第22話

摩訶不思議 二十二章

一二三 一



H温泉での話に出てきたS社のU君の

身に起きたお話です。


(一)

中国地方に本社を構えるS社。こちらの大阪支社に営業として転勤してきたU君。

大阪で仕事をするうちに隆やKさんと馬が合い、仲良くなって色々な話をする様になったそうです。

折りに触れて隆の霊感体質や心霊能力に興味を持っていました。

そんなU君がお盆休みでO県の実家に里帰りした時にそれは起こったそうです。

 U君がお盆休み明けに郷土の菓子を土産に隆の会社を訪れとそうです。

その時、隆はU君の表情に微妙な変化が有る事を見逃しません。

「U君、お茶行こか。」と隆。

二人はビルの一階にある喫茶店に入った。

「U君。どうしたん?何か言いたい事が有るんと違うか?」隆の言葉に目を見張るU君。

「何か分かるんですか?」

「実家で何か有ったやろ?それもU君にしたら気持ち悪い系のことやな。」と隆。

「そうなんです。不思議と言うか、気持ち悪いというか・・・」

U君の話を聞いていた隆の頭の中に、若い女性の姿が浮かんだそうです。

髪を結って着物を着ている姿だそうです。

 「若い女の人が何か関係しているんとちがうかな?」隆の言葉にU君の顔が引きつっていきました。

「そ、そうなんです。何で分かるんですか?実家で起きたことは僕はまだ一言も話してないですよね。」

「頭の中に髪を結った若い着物を着た女性が浮かんだんよ。」

そう言った時にザワザワ感が湧いてきた。

しかし、嫌な感じはしていない。これはU君の話に関係あるのかもしれないなと隆は感じたそうで、U君の言葉を待った。


(二)

実家でお盆休みを過ごして車で大阪に戻ってきたU君。昨日説明のつかない不思議なことを体験したと話し始めた。

U君の実家はO県の田舎町。古いしきたりも残っている。この日もお盆の行事を本家に一族が集まって行なったそうだ。

何かしら墓所に手を入れる事となり、若手のU君が作業をする羽目になった。

墓所のある所を掘っているとガチっと固いものにスコップが当たったそうで、何があるのかと掘り進めると、墓石のようなものが土中より現れた。驚く一同。

「どうしてこんなところにそんな物があるんだろう」と・・・本家の誰一人としてこの石について知っている者はいなかった。

長老格の人が憤慨した様子で

「誰が当家の墓所にこんな石を埋めたんや」と語気を強める。

U君はまあまあと長老格の人をなだめながらその石を起こした。

びっしりと土がついている。

よく見ると何か文字が刻んであるようなので土を払い、水をかけて綺麗にしたそうだ。

そこにはある女性の名前が刻まれていた。

「〇〇って書いてあるけど」とU君が本家の人間に問いかけた。

誰も知らないらしい。

土中から掘り起こし、綺麗にしてからものの10分程経っただろうか。

石に刻まれていた名前が忽然と消えたそうである。その場に居た皆が凍り付いた。

不思議なことがあるものだと口々に話している。長い時間土中にあって、急に空気に触れしかも水で洗われたから急激な風化が起きたんじゃないかということでその場は落ち着いたそうです。

その後本家に戻り系図を辿ると、先程の石に刻まれていた女性の名前が有りました。

江戸時代に十代の若さでこの世を去っているのですが、どこに眠っているのかは分かりませんでした。

一同はさっきの石はこの娘の墓石やったんやな。じゃあ墓所の中に立ててあげようということになったそうです。

話を聞き終えた隆にU君が尋ねます。

「どう思います?」


(三)

 「どうもこうも無いよ。その娘さんはU君が掘り起こしてくれたことに凄く感謝している。長い間土中に忘れられていて寂しかったみたい。でももう浮かばれるって。名前が消えていったのもそういうことみたい。」

「祟ったりせんですか?」とU君。

「無いない。さっきも言ったけど、凄く感謝しているから大丈夫。それにU君が気付いてくれたら本望らしいで。」

「なんでそんな事分かるんですか?」

「君の後ろで嬉しそうにしてるから」と隆。

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