第37話
摩訶不思議 三十七章
一二三 一
隆の「臨死体験」について
お話しします。
正確に言うと臨死体験では
なく「死にかけた」と言う
方が正しいのかも知れません。
(一)
前章で隆の母親の臨死体験についてお話しをさせて頂きました。
これは世に言うところの「臨死体験」に間違いはないと思われます。
隆の場合は若干ニュアンスが違い、この話を聞いた私の感想は臨死体験ではなく、人が死に瀕した時に起き得る現象では無いのかなと思いました。
それは隆が大学生の夏にあった事です。
隆も大学二回生になっています。
大学に入ってから知り合った友達二人と、和歌山県にある海水浴場に海水浴をしに行くことになりました。
霊感体質を持つ隆の元には、類は類を呼ぶとでも言うのでしょうか、本人又は身内に同じような力や経験がある人が集まってくるようです。
海水浴に出かける友達の一人KT君、彼自身も不思議体験はしたことがあるそうですが、後で分かるのですが凄いのは彼のお姉さんでした。
当日は台風一過の良く晴れた日でした。
海水浴場に到着した三人は水着に着替えて海辺へやってきました。
最初は浜辺でビーチボールで遊んでいましたが、熱い日差しを受けて海へ入り泳ぎだします。
台風の後という事で少し波も高かったのですが遊泳禁止とまではなりませんでした。
昼食時にKT君が言います。
「昼飯食べて一息ついたらちょっとだけ沖に出ようや。波打ち際ばっかりでは面白くないやん。」
隆は泳ぐことにかけては水泳部に在籍していた事も有り自信がありました。
しかし台風後の海は波が高く躊躇していましたが、もう一人の友人がOKを出したので、昼食後に少し沖まで泳ぐことになりました。早めの昼食を摂り、直射日光を避けて日陰で
ゆっくりしているといつの間にかうつらうつらと居眠りをしてしまったようです。
嫌な夢を見て目が覚めます。
自分が溺れる夢だったそうで、この後の沖に出る事をためらったそうです。
しかし、他の二人に折角ここまできてるんやからと急かされて仕方なく沖へ出る事になります。
沖といっても100メートルかそこらなので大丈夫だろうと高を括っていたと隆は述懐しています。
百歩譲って、普通の状態の海であればたかだか100メートルという考えがあったとしても、この日は台風の後で波が高い。
その考えは大変な事態を招きかねない。
しかも嫌な夢まで見ています・・・
(二)
いよいよ海に入ることになります。
隆は若干心に引っかかるものがありますが、
他の二人に促されて少し沖を目指して泳ぎ始めました。
この海水浴場は遠浅の場所から急に深くなっています。
台風後の海の力は凄く、特に引き潮の力が普段と比べ物にならない程強く、あっという間に隆達三人を沖に連れて行きます。
気付いた時には遠浅の部分から深くなっているところへ来てしまっていました。
全体的に波は大きく、これ以上沖へ出るのは危険だと隆は思っていたそうです。
「波も強いし、そろそろ浅瀬に戻ろう。」
そう隆が声を掛けた時にKT君に異変が起きたそうです。
「助けてくれ!」
そう言いながらもがいています。
まるで溺れている様に・・・
隆は急いでKT君の側へ泳いで行きました。
「どうした?」と問いかけた隆にKT君はいきなり抱きついてきました。
体格のいいKTに抱きつかれ、二人とも一瞬海中に沈みました。
二人は辛うじて海面に顔を出しました。
KT君は足を攣って泳げなくなり、溺れると思い必死にしがみついて来るのでした。
「力抜いて浮かべ!ゆっくり立ちこぎでいいから!」と隆はKT君に叫びます。
ようやくもう一人の友人が来ました。
助けを呼ぼうにも、周りには隆達三人以外の誰も居ません。船も有りません。
もう一人の友人と話して泳ぎに自信のある隆が岸へ助けを呼びに行くことになりました。
隆は二人に無理せずゆっくりでいいから兎に角浮かんでいてくれと言い残して、岸の方へ助けを求めに全力で泳ぎ始めました。
必死で岸を目指して泳ぐ隆でしたが、
台風明けの波、特に引き潮が強くてなかなか岸に近づいて行きません。
それでも必死に岸を目指して泳ぐ隆でした。
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