[第一章:どーるわーるど、出会い]その4
その夜、めーてぃはふーわと隣同士で寝ていた。
上に布団が載せられたベッドという珍妙な見た目の、寝具はそれ一つ。大きくもないため、二人は密着しているに等しい状態だ。
長方形の寝具の向こうには戸棚があり、僅かに引き出された三段目の引き出しから、音符三人の寝顔が覗いている。
そして、ふーわは既に眠りに落ち、めーてぃの横で静かに寝息を立てている。
「……」
四枚羽の彼女は、静かに横に転がり、すぅすぅと寝息を立てる、ふーわを見る。
(私を助けてくれて、家にいさせてくれて、いろいろしてくれる優しい人)
「…ふーわ。ぽん」
真顔で寝ている彼女を見ながら、めーてぃはクスリと笑う。
(…嬉しい。ありがたい。感謝してる。ふーわ)
言葉は粗くても、その中身は優しさで満ちている。そんな彼女のことを、めーてぃはたまらなく好いている。
(私の初めての友達…っていってもいいよね)
そう思いながら、めーてぃは今日起きたことを思い出す。
([ふわっちゃー]に来て。みるこに会って。ふーわに会って。…みんな優しくて、楽しくて)
「…まだ、よくは知らないけれど。ここは…いいところ。ぽん」
きっと明日には、さらに良い事が起きるのだろう。そんなことを思い、望み、めーてぃは笑顔を浮かべる。
(…私が誰なのか。それは知らない。ふーわが調べてくれるっぽいけど…でも、それは)
正直、どうでもいい気がするのだ。
彼女はただ、今日のような、またはそれ以上に楽しい日々を過ごすことができるならば、それでいい。不明な理由で、不快感をもたらす不明な記憶など、なくても十分だと思ってしまう。
(…むしろ、これでよかったような気さえする。これで、いい…)
そう思いながら脱力し、めーてぃは布団に身を任せる。
少し重い気がする胸を下にし、ふーわが用意した予備の枕に、頭を乗せる。
「…ぁ」
眠ろうとするめーてぃの視線の先、閉じられたカーテンの隙間から、クレパスで書いたような質感の満月が美しく輝いている。
それは、めーてぃたちの今後が良くなることを示すかのように、彼女には思えた。
「…ここに来て、よかった。ここでずっと」
無自覚にめーてぃは言い、幸せな気持ちで満たされながら、目を閉じる。
今まで一度を体験したことのなかった、本物の眠りへ落ちていく。
[ふわっちゃー]に敷かれた法則のおかげで。
▽ー▽
「[夢城2番]に接近した不埒者は排除した。…これで、不埒者は後一?」
そこは、お菓子を模した人形が山積みにされた四角い空間だ。巨大なクッションの周りには四つ程棚が置いてあり、その中からは沢山の人形が顔を出している。
そんな四畳半ほどのスペースに、四頭身の人形が四人、敷かれた座布団の上に座っていた。
一人は、藍色の着物に、銀色に輝く羽衣を纏っていて、頭にはx字に交わった角で、さす股を背中に十字に交わらせて背負っている。マゼンダの機体に攻撃を行った人物、執行者だ。
「……」
その横に座るのは、かなり背の低い褐色の少女だ。彼女は動きやすさを重視た布面積の少ない、局部のみを覆う衣服を着用しており、その上から数多の拘束具を折りたたんだ状態で吊るしている。
「そのはずだねぇ。監視者が見逃してなければだけどぉ」
そう言うのは、髪の長い少年だ。彼は局部以外ほぼ全裸の上に、大きなマントを羽織っている。その内側には、首からかけた巨大な虫眼鏡の存在が確認できた。
「…いたら執行者が排除するのみ」
「…」
執行者の言葉に、捕縛者が無言で頷く。
「…今回いるのは監視者、調査者、執行者、捕縛者かぁ。他はぁ?」
「…」
捕縛者が無言で首を横に振る。
「そうなんだぁ。不参加かぁ」
「…必要がない。今のところは」
「…」
捕縛者が無言で頷く。
調査者も、右に同じだ。
「…それじゃぁ。今日はこの四人とぉ」
「…[ふわっちゃー]の管理者の頂に位置する」
「彼女に」
そう、調査者が言った時である。
「よんだぁ?ふわぁ…」
『就寝者様』
四人が発せられた声に反応し、巨大なクッションの方を見る。そこにいるのは、脱力しきった様子の眠気眼の少女だ。彼女は寝間着姿で、両手の中に猫を模した大きな枕を持っている。
「ここ最近、監視者は、二つの巨大物体の侵入を確認したんだぁ」
監視者は就寝者に向かって言う。
「…今のところ、港町一つが破壊された以外は、これといって被害はない」
執行者もそれに続く。
「…そう。ふわぁ。続けてぇ…ふわぁ」
「はい。現在確認されている不埒者は、執行者と捕縛者が処理を。もう片方は、情報待ち」
「ふわぁ。…調査者は、見つけてないんだよねぇ?…ふわぁ」
その言葉に彼女は頷く。
「…ふわぁ。ならぁ、統括者に掛け合ってみるよぉ。…ふわぁ。もう、情報来てるかもだからぁ」
「…見つかり次第、執行者が素早く排除する」
捕縛者はその言葉に、頼りになるとでもいいたげな微笑を浮かべて頷く。
「…ふわぁ。二度も来てるならぁ、派遣者を出して調べるべきかもねぇ。…入っちゃったのは、執行者にやってもらうとしてぇ。…ふわぁ」
就寝者は何度もあくびをし、目をこすり、非常に眠たそうな様子を見せる。
だが、そのような状態でも、他の者たちの情報をしっかりと聞き、処理している。
彼女がただの眠たい少女ではないことは明らかだ。
「…ふわぁ。こっちのほうは、今のところぉ、これ以上なぃ…?」
「そうだねぇ。今はぁ」
監視者は言いながら呟く。
その様子を見た就寝者は、あくびをかみ殺しながら言う。
「場合によってはぁ…ふわぁ。他の管理者も出すよぉ。今はぁ、暇してるはずだからぁ」
「…外の方は?」
執行者が聞く。
「…ふわぁ。今は、大丈夫だってえ。拡大者は順調に…ふわぁ。広げてるしぃ。接続者もぉ…ふわぁ。変換者もぉ…」
「…ならいい」
「じゃぁ。ここで終わりだねぇ」
監視者の言葉で、会話は終了の方へと動いていく。
「今日の夜更かしの会は終了だ」
「…」
捕縛者が執行者の言葉に頷く。
「…ふわぁ…それじゃぁ。いつもの締めをするねぇ…ふわぁ」
就寝者が枕を抱えなおし、他の者を見る。
その眠気眼ではあるが、意識が確かに感じられる視線を受け、四人はそのまま、言葉を待つ。
「…ふわぁ。わたくしたちはぁ…現実を弾く」
言いながら寝間着の少女は枕を軽く投げ、落として自分の頭の上に載せる。
「さぁ、頑張ろうぉ。お人形のみんな」
「わたくしたちはぁ。このふわふわでぇ、幸せなぁ、[ふわっちゃー]を守りぃ、維持するぅ、管理者なんだしねぇ」
そう言うと、就寝者は無邪気な笑みを浮かべ、最後の言葉を言う。
「お休みなさぁい。良い夢をぉ」
するとクッションが溶けるように、就寝者と共に消えていく。
『おやすみなさい』
一分後、部屋から全員がなくなり、間もなく空間は溶けるように消滅する。
マゼンダの機体が目にした、[夢城2番]の上にあ
った、クッキーのような色合いの立方体が消滅する。
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