[第二章:ふたつのばしょ、動いて]その8

「現在、戦力は非常に少ない。[BSIA]との戦闘で、我々の戦力は大幅に減衰したのだから」

 [MAS]が本来その全てを制御していた、鋼鉄の都市の一角。

 既に耐用年数を超えたと判断され、解体待ちであった廃ビルの地下に、その拠点はあった。

「…戦闘ができるのは、[五月雨のドゥルワァー]のみ」

「長年一緒にいた長有能情報屋の神無橋も抜け、俺たちの組織は弱体化」

「そして[BSIA]は大暴れ」

「困った困った」

「さてどうする」

 人が粒子となって消え、いなくなった家屋から持ってきた家具や家電製品で溢れるそこは、[MAS]が管理する地域の、[AAA]の残党だ。

 以前、彼らは昨日が万全ではない[MAS]を破壊しようと侵攻、[MAS]を守ろうとする[BSIA]と激戦を繰り広げた。

 その際、相手にも大損害を与えたものの、元よりこの地域では勢力が大きくない[AAA]は撤退を余儀なくされた。結果、戦いは[BSIA]の辛勝となり、自身も大損害を被った[AAA]は、こうして拠点の一つに身を寄せているのである。

「……どうしたものか」

「こうしたものか?」

「それは意味ないものだ」

「それもそうだ」

『はぁ』

 その拠点にいる十人程度の男女は一斉にため息をつく。

 年齢は十代だから三十代くらいまででそれなりに幅広い。元々はもっと上の世代もいたのだが、全員これまでの幾度かの戦闘で亡くなってしまっていた。

 それを証明するかのように、拠点の端にある机には、故人の名が書かれたキーホルダーが箱に入れられて並べられていた。

「…他の地域の[AAA]はもう少し押しているそうだが」

「かといってもそれぞれの管理者の戦力は多い以上、こちらに援軍を寄こせるわけもない」

「だいたい、外に出ようものなら見つかる。そうならないのは、管理ができていないここぐらいだ」

「その状態、[MAS]が何故だか機能不全に陥っている状況で、勝負を決めたかったんだけどね」

『はぁ』

 もはや、彼らに余力はない。せいぜい、後一度戦うことしかできないのだ。それにしても、先ほど挙げられた、[五月雨のドゥルワァー]という男、一人に頼ったものだ。

 彼は相当な強さを誇るが、それでも個であることに変わりはない。

[MAS]破壊のためにもう最後の戦いを挑むとしても、それだけでは心もとないと言わざるを得ない。

「…しかし、それでもやらなければならないのだろうか。[MAS]が機能回復すれば、今度は制御可能なすべての[AB]を以て、我々を殲滅しに来るだろう。ここまで管理者の秩序を乱し続け、壊滅寸前にまで行ったのだから」

「私たちには、もう時間がない。それは間違いないのです」

「…[MAS]を本当に壊したいと思うのならば、できるだけ早く」

「できる限りの準備をして、戦いを」

『そうしよう』

 集まった全員は頷き、続ける。

『あと少しで、全てに決着を』


▽―▽


 そこは、光の中だ。

『……』

 温かい橙の光の中、多くの無人人型機体、[AB]を引きつれ、一機の[ABB]が四脚を動かし、歩を進めていく。

 機体名、[パンドラボックス]だ。

 ただ、以前の接続者との戦闘で中破したためか、主に下半身と胴体正面の形状がやや丸型に変わっている。

 そんな機体の、腹部にはあるものが搭載されている。

『人形、これを中心とした機械一つで、安全に出入りできるとは』

 以前捕獲された接続者。彼女を解析した後、その体を中心として組み上げられた装置が、その機体にはついているのだ。

その心を司っているらしい心臓部に関しては、反抗してくる恐れもあるため外され、大陸側で保管されている。今の彼女の体は、内部の糸を刺激されると[ふわっちゃー]への道を開くだけの、機械も同然になっているのだ。

 これにより、機体は三百キロの加速で衝突し、無理やり[幻想の三角領域]の中に入るということをする必要がなかった。

『あと少し、あと少しです。[MAS]、R。回収させて、貰いますよぉ…!』

 カティアの言葉とともに、機体は推進器を吹かし、長い光の道を一気に進む。

 その時。

「大陸側の兵器!?どうしてここに!」

 道の先に現れるのは、腕に半径二十センチほど大量の糸を撒いた、ワンピース姿の人形だ。

 その名を、変換者と言う。そんな彼女は、両手から糸を出し、[パンドラボックス]へと向ける。

「ここは、そちらがわの世界の立ち入りは、禁止!」

 言葉とともに、多数の糸が束となり、高速で移動する機体へと襲い掛かる。

『すみませんが、通してもらいます!』

 言って、カティアは機体の肩の武装を使用する。その瞬間、以前少なくなった箱の一つが開く。顔を覗かせるのは、全部で十六発のミサイルだ。

 それらが、一斉に変換者へ向かって放たれる。

「!」

 彼女の糸が間に合う前にミサイルは全弾着弾し、爆発を起こす。

 それを見届けたカティアは機体を動かし、爆発の跡を横目に、一気に道を直進する。

『…理想のため。世界の管理のため、平和のため。逃亡したRユニットを、捕獲します…!』

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