第12話 大阪人の土性骨 明るさ

  私の前にしゃがんで観戦されていた三人の女性について。

彼女たちの応援とは、一方的に声援を送るだけでなく、応援する側とされる選手との、一体感・双方向性がありました。

数十メートルも離れているコートの選手たちに声援を送ったり、試合後に健闘を讃えたりするのですが、まるで、電車の中で隣同士で楽しそうに話しているかのような気安さ・気楽さです。


試合が終わると、観客席から選手の名前を連呼する。 すると、その選手は試合場の真ん中まで一人でトコトコ歩いてきて、ニッコリ微笑み応援席へ向かって手を振る。応援する側もされる側も、彼我の距離を感じさせない親密感があると、端で見ている私は感じました。

大阪人というのは、相手との間合いが30センチでも30メートルでも、同じようにコミュニケーションできる、という「スタンド」の持ち主なのか、はたまた、公の場を自分たちだけの場に(一瞬)変えてしまうスタンドか?


単に、地元だ・大阪民だから、子供の時から日本拳法をやっているので大きな会場というものに場馴れしているから、だけではない。大阪人の土性骨の一端をそこに見たような気がします。

一方、関東では、応援は応援であって、応援される選手は(恥ずかしがって)そこまでの反応をする人は少ない(のではないか)。


となると、「全体は部分の総和に勝る」ためのひとつの大切な要因である、互いの親密感という点で、大阪人とは他の日本人に勝っているのだろうか。

東京オリンピック(1964年)女子バレーボールで金メダルに輝いた日本チームは、監督と選手全員がニチボー貝塚(大阪)の社員でした。

もちろん、彼女たちの中には関東出身者も何人かいましたが、全員が数年~14年間「大阪という環境」で一緒に生活することで、大阪人らしい親密感・強い心のつながりを築きあげたのかもしれません。

キャプテンの河西昌枝さんは山梨出身ですが、大松監督(徳島出身)の下で14年間、バレーを通じて土性骨をたたき込まれた方です。 東京オリンピックで日本チームがソ連に勝った瞬間、コートで泣き崩れる選手たちの中で、一人だけ普段の凜とした姿で選手たちを介抱し、審判員に挨拶をしていた姿が印象的でした。


「ニチボー貝塚の特徴は厳しい練習よりも、その明るさにある。」(河西昌枝さん)


「思い出の回転レシーブ 大松先生ありがとう」講談社 1965年(昭和40年)刊 という、ニチボー貝塚の選手とマネージャー7人の書いた本を読むと、そのあたりのことがよくわかります。


河西昌枝 山梨県

宮本恵美子 和歌山県

谷田絹子 大阪府

半田百合子 栃木県

松村好子 大阪府 

磯辺サタ 千葉県

鈴木恵美子 山梨県


彼女たちは毎日月曜日~土曜日まで、夕方から深夜2・3時、ときには朝7時まで12時間の練習に耐えた土性骨の持ち主です。(工場ですから、朝6時起床、8時から始業でした。)

谷田さんと松村さんという「大阪人」は、後輩や仲間には優しく、また、大松監督をもの凄く慕い信奉していらしたのですが、練習で自分と監督の考えがぶつかると、時には鬼のような形相で監督に食ってかかる場面もあったそうです。


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大阪駅から少し離れた所に、複数の高速バス会社が運営する発着場がありますが、朝そこへ到着すると、場内で交通整理をしているお姉さんたちが、元気のいい大きな声で「おはようございまーす !」なんて言って出迎えてくれる。私は思わず「大阪の女の子は元気がいいねー !」なんて言ってしまうのですが、そうすると、「はーい !」なんて言って、更にニコニコしてくれる。


「全体は部分の総和に勝る」

単に交通整理という仕事だけでなく、そこにプラスα、お客さんを慰労する・楽しい気持ちにさせてくれるのです。

東京にも、同じような場所がありますが、こちらの案内整理の人達は、いかにも事務的というか無表情で愛想がない、という感じです。


今回は、彼女たちの応援している選手が活躍されて(勝って)「キャッホー !」でしたが、もし負けたとしても、多分、彼女たちは「しゃあないわ」という程度で、「明るく負けた」のではないか。

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在日韓国人というのは、偽名を使って生きているので、根本的なところで後ろめたさがある。だから、暗い。「暗い」が言い過ぎなら、明るさというものがない。何か心の疚(やま)しいこと、隠し立てすることがあるから、本心・本音で話ができない。自分をすべて曝け出して正直になったら、なにを喋ってしまうかわからないから、内心ではいつもビクビクしている。

かといって、完全に日本人になり切ってしまうと「オレは韓国人だ。おじさんはヤクザだ。何でもそうかいの会員だ。」なんていう脅しやハッタリがきかないから、軽く見られてしまう。

大学時代のOBでいらした在日韓国人(子供の時から韓国名で生きてこられた)の方以外、私が知る韓国人というのは、面白みがない・明るくない。 明るいとバカにされると危惧していて、韓国映画で好んで描きたがる「ちょっと影のあるような男」的雰囲気を出したがる。


(在日)韓国人として、真に自分の物語を(明るく・オープンに)語れる人間というのは、私の今まで知る範囲では、大学時代のOBだけ。あとの人たちは、常に虚構の自分を見せている人生なので、実体がない。

今大会で私の隣にいらしたお嬢さんのように、腹の底から、(声というよりも)自分の本心・本性を曝け出せるような、真に自分が自分である人間を、在日韓国人に見たことがない。

台湾にいた在日韓国人も同じでしたが、韓国から台湾へ来た韓国人は、その点で正直でした。東北大震災(2011年3月11日)の時は、大喜びしてましたから。

日本人の不幸を見て、陰でクスクス笑い・喜ぶという体質は、韓国人・在日韓国人共通なんですね。


大学時代の在日韓国人OBの方は、韓国での高校生時代にいじめられた(全校生徒全員が敵なんですから、勝てるわけがない)こと、浮気相手の女性の家に籠もっているところを、奥さんが来て耳を引っ張られるようにして家に連れ戻されたこと、30人相手にケンカして顔がエレファントマンのようになり、警察署へ迎えに来た奥さんが腰を抜かした、なんて、真に「自分で考えて自分で行動した体験」を語ることができる。だから、どんな話も明るさがあるし、リアリティーがあって楽しい。OBも奥さんも正直で隠し立てがないから、嘘つきの日本人なんかより、よほど安心できるのです。


(私は閻魔さまの前で自分の物語を聞かせて、閻魔大王を楽しませてやろうと、今こうして本を書いている(いろいろな体験談をまとめている)わけです。)


もちろん、自分や人に嘘をついて生きる、という人間は「日本人」にもいます。

いい歳をして(歳をとるとそうなのか?)肩書きばかり追い求め、逆に中身はどんどん希薄になっていく。だから、いつまで経っても内に理論が形成されないし、ポリシーをもって人の指導ができない。

学生時代にいくら拳法が強くても、その頃の中身は歳を経るにつれ、どんどん薄れていく。要領よく生きているだけの人間、隠していることがあるから正直に生きられない人間というのは、実質的には存在しないも同然なのです。


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まるでコレラかペストのような扱いとなっていた、コロナ騒動真っ盛りの2021年夏、台湾南部の屏東という町にある郵便局へ行った時のことです。

私の住まいから自転車で小一時間かかるのですが、その日はいつものように日中の気温は38度くらい。私は太陽光線を浴びるのが好きなので、台湾ではいつもランニングシャツなのですが、自転車で風を切るのでそれほど暑さを感じない。


汗びっしょりでエアコンの効いた郵便局へ入ると、可愛い女の子がすかさず体温計を私のおでこにあてます。

台湾でも日本でも、そういう時にわたしは必ず「何度 ?」と、聞きながら体温計の表示を見ることにしているのですが、なんと「38℃ !」。 これが日本なら、女の子の顔色が変わり、入場禁止になるどころか、下手をすると医者だの保健所だの警察だのを呼ばれる、なんて騒ぎになるのではないでしょうか。


ところが、「エエッ ?」と驚く私に、その女の子はニッコリ笑い「外は暑いから」といって、そのまま入れてくれました。


今回、天井桟敷での彼女たち3人の声援や選手とのやり取りの様子を見ていて、私は台湾(南部)の、あの郵便局の明るい女の子のことを思い出しました。

10年前に、やはり台湾南部の高雄という町の語学学校で一緒だった大阪の女性によると、台湾南部の女性の明るさ・おおらかさ・親密感は「大阪人」と似ているのだそうです。


2023年11月27日

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平栗雅人

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