてきて言った。


「イヌ、あなたはどこから……いや、どこっていうより『いつ』から来たの?」


「いつ?」


 イヌ――もとい犬上は、首を傾げつつ答える。


「今の大王が即位されてから一年たった頃だ」

「大王、ねぇ」

 

 まるでその呼び方がおかしいとでも言うかのように、由香里は更に問うてくる。


「まだそれだけじゃ、わからないわ。そうね、じゃあ、政治を握っているのは誰?」


 犬上は迷いなく口を開いた。


「大臣殿……蘇我蝦夷さま、だが」


 その瞬間、由香里が顔をパッと輝かせた。犬上は「どうした」と聞く。すると由香里は、ビシッと犬上の方を指さして高らかに言ってのけた。


「これで決定よ!」

「何がだよ」

「あなたは、タイムスリップしてきたのよ。この令和の世に、遥か昔の飛鳥時代からね!」


「は、はぁ」

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