第23話
摩訶不思議 二十三章
一二三 一
前章に続き隆のサラリーマン時代の体験
についてお話しをします。
(一)
隆は大学を出て社会人一年目を迎えます。
学生とは違い会社という組織の一員として、新しい生活に戸惑いと充実感を感じている毎日だったそうです。
入社半年が過ぎた頃のある日、現在でいうテレフォンアポインタ―のような職場で仕事をするために立ち寄った時に、その部署のある席の前を通った時の事です。その席は隆が入社以来空席のままだったそうです。
「あれっ?この臭いは・・・」
隆はその場所で死臭を感じたそうです。
仕事でよくその部署に行く隆でしたが、入社以来一度もそんな臭いを感じた事は無かったそうです。これも隆の能力の一つです。
人の死を察知する・・・
隆にとっては余り嬉しい力では無かったそうですが、分かるものは仕方が無いと諦めていたそうです。
その部署で仕事を済ませ自席へ戻ろうとして空席の前を通り掛かった時、またも死臭がします。
「おかしいなあ・・・」
と思いながらその部署を後にして、自席へ戻った隆。
自分の部署の先輩に尋ねる事も出来ません。
「会社の中で死臭がする。」等と話しても変人扱いされるだけです。
お昼になり昼食に出かけましたが、例の死臭が気になって仕方が有りません。
午後もあの職場で仕事が有るので、その時に死臭がしなかったら何か別の臭いを勘違いしたのだろうと思う事にしたそうです。
ただ、隆は今までこの死臭を間違ったことは一度も有りませんでした。
(二)
ランチタイムも終わり午後の仕事が始まります。問題の職場へ隆は向かいます。
例の空席の前を通り掛かった時、やはり死臭を感じます。
「やっぱりするな・・・。何でかな?」
「この席は俺が入社してからずっと空席のままやしなぁ。」
怪訝そうな顔をしている隆にその部署のリーダー格の女性が尋ねます。
「隆さん、どうしたん?浮かない顔して。」
「何かあったん?」
「あっ、すみません。何でもないです。」とその場を取り繕って仕事を済ませます。
自席へ戻ろうとする隆でしたがやはり死臭を感じています。
「おかしいなぁ・・・」
その言葉を聞きつけた先程のリーダー格の女性が隆に尋ねます。
「何がおかしいの?」
「いやぁ・・・こんな事を話して信じてもらえるか分かりません。馬鹿にされるか気持ち悪がられるのがおちやと思うんですけど。」と隆が言うと「大丈夫。馬鹿にもしないし、気持ち悪がったりもしないから、何がおかしいのか話してみて。」と返事が返ってきた。
隆も腑に落ちないので意を決して死臭がする事を話そうと思ったそうです。
「実は、午前中にこちらに来た時に、あの空席の前を通ったら死臭がしたんです。」
「死臭!何それ?」
隆は自分の能力をその女性に話してみたそうです。その女性は
「そう。不思議な力を持っているんやね。」と否定はしませんでした。隆は話を続けます。
「午後に来て何も臭わなかったら気のせいにするつもりでしたけど、やっぱりあの席の前を通ると死臭がするんです。」
「それでおかしいなと・・・」
「そうなんや。そんな臭い私には分からへんけどね。あっ!今日は・・・」
女性リーダーの顔が強張る。
「何かありました?」と隆。
「うん。思い当たる事があるわ。隆さんのその力は本物やと私は思うわ。」
「何があったんですか?」と隆。
「あの席、ずっと空席でしょ。あの席にいた女性が去年の丁度今日、自殺したんよ。」
「命日です。今日が・・・」
隆の中で疑問が解けた。
ただその席に座っている女性は見えなかったそうで、こんなこともあるのかとつくづく迷惑な能力だと思ったそうである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます