第36話
摩訶不思議 三十六章
一二三 一
前章で少し触れた「臨死体験」に
ついてのお話しです。
(一)
世の中には様々な臨死体験の例が報告されています。
日本では「三途の川」がキーポイントになっている様に感じられます。
よくある体験談でも、交通事故に遭って気が付いたら花畑や野原のような綺麗な場所に自分が居て、目の前に小川が流れている。
その小川を自分の後から来た人たちはぴょんぴょん飛び越えて行ってしまう。
自分も飛び越えようとすると先に亡くなっている親族や親せきが来るなと止めたという話が多いようです。
この小川がもっと大きな河で、渡し船に乗るパターンもあるようです。
隆の臨死体験(臨死までは至っていないのかも知れません)はもう少し手前までのところで済んだようです。
隆の話の前に隆が母親から聞いた母親の臨死体験についてお話ししておきます。
九五歳で他界した隆の母親は子供の頃に大きな病気をしたそうです。
はっきりとした事を話さなかったらしいのですが、隆曰くおそらく結核だろうとのことです。今でこそ結核で亡くなる人は少なくなりましたが昔は結核で人がよく亡くなっていました。隆の母親は病気で死地をさまよったことがあったそうです。
ご多分に漏れず、広い野原のようなところに自分がいて、前にも後ろにも沢山人が歩いている。前方に細い小川があって皆そこをまたいで行っている。
(二)
自分も小川の前まで歩いて行き、小川をまたごうとした時に、「七福神の乗った宝船」が流れてきたそうです。育った環境からなのか子供の頃より神信心が強かった母親は
「七福神様が乗っていらっしゃる宝船。ああもったいない。」とまたぐことを止めます。
宝船に手を合わせ見送った後小川を渡ろうとすると、又もや宝船がやってきます。
母親は先程と同じでもったいなくてまたげません。その間にも他の人達は小川をまたいで先へ先へと行ってしまいます。
宝船を見送った隆の母親が小川をまたごうとすると、又もや宝船・・・
「どうなってるんやろう?」
宝船を見送りながらそう思ったそうです。
今度こそと思い、宝船が流れてこないか確認した後で、今度こそと小川をまたぎ越そうと小川を見ながらまたごうとしたそうです。
「S子!」
自分の名前を大きな声で呼ばれて足が止まったそうです。
顔を上げて前を見るとそこには母親が大好きだった亡くなったおじいちゃんが笑顔で立っていたそうです。
母親がおじいちゃんの立っているところへ行こうとして小川をまたぎかけた時、おじいちゃんが言います。
「S子。お前はまだこちらに来てはいけないよ。その川を越えては駄目だ。こちらに来ずに反対方向へ行きなさい。」と。
「でもおじいちゃん、みんな川を越えてそっちに行くよ。私もおじいちゃんのところへ行きたい。」
おじいちゃんは母親に
「絶対に駄目だ。来たらいかん!」と厳しい声でそう言い放ちます。
「絶対に来るな!引き返しなさい!」
おじいちゃんが手振りで何度も何度も戻れと合図しています。
母親はおじいちゃんの言いつけに背いたことは一度もなく、この時も素直に従ったそうです。
(三)
おじいちゃんに言われた通り他の人達とは反対方向に歩いて行きました。
「S子、S子」そう呼ぶ声ではっと気づいた隆の母親。
自宅の布団の上で、家族が心配そうに見守っていたそうです。
お医者さんの「峠は越えました。」という声が聞こえたそうです。
後日その日の事を家族から聞かされ、自分が何度か死にかけていた事を知らされたそうです。あの時他の人達と同じように小川を超えていたら死んでいたのかも知れないと思ったそうです。
そして経験した不思議な宝船の話やおじいちゃんの話を家族にすると、
「おじいちゃんが助けてくれたんやね。」
「おじいちゃんの言う事聞いて良かったね。」
と口々に言います。
母親曰く
「あの時に小川を越えていたらこんなに苦労ばっかりせんでもよかったのになぁ・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます