第32話
摩訶不思議 三十二章
一二三 一
今回も当時隆が居住していた
新興住宅地へ繋がる道路での
エピソードです。
(一)
この日も仕事で遅くなった隆は以前お話ししたK山さん運転のタクシーに乗って大阪市内から自宅へ戻るところです。
この頃の隆は、K山さんのタクシーに乗るとどちらからともなく、これまで経験した不思議な話や、心霊現象の話をしていたそうで、 この夜はK山さんの体験談を聞きながら自宅へと向かっています。
それはこんな話だったそうです。
タクシードライバーのK山さん。
人柄に惚れるお客さんが多く、お得意様と呼べる顧客を結構持っています。
隆が送ってもらっている間にも「何時にどこそこへ迎えに来て欲しい」といった電話がよく入ってきます。
あるお得意様に頼まれて高野山へ向かったそうです。
高野山と言えば高野山真言宗金剛峯寺。
弘法大師・空海によって開かれた真言密教の聖地です。
こちらの駐車場に到着し、お得意様は参拝に行かれたそうです。
待ち時間が結構あるのでK山さんも散策をしようと車外へ出たそうです。
その時K山さんは夏の暑い午後なのに背筋がゾクッとしたそうです。
隆で言うところのザワザワ感と同じものかもしれません。
妙な違和感を背中に感じながら本堂の方へ向かって行くと、ガチャッ、ガチャッという音が後ろから聞こえたそうです。
なんだろうと思い振り返ったそうです。
振り返ったK山さんが見たものは・・・
K山さんの後ろの方から抜き身の刀を下げた鎧武者が近づいて来る姿でした。
さすがのK山さんも生きた心地がしなかったそうです。
その鎧武者は立ちすくむK山さんの横をすり抜け本堂の方へ向かって行ったそうです。
羽柴秀吉の紀州攻めの際にも上手く焼き討ちから逃れた同寺。
本堂へ向かって進んで行く鎧武者を目で追うK山さん。
何事も無いように(普通の人々には見えていないので、何事も無くてあたりまえなのですが・・・)沢山の参拝者がK山さんの周りを通って行く。
一瞬周りを見た時に、本堂へ向かっていた鎧武者の姿が見えなくなった。
K山さんが鎧武者から目を話したのはほんの一瞬だけだったそうだ。
わずか1秒程で姿が消えている。
K山さんの目には抜き身の刀がはっきりとした映像で刻まれている。
(二)
「僕も鎧武者は二度見ています。」
「一度目は京都からの帰り道で、大山崎あたりの裏道の崖。二度目は有名ホテルの一階奥のトイレで。」と隆。
「鎧武者はすごみがありますね。抜き身の刀見た時は本当にぞっとしました。」
「我々マスコミ関係者の間では有名な話があるんです。目撃者も沢山いるんですがあまり大ぴらには話さないですね。あの有名ホテルのすぐ近くにある大きなホールのことを。」
「ああ。あの大きなホールですか?」
「そうです。あそこの警備スタッフが抜群に面白いんですよ。」
「どう面白いんですか。」
「あれだけ大きなホールになると当然大きなコンサートやライブをやりますね。
その時は何日も掛けてステージとか照明・PAなんかを建込みするんですけど、夜間の警備にあのホール独特の警備員がいるんです。」
「独特の警備員ですか?」
「はい。まずはイベント主催者が雇う警備員さん。これは一般的な警備です。」
「高価な機材が沢山ありますからねぇ。」
「この警備員さんたちが巡回した後、深夜に特別な警備員がやってきます。」
「ザッザッザッと団体が歩いているような音がするので警備員さんが見に来ると、旧日本軍の兵隊さんが鉄砲かついで綺麗に整列して歩いていたそうです。その後暫くして戦国時代の足軽の姿をして槍を持った一団が歩いていたそうです。面白い警備員でしょ。」
「ほ~。それは面白い話ですね。」
「私は徹夜とか泊まり込みの建込みに立ち会ったことがないのですが、この話は業界では有名な話だそうです。」
そんな話をしている間にあの霊園の前を通る。今夜は女性の霊は居なかった。
それでも隆はザワザワ感がしている。
「K山さん。いなっかったのにザワザワ感が治まらないんです。」
「隆さん。実は私もゾクッとしています。」
その時二つ目の霊園が近づいて来る。
ほぼ二人同時に
「あっ!あそこ。」と声を上げた。
霊園の入り口は広くなっているのだがその隅に人影のようなものがユラユラ揺れている。
車はあっという間に通り過ぎた。
「あれだったんですね。いつもはあんな所にはいないのに・・・」とK山さん。
車は隆の自宅に着いた。
「気をつけて。おやすみなさい。」
K山さんの車を見送る隆。
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