第33話
摩訶不思議 三十三章
一二三 一
今回は隆がよく利用していた
タクシーのドライバー
K山さんのエピソードです。
(一)
この日仕事で遅くなった隆は電話でK山さんのタクシーを呼びました。
指定した場所に向かうと、すでにK山さんのタクシーが停まっていますが、ドライバーがいません。
辺りを見てみると、コンビニからK山さんが出てきました。
「ああ、すみません。ちょっと早く着いたのでコンビニでコーヒーを買ってました。」
そう言いながら隆にもコーヒーを渡してくれます。
K山さんからコーヒーを貰い車内で飲みながら話す二人。
「隆さん、お久しぶりですね。」
K山さんと知り合ってから毎月コンスタントに深夜帰宅で送ってもらっていたが、この時は二ヶ月くらい空いていた。
「K山さん、お元気そうで何よりです。」
「私は元気なんですけどね・・・」とK山さんが俯き加減で話した。
隆はその仕草を見逃さなかった。
「何か有りましたか・・・」
以前K山さんの奥さんに関して聞いたことがあり、その中で奥さんも見える・聞こえる方で、人工透析を受けている。隆とK山さんの出会いを喜んでいると。
「K山さん、奥さんお悪いのですか?」
「悪いというか・・・亡くなりました。」
「エッ!・・・」
隆はしばし絶句したそうです。
「透析は受けているけど元気だと言われてましたよね。」
「そうなんです。その日も元気でした。」
「交通事故ですか?」
「いいえ。分からないのです。」
「分からない?」
「亡くなってから一月とちょっとです。」
「亡くなった日の朝、何時ものように私が透析病院まで送って夕方迎えに行きました。」
「自宅に連れて帰っていつも通り私は仕事に向かいました。」
「明け方近くに帰宅した時にはもう冷たくなっていました。」
「司法解剖ですか?」
「いいえ。自宅でしたし、争った形跡もないし、人工透析をした後24時間以内ということで司法解剖はしなくて良いとのことでしたから・・・」
「人工透析をした後は何が起きても不思議では無いということらしいです。」
「そうなんですか・・・」
「寂しいでしょ。お子さんは自立されて奥さんと二人だけでしたもんね。」
「ええ。まあショックでした。」
「でもね最初の一週間くらいはよく家に居ましたよ。」
(二)
K山さんの話では亡くなられてからの四~五日はキッチンに立ったり、イスに座っていたり頻繁に現れていたそうで、その都度K山さんは奥さんに語り掛けていたそうです。
「お前はもう亡くなってしまったんだよ。私の事は大丈夫。心配しなくていいから。」
「そちらで待っていてくれ。何れ行くから。」
奥さんが亡くなって三日後に疎遠になっていた親戚から連絡が有ったそうです。
「K山さん、昨日奥さんが急に訪ねてこられて挨拶されて帰られました。」
同じ日に別の親戚からも同様の連絡が入ってK山さんは思ったそうです。
疎遠になっている親戚の元を訪ねてお別れをしているのだと。
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