第11話 大阪人の土性骨 しっかりとした「我(われ)」

我がしっかりしているから、独りになれるし、仲よくなれる


  ニチボー監督大松博文監督は、その著書で(女性)選手たちを語る時、よく「大阪人の土性骨(どしょうっぽね)」という言葉を使われていましたが、それは必ずしもバレーボール、或いは大学日本拳法の練習や試合における激しい闘争心や根性だけのことではありません。彼ら・彼女たち大阪人の日常にも「土性骨」を見ることができるのです。


たとえば、大阪の或るさびれた商店街にある、八百屋の親父さん。 三個100円の熟成した(腐りかけの)柿を一皿買うにも「蜜柑がなかなか安くなりませんね」なんて、ひと言でも言おうものなら、「今年の夏はヨウケ暑かったさかい、・・・」から始まる、気候と野菜果物の相関関係について、10分くらいの講義を受ける羽目になる。

日本橋の電気街、裏通りの古風なお店のおばちゃんも、道を尋ねる際に世間話なんかしてしまうと、なかなか離してくれませんが、あれが大阪商人のど根性・土性骨というものなのではないでしょうか。


  今大会、通路に立って観戦する私のとなりにいらした女性は、まさに、その土性骨を(道着ではなく)おしゃれなお嬢様の風情で発揮されていました(選手(後輩)に声援を送っていた。)。

単なる声援ではなく、彼女の大学日本拳法現役時代に於ける激しい気力と闘志をそのまま声にして「ぶちかます(後輩たちにぶつける)」姿に、「土性骨」を見せてもらいました。

彼女が今までの人生で鍛えあげた強い精神力を、(大きな)声という伝導媒体によって、30メートルも離れた後輩に伝播・転送するという「スタンド」を使っていたのではないか ! (漫画「ジョジョの奇妙な冒険」)。


数年前、東京は大森体育館で行なわれた大学日本拳法の大会で、ある大学(の選手の)お母さんたち10人くらいが、メガホンを叩いて大きな声援を送っていました。 彼女たちの声援の仕方とは、メガホンをパンパン打ち鳴らす音と、自分の息子や娘の名前を呼ぶ声でしたが、それは今大会で私の隣にいらした女性とは、全く異なる「声援」です。

お母さん方は、単なる声と音のみの「シュプレヒコール」ですが、隣の女性は、遠く離れた選手の心の中に自分が入り込んで「一緒に戦う」という観がありました。観戦ではなく、自分も一緒に戦っているのです。しかも、その姿には、私が子供の時に(白黒)テレビで見て目に焼き付いたニチボーの選手たちの「打たれても打たれても、飛び込んで球を拾う」土性骨がありました。


大森体育館での、お母さんたちのお気持ちはわかりますが、自分の娘や息子が相手をぶん殴るのを、メガホンを叩いて大騒ぎして喜ぶというのは、(サッカーや野球ではなく武道の試合に於いては)殴られた側の痛みを知らない行為、と見られてしまう。 プロボクシングであれば、「殴ってなんぼ」というおカネの世界ですから、そういう応援もありでしょうが、武道とは、ただ勝てばいい、というものではないはずです。勝者にも敗者にも拍手、でいいのではないでしょうか。


社会学的に見ると、関東の女性たち(お母様方)は、メガホンとか10人という大勢で徒党を組み、大きな声を出してエールを送る。「赤信号、みんなで渡れば恐くない」的な人たち。周囲に同調したり噂や流言に流されるタイプか ?


一方、今大会で私の隣にいらした女性は、たった一人でガンガン自分の主張(応援)を発することができる。「コギト・エルゴ・スム 真の我」がしっかりしているから、誰がなんと言おうと、自分の意志・主張を表明できる。

しかし、最後にちょっと恥ずかしげな表情が(私には)見えたりするところは、単に我が強いだけの「大阪のオバチャン」とはちがう、レディーの気品がありました。


関東と関西の違いとは、関西の女性の方が面の皮が厚いとか、図々しいとかいった見方よりも、内面に於ける「我(われ)の確立」の違い、と見るべきではないか。

関西の彼女は、10数年間もの、殴り・殴られという真剣勝負を通じて、「三銃士」のダルタニアンや宮本武蔵のように、「コギト・エルゴ・スム、真の自我」に目覚めていた。だから、メガホンや大人数という助けを借りずとも、自分の意志と判断でたった一人で行動できた(自分の心を正しく表明化できた)のだ、と。

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大阪のあるスーパーで、レジの女性との会話。

私 : オレオレ詐欺の被害に遭う人は、東北地方に比べて関西では格段に少ないらしいですね(ネット情報)。やはり、大阪の女性というのはしっかりしているんでしょうか。

レジの女性 : せやけど、大阪のおかんは、還付金詐欺には弱いんや(笑)。


日本拳法で「我(われ)」を確立した女性も「大阪のオバチャン」も、程度の差こそあれ、やはり土性骨がある、のかもしれません。


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